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転生した黒猫は悪役令嬢を改造したい 〜極悪非道のはずのお嬢様が、ただの不器用ポンコツだったので断罪エンドを全力で回避します!〜  作者: ゼロブロ
終章 転生黒猫は、悪役令嬢を改造した

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49/58

第49話 断罪のあとに残ったもの

完結確定。

毎日朝7時に更新します。

よろしくお願いします。

 断罪は終わった。


 いや、正確には、断罪されるはずだったシルビアが断罪されず、断罪しようとした側が断罪対象になった。


 ややこしい。

 前世の私なら、イベント名をこう付ける。

 断罪イベント改め、断罪返しイベント。


 あるいは。

 悪役令嬢冤罪回避・証拠提出フェーズ。

 後者は長い。

 ゲームのイベント名としては不採用である。


 星祝祭の舞踏会は、あのあと予定より早く閉会となった。

 当然だ。

 大広間で魔法糸の罠が見つかり、ローヴェル家と神殿派閥の関与が疑われ、クラリスが騎士に連れていかれたのだ。

 そのまま「では、皆様、ダンスの続きを」などと言える空気ではない。

 星の魔法灯だけが、最後まで静かに揺れていた。


 シルビアは、会場を出るまでずっと私を抱いていた。

 腕に力が入っていた。

 緊張していたのだと思う。


 あれだけ多くの人の前で、自分の弱さも、過去の失敗も、これから直したいという意思も話した。

 シルビアにとっては、馬車事故とは別の意味で、とても怖かったはずだ。

 私は彼女の腕の中で、喉を鳴らし続けた。


 大丈夫。

 よく言えた。

 とてもよく言えた。

 猫の喉鳴らしに、それだけの意味が伝わるかは不明だ。


 だが、シルビアは少しずつ落ち着いていった。

 別邸に戻ると、グランベル公爵家は再び静かに動き始めた。


 父公爵は、王家と連携して正式な調査の手続きを進める。

 ローヴェル伯爵家への照会。

 神殿派閥への調査命令。

 学院側への報告書提出。

 証言者の保護。

 証拠品の保管。

 すべてが淡々と進む。

 淡々としすぎて怖い。


 公爵夫人は、社交界に流れるであろう噂の対処を始めた。

 ただし、彼女は噂を力ずくで押さえ込まない。

 それよりも早く、正しい話を自然に流す。


 星祝祭で何があったのか。

 リーナが自分の意思で証言したこと。

 シルビアが自分の言葉で立ったこと。

 王太子が婚約継続を明言したこと。

 クラリスの関与が疑われていること。

 それらが、「確かな話」として広がっていく。


 怖い。

 人の噂、伝聞とは恐ろしい凶器となり得る。

 そして母、非常に怖い。

 お茶会とは情報戦、言わば戦いなのである。


 レオンハルトは若い貴族たちの証言を整理していた。

 クラリスに噂を聞かされた者。

 桃色令嬢のように利用された者。

 慈善会や勉強会で実際にシルビアを見ていた者。

 星祝祭で何を見たか証言できる者。

 兄はそのすべてを、驚くほど丁寧に聞いていた。


 昔なら「堂々としていればよい」と言っていた兄が、今は「相手が何を見て、何を聞き、どう受け取ったか」を確認している。

 アップデートがすごい。

 私は少し感動した。

 そしてリーナ。


 彼女は神殿関係者から一時的に距離を置くことになった。

 神殿そのものを拒絶するのではない。

 リーナの育った場所をすべて悪者にしないためにも、王家と公爵家は慎重だった。

 ただ、特定派閥からの接触は制限される。

 リーナ本人も、それを受け入れた。


「怖いですけど、知らないままの方がもっと怖いので」

 そう言ったリーナは、以前より少し大人びて見えた。

 ヒロインは、もう誰かの物語の駒ではない。

 自分の足で立ち始めている。


 そして、クラリス。

 彼女は別室で事情聴取を受けた。

 すぐにすべてを認めたわけではないらしい。

 当然だ。

 クラリスは頭がいい。

 自分が直接指示した証拠と、周囲が勝手に動いたものを切り分けようとするだろう。


 しかし、逃走した従僕の証言。

 マリナの手紙。

 ローヴェル家の金の流れ。

 神殿派閥との接触。

 そして星祝祭での本人の発言。

 それらを合わせれば、もう無関係では済まない。


 ローヴェル伯爵家にも調査が入った。

 伯爵は最初、娘も自分も知らない、使用人が勝手にしたことだと主張したらしい。

 だが、グランベル公爵が用意した書類の前で、主張は少しずつ崩れていった。


 父公爵、本当に怖い。

 法を乱さず、法を使う。

 この言葉の重さを、ローヴェル伯爵家は今ごろ実感しているだろう。


 そんな慌ただしい後始末の中、シルビアはしばらく学院を休むことになった。

 星祝祭で大きな役目を果たしたとはいえ、馬車事故の傷も、心の疲れも残っている。

 それに、私もまだ完全復活ではない。

 療養継続である。

 ただし、シルビアの過保護は少しだけ緩んだ。


「ノワール、部屋の中なら歩いても構いません」

「にゃ」

 廊下は?

「まだだめです」

「にゃ」

 階段は?

「論外です」

 論外。

 猫に厳しい。


 しかし、部屋の中を歩けるのは大きな進歩だ。

 私は窓辺へ移動し、日向で丸くなった。

 シルビアは机に向かっていた。

 星祝祭後に届いた手紙を読んでいる。

 いくつかは謝罪だった。


 噂を信じていた令嬢から。

 勉強会に参加した生徒から。

 慈善会で助けられた子どもの付き添いから。

 学院の教師から。

 シルビアは一通ずつ、丁寧に読んでいた。

 表情は固い。

 そして少し戸惑っている。


「ノワール」

「にゃ」

「謝罪の手紙が、多いですわ」

 そりゃそうだ。

 皆、シルビアを誤解していたのだ。

 中には噂を信じ、流していた者もいるだろう。


「どう返せばよいのでしょう」

 私はしっぽを揺らした。

 難しい。

 猫は手紙を書けない。

 いや、前世なら書けた。

 だが今は肉球である。


 シルビアはしばらく考え、白い便箋を取った。

 そして、ゆっくり書き始める。

「ご丁寧なお手紙をありがとうございます。わたくしにも、誤解を招く言動があったことは事実です。今後は、より伝わる言葉を選べるよう努めます」

 おお。

 良い。

 非常に良い。

 シルビアは続けて、少し迷った。

 それから、小さく笑った。


「……でも、噂だけで判断されるのは、少し悲しかったです」

 彼女はその一文を書き、しばらく見つめた。

 消すかと思った。

 だが、消さなかった。

 私は喉を鳴らした。

 それでいい。

 悲しかった。

 そう書いていい。

 シルビア自身の気持ちと言葉。


 シルビアは傷ついたのだから。

 強くあるだけが、公爵令嬢ではない。


 その日の夕方、リーナが見舞いに来た。

 シルビアは彼女を部屋へ招き入れた。


「リーナ嬢」

「シルビア様。ノワールさんも」

「にゃ」

 元気です。

 リーナは私の前にしゃがみ、笑った。


「顔色……猫色? 少し良くなりましたね」

 猫色とは。

 わかるのか?

 まあ私は黒いが。

 リーナはシルビアを見る。


「星祝祭のあと、大丈夫ですか?」

 シルビアは少し考えた。

 以前なら「平気です」と即答しただろう。

 だが、今は違う。

「大丈夫ではありませんでした」

 正直。


「ですが、少しずつ落ち着いています」

 リーナはほっとしたように微笑んだ。

「よかったです」

 シルビアはリーナを見た。

「あなたは?」

「私も、まだ怖いです。でも、シルビア様が一緒に立ってくださったので」

 リーナは少し照れたように笑った。


「一人じゃないと思えました」

 シルビアの顔が赤くなる。

「それは、わたくしも同じです」

 言った。

 私は目を丸くした。

 シルビアが自分から、同じだと言った。

 リーナも嬉しそうに目を丸くする。 


「シルビア様」

「……何ですの」

「私たち、友達ですね」

 直球。

 リーナは本当に直球がうまい。

 シルビアは完全に固まった。


 友達。

 言葉としては、すでにほぼ成立している。

 花壇でも、勉強会でも、星祝祭でも。

 だが、こうして面と向かって言われると、シルビアの処理能力を超えるらしい。

 シルビアはしばらく黙り、視線をそらした。


「……そう、なのでしょうね」

 遠回り。

 だが肯定だ。

 リーナはぱっと笑った。


「はい!」

 私は窓辺で喉を鳴らした。

 断罪のあとに残ったもの。


 傷。

 調査。

 後始末。

 壊れた関係。

 明らかになった悪意。


 それだけではない。

 残ったものもある。


 信頼。

 友達。

 家族の愛。

 王太子の直球。

 そして、シルビア自身の言葉。


 悪役令嬢ルートは折れた。

 でも、シルビアの物語はまだ続く。


 私は黒猫ノワール。

 悪役令嬢断罪エンド回避担当。

 任務はほぼ達成。


 ただし、最後に大きなバグが残っている。

 シルビアが、アレクシスの好意をまだ完全に理解していない。


 恋愛方面の最終修正。

 これは、猫の手だけでは少し厳しいかもしれない。


 難局である。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


続きが何か気になる、面白いと思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると、とても嬉しいです。

黒猫一匹と作者が喜びます。

ありがとうございました!

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