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転生した黒猫は悪役令嬢を改造したい 〜極悪非道のはずのお嬢様が、ただの不器用ポンコツだったので断罪エンドを全力で回避します!〜  作者: ゼロブロ
終章 転生黒猫は、悪役令嬢を改造した

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52/58

第52話 悪役令嬢だった少女の、その後

完結確定。

毎日朝7時に更新します。

よろしくお願いします。

 星祝祭の舞踏会から、ひと月が過ぎた。


 季節は少しずつ移ろい、学院の庭には新しい花が咲き始めている。

 あの夜、大広間で起きたことは、王都中に広まった。

 もちろん、噂として。


 ただし、今回は以前とは違う。

 シルビアを悪く切り取る噂ではない。


 王太子殿下が、グランベル公爵令嬢との婚約継続をはっきり宣言した。

 聖女候補リーナ様が、自分の意思でシルビア様の友人だと語った。

 ローヴェル伯爵家と神殿派閥の一部に、不審なつながりがあった。

 クラリス・ローヴェル嬢が、シルビア様を陥れようとしていたらしい。

 グランベル公爵家が、本気で怒った。

 最後が一番怖い。


 実際、王都の貴族社会では、しばらくグランベル公爵家の話題でもちきりだった。

 怒鳴ったわけではない。

 兵を動かしたわけでもない。

 社交界で泣きわめいたわけでもない。

 ただ、証拠を並べた。


 静かに。

 正確に。

 逃げ道を塞ぐように。

 貴族社会が震えた。


 その結果、ローヴェル伯爵家は一気に追い込まれた。

 伯爵は、娘の暴走だ、使用人の単独犯だ、自分は知らなかった、と主張したらしい。

 しかし、金の流れ、使用人の紹介状、神殿派閥との接触記録、そしてマリナの手紙。

 それらが積み上がるにつれ、主張は崩れていった。


 ローヴェル伯爵家は、しばらく社交界から遠ざかることだろう。

 伯爵自身も王家から正式な処分を受ける予定だ。

 クラリスは、修道院へ送られることになった。

 すぐにではない。

 取り調べを終え、関与の範囲を明らかにしてから。


 彼女がどこまで直接命じ、どこから父や神殿派閥が関与したのか。

 そこは、まだ調査中らしい。

 けれど、少なくとも彼女が噂を操作し、リーナとシルビアの関係を利用しようとしたことは明らかになっている。

 シルビアは、その知らせを聞いたとき、しばらく黙っていた。


 私は彼女の膝の上にいた。

 もう療養クッションからは卒業した。

 完全復活、とは言えないが、部屋の中を自由に歩き、廊下も少しなら歩けるようになった。

 階段はまだ止められている。

 過保護である。

 シルビアは窓の外を見ながら、小さく言った。


「クラリスは、わたくしのことが嫌いだったのでしょうか」

 私は尻尾を揺らした。

 難しい質問だ。

 嫌いだった。

 たぶん。

 でも、それだけではなかった。


 羨ましかった。

 悔しかった。

 認められたかった。

 欲しかった。

 そういう感情がぐちゃぐちゃに絡まって、毒になったのだろう。

 私は鳴いた。


「にゃ」

 シルビアは私を見る。

「分からない、ということですか?」

「にゃ」

 そんな感じ。

 シルビアは少しだけ笑った。


「あなた、時々とても都合よく返事をしますわね」

 猫なので。

 便利なときだけ通じる。

 シルビアは私の背を撫でた。


「わたくしも、クラリスのことをちゃんと見ていなかったのかもしれません」

 私は彼女を見上げる。

 シルビアは続けた。

「でも、だからといって、あの子のしたことをなかったことにはできません」


 その声は静かだった。

 悲しさもある。

 だが、昔のように全部を自分のせいにしているわけではない。

 それは、とても大きな変化だった。


「リーナ嬢を利用しようとしたことも、あなたを傷つけたことも、許せません」

「にゃ」

 その通り。

 特に私を傷つけた件については、魚三年分くらいの補償が必要である。

 いや、三年は多いか。

 でも、命一つ分である。

 魚の量で言えば相当だ。

 シルビアは私の頭を撫でる。


「あなたは、もう平気ですの?」

「にゃ」

 平気。

 大丈夫。

 たぶん。

 私はそう伝えたつもりだった。

 シルビアはすぐに眉を寄せた。


「また曖昧な返事を」

 鋭い。

 最近、シルビアは私の鳴き声に対する読解力が上がっている。

 これは喜ばしいが、逃げ道が減るという意味でもある。

 私は視線をそらした。

 シルビアはため息をつく。


「本当に、無茶はしないでください」

「にゃ」

 努力します。

「努力ではなく、約束です」


「にゃ」

 難しい。

 シルビアの目が鋭くなる。

 私はすぐに喉を鳴らした。

 ごまかしである。

 そのとき、扉が叩かれた。


 入ってきたのはリーナだった。

 最近、彼女はよくシルビアの部屋へ来る。

 神殿派閥の調査が進む間、リーナは王家とグランベル公爵家の保護下にあり、学院での行動も以前より慎重になっている。

 だが、彼女は暗くなりすぎなかった。

 むしろ、少しずつ強くなっているように見える。


「シルビア様、ノワールさん」

「リーナ嬢」

「にゃ」

 リーナは手に小さな籠を持っていた。


「神殿の子どもたちから、お手紙が届いたんです」

 シルビアの表情が少し柔らかくなる。

「護符のお礼ですか」

「はい。あのとき渡した護符を、とても大事にしてくれているそうです」

 リーナは籠から何通かの手紙を出した。

 子どもたちの字は少し不揃いだった。

 でも、一生懸命書いたのが分かる。


 ありがとう。

 こわいゆめをみたときに、にぎっています。

 ほしのもようがすきです。

 くろねこさんにもありがとう。


 黒猫さんにもありがとう。

 私のことである。

 私は胸を張った。

 胸がジンとした。

 功労猫である。

 シルビアが手紙を読みながら、小さく笑った。


「ノワールにも、お礼が書かれていますわ」

「にゃ」

 読めます。

 私は文字が読める猫である。

 だが、言うと面倒なので鳴くだけにしておく。

 リーナは嬉しそうに言った。


「あの護符、ちゃんと届いてよかったです」

 シルビアは頷く。

「ええ」

 それから、少し間を置いて言った。

「あなたが作ったものが、誰かを安心させているのですね」

 リーナの目が揺れる。

「はい」

 シルビアは手紙を丁寧に戻した。


「リーナ嬢。あなたは、神殿派閥の駒ではありません」

 以前にも似た言葉を言った。

 だが、今回は少し違う。


「あなたが作ったものも、あなたの言葉も、あなたの選択も、誰かのものではありません」

 リーナは唇を噛んだ。

 そして、深くうなずいた。

「ありがとうございます」

 シルビアは少しだけ顔を赤くする。


「どういたしまして」

 以前なら、このやり取りにもぎこちなさがあった。


 今も少しある。

 だが、そのぎこちなさは、怖さではなく、照れに近い。

 リーナはもう、シルビアの言葉を怖いだけでは受け取らない。

 シルビアも、リーナに向ける言葉を少しずつ選べるようになっている。


 悪役令嬢とヒロイン。

 そんな役割は、もうここにはない。


 ここにいるのは、不器用な公爵令嬢と、強くなり始めた聖女候補。

 そして、友達。

 私は窓辺へ移動しようとして、シルビアに止められた。


「ノワール、走らない」

「にゃ」

 歩いています。

「今、走りかけました」

「にゃ」

 ばれている。

 リーナがくすくす笑う。


「ノワールさんも、少しずつ元気になっていてよかったです」

 私はしっぽを立てた。

 当然だ。

 まだまだやることがある。


 シルビアの見守り。

 リーナとの友情監督。

 アレクシスとの恋愛進捗確認。

 公爵家の過保護対策。

 魚の確保。


 忙しい。

 黒猫の一日は長い。

 シルビアは窓の外を見た。

 庭には、白い花が咲いている。

 かつてリーナと一緒に見た花とは違う種類だが、風に揺れる姿は少し似ていた。


「リーナ嬢」

「はい」

「また、花を見に行きませんこと?」

 自然な誘いだった。

 命令形ではない。

 上からでもない。

 ちゃんと、誘いだった。

 リーナの顔がぱっと明るくなる。


「はい。ぜひ」

 シルビアは少し照れたように視線をそらす。

「ノワールがもう少し歩けるようになったら、一緒に」

「にゃ」

 もう歩けます。

「まだです」

 厳しい。


 だが、悪くない。

 悪役令嬢だった少女の、その後。

 それは、華々しい勝利だけではない。


 後始末がある。

 傷がある。

 許せないことがある。

 忘れられない怖さがある。

 でも、それだけではない。


 友達と花を見る約束がある。

 届いた手紙に笑う時間がある。

 猫を心配しすぎる日常がある。


 断罪されるはずだった少女は、今日も少し不器用に生きている。

 そして私は、そのそばにいる。


 黒猫ノワール。

 悪役令嬢断罪エンド回避担当。

 任務完了後の追加任務。


 シルビアの幸せを、引き続き監視すること。

 これは、なかなか終わりそうにないし、終わりたくない。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


続きが何か気になる、面白いと思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると、とても嬉しいです。

黒猫一匹と作者が喜びます。

ありがとうございました!

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