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転生した黒猫は悪役令嬢を改造したい 〜極悪非道のはずのお嬢様が、ただの不器用ポンコツだったので断罪エンドを全力で回避します!〜  作者: ゼロブロ
終章 転生黒猫は、悪役令嬢を改造した

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51/58

第51話 王太子、直球で告白する

完結確定。

毎日朝7時に更新します。

よろしくお願いします。

 温室は静かだった。


 夜に咲く白い花が、月明かりを受けて淡く光っている。

 外から聞こえるのは、風が木々を揺らす音だけ。

 星祝祭の大広間とは違う。

 人々の視線もない。

 噂もない。

 社交辞令もない。


 ここにいるのは、アレクシスとシルビア。

 そして私。


 なぜ私がいるのか。

 当然、監督だからである。

 恋愛方面最終修正担当、黒猫ノワール。


 ただし、体調面の都合により、シルビアの腕の中から見守る形である。

 アレクシスは、少し緊張した顔をしていた。

 王太子として大広間で宣言したときより、今の方が緊張しているように見える。


 それはそうだろう。

 大勢の前で政治的に婚約継続を宣言するのと、一人の少女に好きだと伝えるのは、別の難しさがある。

 私は心の中でうなずいた。

 分かる。


 前世の私はお一人様だったので少々怪しいが、バグ報告より告白の方が難しいことくらい分かる。

 いや、重大障害の本番報告もかなり胃が痛いが。

 だが今は恋愛である。

 アレクシスは口を開いた。


「シルビア嬢」

「はい」

 シルビアは少し背筋を伸ばす。

 完全に公的な話を聞く姿勢だ。

 違う。

 今回は公的ではない。

 アレクシスもそれを感じ取ったのか、少しだけ苦笑した。


「そんなに緊張しなくていい」

「ですが、殿下が大切なお話をされると」

「大切ではあるけど、会議ではないよ」

「会議ではない……」


 シルビアが真面目に考え込む。

 そこを考えるのか。

 私は腕の中で小さく鳴いた。

「にゃ」

 リラックス。

 シルビアは私を見た。


「ノワールまで」

 アレクシスが少し笑う。

 彼は一歩、シルビアへ近づいた。


「星祝祭で、私は君との婚約を解消するつもりはないと言った」

「はい」

 シルビアの顔が少し赤くなる。


「その件でしたら、王家と公爵家の関係を明確にするために必要なご発言だったと理解しています」

 出た。

 政治的解釈。

 アレクシスは一瞬、目を閉じた。

 私は思った。

 頑張れ。

 ここからだ。

 レオンハルト兄の助言を思い出せ。

 アレクシスは目を開ける。


「違う」

 短く言った。

 シルビアが瞬きをする。


「違う、とは?」

「王家と公爵家の関係のためだけじゃない」

 お。

 いい。

 アレクシスは続けた。


「婚約者としての責任だけでもない」

 シルビアが少し固まる。

「昔の態度への償いでもない」

 先回り。

 素晴らしい。

「政治的な判断だけでもない」

 完璧。

 選択肢を潰している。

 シルビアの顔にあるのは、混乱。


「では……」

 アレクシスは、真っ直ぐ彼女を見た。

 そしてシルビアの白く華奢な手を取った。


「君が好きだからだ」

 言った!

 ついに言った!

 直球!

 正面!

 よし、逃げ道なし!


 私は心の中で大拍手した。

 王太子、やった。

 非常によくやった。

 シルビアは固まった。

 本当に固まった。

 瞬きもしない。

 私は腕の中で不安になった。


 受信しているか?

 処理落ちか?

 再起動が必要か?

 数秒の沈黙。


 ……長い。

 かなり長い。

 アレクシスも緊張している。

 やがて、シルビアが小さく口を開いた。


「……どなたを?」

 私は目を閉じ、天を仰いだ。

 きた。

 やはりそこからか。


 大丈夫、想定内。

 完全に想定内。

 だが、実際に聞くと破壊力がある。

 アレクシスは一瞬だけ固まった。

 しかし、レオンハルト兄の助言が効いていたのだろう。


「君を」

 シルビアが瞬きをする。

「わたくしを?」


「シルビア・グランベルを」

 かなり明確。

 いいぞ。

 シルビアは私を見た。

 助けを求めるな。

 これは自分で受け取れ。

 私は短く鳴いた。


「にゃ」

 君だ。

 シルビアはまたアレクシスを見る。


「殿下は……わたくしを、お好きなのですか?」

「そうだ」

「婚約者だからではなく?」

「違う」

「昔、わたくしを怖がっていらしたことへの償いでもなく?」

「違う」

「王家と公爵家の関係を円滑にするためでもなく?」

「違う」

「星祝祭での件の責任でもなく?」

「違う」


 ……確認が多いな。

 アレクシスは一つずつ答えている。

 偉い。

 かなり偉い。

 私はアレクシスを見直した。

 シルビアは、まだ信じられない顔をしている。


「ですが、殿下は昔、わたくしのことを苦手に思っていらしたでしょう」

 アレクシスの表情が少し痛む。


「思っていた」

 正直。


「君の目つきや言葉を怖いと思っていた。君が何を考えているのか見ようとしなかった」

 シルビアの手が、私の背で少し止まる。

 アレクシスは続ける。


「君を傷つけたと思う。すまなかった」

 シルビアは目を伏せた。


「……わたくし、殿下のことが好きでしたのよ」

 声は小さかった。

 アレクシスの目が見開かれる。

 私も息をのむ。

 言った。

 シルビアが、自分から。


「子どもの頃。殿下にお会いするのが楽しみでした。でも、殿下はいつも、わたくしを見ると少し困った顔をなさって」

 シルビアの声が少し震える。


「わたくしは、殿下に嫌われているのだと思いました」

 アレクシスは何も言わない。

 ただ、聞いている。


「だから、諦めました。婚約は公爵家の娘としての務めですもの。愛されなくても、役目を果たせばよいのだと」

 胸が痛い。

 私はシルビアの腕の中で、そっと身じろぎした。


 この子は、七歳の頃からずっと、そうやって自分の気持ちをしまってきたのだ。

 公爵家の娘だから。

 王太子の婚約者だから。

 嫌われていても、役目を果たせばいい。

 アレクシスは静かに言った。


「遅すぎたと思う」

 シルビアが顔を上げる。


「君がそう思うようになったのは、私のせいだ」

「殿下だけのせいでは」

「それでも、私に責任がある」

 アレクシスの声は真剣だった。

「だから、今さらかもしれない。でも、もう一度言わせてほしい」

 彼は一歩近づいた。


「私は、君が好きだ。シルビア」

 シルビアの目が揺れる。


「今の君が好きだ。昔の君をちゃんと見なかったことを後悔している。これからの君を、隣で見ていたい」

 直球。

 かなり強い。

 私は完全に静観モードに入った。

 もう靴ひもは卒業か。

 王太子、合格である。


 シルビアは、どう答えればいいのか分からない顔をしていた。

 それでも、逃げなかった。


「わたくしは、まだ上手に話せません」

「知っている」

 即答。

 シルビアが少しむっとした。

「そこは、少しは否定なさっても」

「ごめん。でも、そこも含めて君だから」

 シルビアの顔が赤くなる。


「わたくしは、誤解されやすいです」

「それも知っている」

「言い方も、よく間違えます」

「うん」

「また、ノワールに怒られるかもしれません」

「それは僕も一緒に怒られるかもしれない」

「にゃ」

 その通り。

 二人まとめて監督対象である。


 シルビアは少しだけ笑った。

 本当に小さな笑み。

 緊張と戸惑いの中に、柔らかさがあった。


「殿下は、変わられましたわね」

「君も変わった」

「そうでしょうか」

「うん」

 アレクシスは優しく言った。


「でも、変わっても変わらなくても、私は君が好きなんだ」

 だめ押し。

 かなり強い。

 シルビアの顔が真っ赤になった。

 私は思った。

 これはさすがに伝わっただろう。


 いや、伝われ。

 これで伝わらなかったら、もう猫の手ではどうにもならない。

 シルビアは長い沈黙のあと、小さく言った。


「……努力なさるのなら」

 出た。

 シルビア語。


「見ていて差し上げます」

 アレクシスが一瞬固まる。

 私はすぐに鳴いた。


「にゃ」

 合格。

 それは、かなり照れた肯定です。

 アレクシスは少し笑った。


「うん。努力する」

 シルビアは顔をそらす。


「簡単には、信じませんわ」

「それでいい」

「わたくしは、面倒な女です」

「知っている」

「殿下」

「あ、ごめん」


 私は喉を鳴らした。

 いい。

 非常にいい。

 アレクシスは、もう一度シルビアを見た。


「もう一つだけ」

「まだ何か」

「君に、もう一度私を好きになってもらえるように努力したい」

 シルビアの表情が、少しだけ止まる。

 それから、目を伏せた。


「……もう一度、ではありません」

 アレクシスが息をのむ。

 シルビアはとても小さな声で言った。


「きっと、ずっと完全には諦めきれていませんでした」

 温室が静かになった。

 白い花が月明かりに揺れる。

 アレクシスの顔が、ゆっくり赤くなった。

 王太子、今度はそちらが処理落ちしている。


 私は内心で笑った。

 よし。

 お互い処理落ち。

 恋愛イベントとしては非常に良い。

 シルビアは慌てたように言った。


「い、今のは忘れてくださいませ」

「忘れない」

「忘れなさい」

「無理だ」

「殿下」

「無理だよ、シルビア」

 また名前呼び。


 シルビアがさらに赤くなる。

 私は喉を鳴らした。

 恋愛方面最終修正。

 完了。


 いや、完全完了ではないかもしれない。

 この二人は今後も何度もすれ違うだろう。

 シルビアは照れ隠しに硬い言葉を使うし、アレクシスは時々遠慮しすぎるかもしれない。

 だが、もう大丈夫だ。


 言葉は届いた。

 初めてちゃんと。

 温室から戻る頃、シルビアは私を抱いたまま、ずっと無言だった。

 顔はまだ赤い。

 私は見上げる。


「にゃ」

 よかったな。

 シルビアは小声で言った。


「ノワール」

「にゃ」

「あなた、最初から分かっていましたのね」

「にゃ」

 まあ。

 かなり前から。

 シルビアは小さくため息をついた。


「そういうときこそ、早く教えてほしかったですわ」

 無茶を言う。

 私は猫である。

 猫にできることは少ない。


 噛む。

 鳴く。

 靴ひもをほどく。

 変なタイミングで邪魔をする。


 だが、恋愛感情を翻訳するには、さすがに限界がある。

 それでも。

 ここまで来た。


 悪役令嬢は断罪されず。

 ヒロインは友達になり。

 王太子は直球で告白し。

 シルビアは、少しだけ自分の恋心を取り戻した。


 私は黒猫ノワール。

 悪役令嬢断罪エンド回避担当。


 任務達成。


 今度こそ、そう言ってもいいかもしれない。


 ただし。

 明日から、二人の甘酸っぱいやり取りを間近で見守る任務が始まる。


 それはそれで、かなり大変そうである。

 が、かなり楽しみでもある。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


続きが何か気になる、面白いと思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると、とても嬉しいです。

黒猫一匹と作者が喜びます。

ありがとうございました!

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