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転生した黒猫は悪役令嬢を改造したい 〜極悪非道のはずのお嬢様が、ただの不器用ポンコツだったので断罪エンドを全力で回避します!〜  作者: ゼロブロ
第7章 黒猫、断罪の舞台を踏み潰す

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48/58

第48話 悪役令嬢は、断罪されない

完結確定。

毎日朝7時に更新します。

よろしくお願いします。

 クラリス・ローヴェルの名が、証言に出た。


 その言葉が大広間に落ちた瞬間、空気が完全に変わった。

 もう、噂ではない。

 印象でもない。

 誰かの心配でも、曖昧な疑いでもない。

 証言。

 証拠。

 つながった事実。


 クラリスは蒼白になっていた。

 先ほどまで、彼女はまだ立っていた。

 いつものように笑おうとしていた。

 言い逃れようとしていた。

 自分は心配していただけだと、誤解だと、被害者だと、どうにか立場を守ろうとしていた。

 けれど、逃走していた従僕の証言に自分の名が出た。


 それは、大きかった。

 アレクシスは静かに命じた。


「クラリス嬢を別室へ。ローヴェル伯爵家についても、正式に調査を進める」

 騎士が動く。

 クラリスは一歩後ずさった。


「待って」

 声が震えていた。

「わたくしは、ただ……」

 ただ。

 その先の言葉は続かなかった。


 ただ、欲しかった。

 ただ、悔しかった。

 ただ、シルビアが羨ましかった。

 ただ、王太子妃になりたかった。

 ただ、自分の方がふさわしいと思った。


 どの言葉も、罪を消す理由にはならない。

 クラリスはシルビアを見た。


「シルビア様」

 声は細い。

 今までの優しい従姉妹の声ではなかった。

 仮面の奥に隠していた少女の声だった。

「あなたは、わたくしのことを笑うのでしょうね」

 シルビアは静かに首を振った。 


「笑いません」

 即答だった。

 クラリスの目が揺れる。

 シルビアは続ける。


「あなたのしたことを、許すことはできません。ですが、笑いません」


 大広間が静かになる。


「わたくしは、あなたの気持ちに気づきませんでした。あなたが何を抱えていたのか、見ていませんでした」

 クラリスの唇が震える。

 シルビアは言った。


「だからといって、あなたの罪が軽くなるわけではありません」

 その声は冷静だった。

 強い。

 だが、冷酷ではない。


「リーナ嬢を利用しようとしたこと。ノワールを傷つけたこと。多くの人を巻き込んだこと。それは、あなたが向き合うべきことです」

 クラリスは何か言おうとした。

 だが、言葉にならなかった。

 騎士が彼女のそばへ来る。

 クラリスは抵抗しなかった。

 ただ、最後にアレクシスを見た。


「殿下」

 アレクシスは静かに見返す。

 クラリスの目には、まだどこかに期待があったのかもしれない。

 少しでも憐れんでほしい。

 少しでも自分を見てほしい。

 そういう期待。

 だが、アレクシスの声は揺れなかった。


「君が本当に悔やむべき相手は、私ではない」

 クラリスの顔が歪む。

 アレクシスは続ける。

「君に利用されたリーナ嬢。傷つけられたシルビア嬢。事故に巻き込まれた者たち。そして、君自身の行動によって傷ついた人々だ」


 クラリスは目を伏せた。

 騎士に促され、大広間を出ていく。

 彼女が去るまで、誰も声を出さなかった。


 優しい従姉妹を演じていた少女。

 ずっと微笑み続けていた伯爵令嬢。


 その背中は小さく見えた。

 私はシルビアの腕の中で、それを見送った。


 ざまあ。


 そう思ってもいい場面かもしれない。

 だが、胸の中にあったのは、それだけではなかった。


 クラリスは悪い。

 それは間違いない。

 けれど、彼女もまた、何かをこじらせ続けた少女だった。

 欲しかったものに手が届かず、笑顔を武器にして、嫉妬を毒に変えた。


 同情はできる。

 でも、許すかどうかは別だ。


 たぶん、それでいい。


 神官もまた、騎士に囲まれていた。

 彼は最後まで穏やかな顔を保とうとしていたが、額には汗が浮かんでいる。

 アレクシスが彼へ向き直った。


「神殿派閥については、王家から正式に調査を入れる。リーナ嬢を政治的な駒として扱ったこと、魔法薬の流出、事件への関与。すべて確認する」

 神官は唇を引き結んだ。

「聖女候補の未来を案じてのことです」

 まだ言うか。


 私は耳を伏せた。

 リーナが一歩前へ出た。

 その顔は少し青い。

 だが、目はまっすぐだった。


「私の未来は、私に聞いてください」

 神官が彼女を見る。

 リーナは震えながらも言った。

「私のためと言いながら、私の気持ちを無視しないでください」


 大広間が静まる。

 リーナの声は小さい。

 でも、はっきり届いた。


「私は、誰かを傷つけて王太子妃になりたいと思ったことは、一度もありません」

 アレクシスが静かに頷いた。

 シルビアも、リーナの隣に立った。

 リーナは少しだけ安心したように息を吐く。

 神官はもう何も言えなかった。

 彼もまた、別室へ連れていかれる。

 大広間には、重い静寂が残った。

 断罪の場は終わった。


 だが、華やかな舞踏会に戻るには、あまりに空気が変わりすぎていた。

 人々の視線が、シルビアへ向かう。


 ゲーム本編なら、その視線は疑いと軽蔑だった。

 けれど今は違う。


 驚き。

 戸惑い。

 同情。

 尊敬。

 そして、申し訳なさ。

 シルビアは、その視線を受けていた。


 逃げない。

 睨まない。

 高笑いもしない。

 良い。

 ただ、静かにそこに立っている。

 凛として、背筋を伸ばし前を見る。

 アレクシスが彼女の隣へ来た。


「シルビア嬢」

 シルビアが彼を見る。

 アレクシスは大広間へ向き直った。

 そして、はっきりと言った。


「この場で、改めて申し上げます」

 王太子の声が響く。


「シルビア・グランベル嬢は、リーナ嬢を傷つけていません。むしろ、多くの場面で助け、守ってきました」

 大広間は静かだった。

「彼女に向けられた悪評の多くは、事実を曲げられたものです。もちろん、彼女自身にも誤解を招きやすい言動はありました」


 シルビアの肩が少し動く。

 アレクシスは愛しむ優しい眼差しで、彼女を見る。


「けれど、彼女はそれを直そうとしてきました。私は、それを側でずっと見てきました」

 シルビアの目が揺れる。

 アレクシスはもう一度シルビアを見て、続ける。


「私は、彼女との婚約を解消しません」

 また言った。


 今度は大広間全体に向けて。

 シルビアは完全に固まった。


 私は腕の中で思った。

 王太子、今度こそ逃げ場をなくした。

 政治的にも、恋愛的にも。

 大広間がざわめく。

 アレクシスは少しだけ声を柔らかくした。


「シルビア嬢は、私の大切な婚約者です」

 直球。

 かなり直球。

 シルビアの顔が真っ赤になる。

 今ここで赤くなるのか。

 いや、なる。

 当然なる。


 リーナが隣で小さく笑っている。

 公爵夫人も微笑んでいる。

 レオンハルトは複雑そうな兄の顔をしている。

 グランベル公爵は表情を変えないが、目元がほんの少しだけ動いた。


 父、たぶん内心で王太子を高速で審査している。

 怖い。


 アレクシスはシルビアへ向き直る。


「君は、何か言いたいことはある?」

 シルビアは固まったまま、私を見た。

 助けを求める目。

 私は鳴いた。

「にゃ」

 自分の言葉で。

 シルビアは小さく息を吸った。

 そして、大広間へ向き直る。


「わたくしは」

 声は少し震えていた。

 それでも、続けた。

「これまで、誤解されるような言い方をたくさんしてきました。怖いと思わせてしまった方もいると思います」

 誰も口を挟まない。

「リーナ嬢にも、最初は失礼なことを言いました。使用人や学院の方々にも、強い言い方をしたことがあります」

 シルビアは一度目を伏せる。

 そして、また顔を上げた。


「それでも、わたくしは、誰かを傷つけたいと思っていたわけではありません」

 声が、少し強くなる。

「これからも、間違えるかもしれません。言い方を失敗するかもしれません。でも、間違えたら直します。傷つけたなら謝ります。誰かが困っているなら、できる限り手を伸ばします」

 大広間が静かだった。

 シルビアは最後に言った。


「ですから、わたくしを噂だけで見ないでください。わたくしも、皆様を噂だけで見ることはいたしません」

 それは、完璧な演説ではなかった。


 少し硬い。

 少し不器用。


 公爵令嬢らしい美しい言葉ではない。

 でも、シルビア自身の言葉だった。

 自分で考え、自分で選んだ言葉。


 リーナが最初に拍手した。

 小さく。

 でも、はっきりと。

 次に、アレクシス。

 公爵夫人。

 レオンハルト。

 そして、少しずつ大広間に拍手が広がっていく。

 最後には会場全体に響いた。

 グランベル公爵は拍手こそしなかったが、静かに頷いた。

 私はシルビアの腕の中で、喉を鳴らした。


 悪役令嬢は、断罪されなかった。


 断罪の舞台に立った少女は、自分の言葉で立った。

 リーナを傷つけず。

 王太子に見捨てられず。

 家族に守られ。

 友人に信じられ。

 そして、黒猫に抱っこされて。


 いや、抱っこしているのはシルビアの方だが。

 細かいことはいい。


 ゲーム本編の断罪エンドは、今、完全に折れた。


 私は黒猫ノワール。

 悪役令嬢断罪エンド回避担当。

 任務達成。




 ……と、言いたいところだが。

 物語は、まだ少しだけ続く。


 なぜなら。


 アレクシスの「大切な婚約者」という直球を、シルビアが処理しきれていないからである。


 恋愛方面のバグ修正。

 未完了。


 やれやれ。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


続きが何か気になる、面白いと思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると、とても嬉しいです。

黒猫一匹と作者が喜びます。

ありがとうございました!

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