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転生した黒猫は悪役令嬢を改造したい 〜極悪非道のはずのお嬢様が、ただの不器用ポンコツだったので断罪エンドを全力で回避します!〜  作者: ゼロブロ
第7章 黒猫、断罪の舞台を踏み潰す

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第46話 証拠は、静かに並べられる

完結確定。

毎日朝7時に更新します。

よろしくお願いします。

 大広間の扉が開いた。


 大広間の扉から、グランベル公爵たちが静かに入ってきた。


 華やかな星祝祭の会場に、急に現実が持ち込まれたようだった。

 音楽は止まり、貴族たちは息を潜める。

 星を模した魔法灯だけが、何も知らない顔で淡く揺れている。

 私はシルビアの腕の中で、静かに耳を伏せた。


 来た。

 ついに来た。

 断罪の場。


 ただし、今回はシルビアが断罪される場ではない。

 証拠を並べる場だ。


 グランベル公爵は、静かに大広間の中央へ進んだ。

 コツコツと足音だけを響かせ。


 声を荒げない。

 怒鳴らない。

 取り乱さない。

 ただそこに立つだけで、場の空気が変わる。


 静かに逃げ道を塞ぐ公爵家。

 その当主が、本気で怒っている。

 相変わらず、表情は動かないが。


 だが、私は知っている。

 この人は、激怒している。

 公爵はアレクシスへ一礼した。


「殿下」

 アレクシスも頷く。

「グランベル公爵。確認をお願いします」

 この二人、完全に連携している。

 王太子と公爵。

 敵から見れば悪夢の組み合わせだ。


 クラリスは、微笑んでいた。

 いや、微笑もうとしていた。

 だが、その表情は少しだけ硬い。


 神官もまた、顔を引き締めている。

 桃色令嬢は青ざめたまま、泣きそうに震えていた。

 アレクシスは展示台へ視線を向ける。


「まず、今この場で起きた護符破損について確認する。誰も勝手に動かないように」

 王太子の声に、誰も逆らわなかった。

 魔法道具の専門家が、展示台の脚に仕掛けられた魔法糸を調べる。


 細い透明な糸。

 展示台の脚から、カーテンの飾りへ。

 さらに、そこから床の模様に沿って、別の小さな魔法石へつながっていた。

 専門家は慎重にそれを見て、言った。


「この魔法糸は、糸が引かれると、展示台をわずかに揺らす仕組みです 」

 大広間がざわめく。

「護符が落ちたのは、誰かが直接触れたからではなく、この糸が引かれたためでしょう」

 桃色令嬢が息をのむ。


「で、では、わたくしは……」

 アレクシスが静かに言った。

「少なくとも、君が触れて落としたとは断定できない」

 桃色令嬢の目に涙が浮かぶ。


 クラリスは、心配そうに彼女を見ている。

 だが、以前のように場を支配する余裕はない。

 専門家は続けた。


「そして、この魔法糸には、以前の慈善会で使われたものと同じ加工が見られます」

 空気がさらに変わった。


 慈善会。

 シルビアがリーナの護符を守ったあの事件。

 そのときにも、魔力を乱す加工をされた銀糸と、魔法道具への干渉があった。


 つまり、今回の護符破損は、偶然ではない。

 過去の事件とつながっている。

 公爵が静かに口を開いた。


「この魔法糸の入手経路については、すでに調査が進んでいます」

 その声は、淡々としていた。

「同じ種類の糸を、ローヴェル伯爵家が購入していた記録があります」


 大広間がざわめく。

 視線がクラリスへ集まる。

 クラリスは目を見開いた。


「ローヴェル家が……?」

 驚いたような声。

 上手い。

 とても上手い。

 だが、公爵は表情を変えない。


「もちろん、購入記録だけで断定はしません」

 そう言って、別の書類を騎士に差し出させた。


「こちらは、慈善会の護符に混入していた加工銀糸の成分分析。こちらは、本日使われた魔法糸の成分分析。加工に使われた薬剤と魔力反応が一致しています」

 専門家がうなずく。


「一致と言ってよいでしょう。少なくとも、同じ工房、あるいは同じ加工師の手による可能性が高い」


 ざわめきが大きくなる。

 クラリスの微笑みが、わずかに薄くなった。

 神官が口を挟んだ。


「しかし、それがグランベル令嬢の無関係を証明するものではありません」

 私は耳を伏せた。

 まだ食い下がるか。

 神官は続ける。


「ローヴェル家が糸を購入したとしても、それがどのように使われたかまでは」

「その通りです」

 アレクシスが静かに言った。

「だから、次の証拠を確認する」


 次。

 まだある。

 当然だ。

 グランベル公爵家が、この程度で止まるはずがない。

 レオンハルトが前へ出た。

 若いが、声は落ち着いている。


「慈善会前後に、ローヴェル家へ出入りしていた従僕を確認しています。その者は本日、王都から逃げようとしました」

 クラリスの顔が、初めて少し変わった。

 ほんのわずか。

 だが、私は見た。

 レオンハルトは続ける。


「彼は逃走中、神殿派閥の下級神官と接触。その下級神官は、馬車事故で使われた煙玉の材料を調達した商人とも接点があります」

 情報が一気に重なる。


 大広間の人々は、完全には理解できていないかもしれない。

 だが、分かることがある。

 慈善会。

 馬車事故。

 星祝祭の護符破損。

 それらは、同じ糸でつながっている。


 比喩ではなく、本当に魔法糸で。

 公爵夫人が穏やかに口を開いた。


「さらに、噂についても確認しております」

 声は優しい。

 とても優しい。

 だが、私は知っている。

 この母の優しい声は、かなり怖い。


「リーナ嬢がシルビアに圧力をかけられている。シルビアがリーナ嬢を監視している。王太子殿下とリーナ嬢の関係に嫉妬している。そのような噂が流れていましたね」

 大広間のあちこちで、視線が揺れる。

 身に覚えのある者がいるのだろう。

 公爵夫人は微笑んだまま続ける。


「その噂の多くは、直接的な悪口ではありませんでした。心配、配慮、忠告。そういう形で語られていました」

 クラリスの顔が、ほんの少し硬くなる。


「ですが、言葉は積み重なれば刃になります」

 公爵夫人は、クラリスを見た。

「クラリス嬢。あなたは何度も、シルビアは誤解されやすい、悪気はない、怖がらないで差し上げて、と周囲に話していましたね」

 クラリスはすぐに答えた。

「はい。わたくしは本当に、シルビア様を心配して」

「ええ」

 公爵夫人はうなずいた。


「その言葉だけなら、心配でしょう」

 だけなら。

 その言葉が、大広間に落ちる。

「けれど、あなたは同時に、リーナ嬢が傷つかないか心配、王太子殿下との距離が誤解されないか心配、シルビアは強いから大丈夫、とも繰り返していました」


 クラリスの口元がわずかに強張る。

 公爵夫人は穏やかに続けた。


「あなたの言葉はいつも、誰かを直接責めるものではありません。だからこそ、多くの者がそのまま受け取りました」


 令嬢たちの顔色が変わる。

 桃色令嬢も、水色令嬢も。

 自分たちがどのように言葉を受け取っていたか、気づき始めているのかもしれない。


「しかし、その結果、シルビアは何度も悪く見られました。リーナ嬢の意思は、優しさという言葉で無効化されかけました」

 公爵夫人の声は静かだった。

「これは偶然でしょうか」

 クラリスは黙った。

 ほんの一瞬。

 その沈黙が、初めて長く感じた。

 神官が言う。


「社交上の言葉を、そこまで悪意に取るのはいかがなものか」

 公爵夫人は微笑んだ。

「ええ。言葉だけなら」


 また、だけなら。

 公爵が書類を一枚差し出す。


「こちらは、マリナという侍女が交わしていた手紙です」

 シルビアの手が、私の背で止まる。

 マリナ。

 灰色の侍女。

 ずっとシルビアの悪評を流していた人物。

 公爵は続けた。


「宛先は偽名でしたが、封蝋の印はローヴェル家の古い管理印と一致。手紙の中には、シルビアの言動、リーナ嬢との接触、王太子殿下の反応が細かく記されています」

 大広間が静まり返る。


「そして、その手紙の一部に、こうあります」

 公爵は書類を読み上げた。


「“お嬢様はまた猫に止められ、言葉を直されました。このままでは、恐ろしい方という印象が薄れます”」


 私は耳を立てた。

 猫に止められ。

 私のことだ。


「“リーナ様は、予想より早くお嬢様を信じ始めています。クラリス様には、別の形で不安を与える必要があるかと”」


 クラリス様。

 その名が出た。


 大広間がざわめく。

 クラリスの顔から、微笑みが消えかけた。

 だが、彼女はまだ耐えた。


「その手紙が、本当にマリナのものだと」

 声が少し低い。

 公爵は静かに答える。

「筆跡鑑定は済んでいる」

 詰めている。

 完全に詰めている。


 さすがグランベル公爵家。

 法を使うと言っただけある。

 アレクシスが続けた。


「さらに、馬車事故で姿を消した馬具係は、ローヴェル家の遠縁の紹介で入った者だった。その者が持っていた金の一部は、ローヴェル伯爵家の小商会から流れている」

 クラリスの顔が青ざめる。

 神官も表情を変えた。


「神殿派閥の倉庫から消えた魔法薬についても、倉庫管理の下級神官が証言を始めている」

 アレクシスの声は冷たい。

「彼は、上位者から“聖女候補の未来のため”だと言われて薬を渡したと話している」


 神官の顔が硬くなった。

 聖女候補の未来。

 リーナが震える。

 シルビアが、彼女のそばへ一歩寄った。


 私は腕の中で喉を鳴らす。

 大丈夫。

 リーナは駒ではない。

 リーナも、それを分かっている。

 アレクシスは大広間を見回した。


「ここまでの証拠から、慈善会、馬車事故、そして今夜の護符破損は、同じ勢力によって仕組まれた可能性が高い」

 場が凍る。

「目的は、リーナ嬢を被害者に見せ、シルビア嬢を加害者に仕立てること。さらに、私とシルビア嬢の婚約に疑念を生じさせること」


 婚約。

 その言葉に、視線が集まる。

 シルビアは少しだけ顔を赤くした。

 だが、逃げない。

 アレクシスは続ける。


「私は、この場ではっきり言おう。シルビア嬢はリーナ嬢を傷つけていない。むしろ、何度も守ってきた」

 リーナが頷いた。

「はい」

 強い声だった。

「シルビア様は、私を傷つけていません」

 アレクシスはシルビアを見る。


「そして、私はシルビア嬢との婚約を解消するつもりはない」


 大広間がざわめいた。

 シルビアが完全に固まる。

 私は腕の中で目を細めた。

 王太子。

 今それを言うか。

 いや、言うべき場だ。

 政治的にも、かなり重要だ。


 だが、シルビアの処理能力が追いついていない。

 アレクシスはまっすぐ前を向いた。


「誰かがそれを狙っているのなら、無駄だ」

 強い。

 非常に強い。

 クラリスの顔が、初めて明確に歪んだ。

 その歪みは一瞬だった。

 しかし、もう隠しきれていなかった。


 証拠は、静かに並べられた。

 怒鳴り声ではなく。

 感情論ではなく。

 噂ではなく。

 一つずつ。

 丁寧に。

 逃げ道を塞ぐ。


 そして今、クラリスと神殿派閥は、舞台の中央へ引き摺り出された。


 私はシルビアの腕の中で、静かに息を吐く。

 断罪返しは、まだ始まったばかり。

 本当に笑えなくなるのは、ここからである。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


続きが何か気になる、面白いと思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると、とても嬉しいです。

黒猫一匹と作者が喜びます。

ありがとうございました!

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