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転生した黒猫は悪役令嬢を改造したい 〜極悪非道のはずのお嬢様が、ただの不器用ポンコツだったので断罪エンドを全力で回避します!〜  作者: ゼロブロ
第7章 黒猫、断罪の舞台を踏み潰す

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43/58

第43話 星祝祭の夜

完結確定。

毎日朝7時に更新します。

よろしくお願いします。

 星祝祭の夜が来た。


 星祝祭の夜、学院の大広間は、まるで別世界だった。

 高い天井からは、星を模した魔法灯がいくつも吊るされている。

 淡い金と銀の光が、天井から降るように揺れていた。

 壁際には白い花と青いリボンが飾られ、床は鏡のように磨かれている。

 貴族社会の華やかさを、これでもかと詰め込んだような空間だった。


 前世の私なら、画面越しに「スチル綺麗」と思っていたに違いない。

 だが、今は違う。


 ここは、ゲーム本編でシルビアが断罪される舞台。

 悪役令嬢ルートの終点。


 私はシルビアの腕の中から、大広間を見回していた。

 黒猫である私が舞踏会に同行することについては、少しだけ揉めた。

 いや、かなり揉めた。

 体調は回復しつつあるとはいえ、まだ全力疾走はできない。

 シルビアは最初、私を休ませるつもりだった。


「ノワールは今日はお留守番です」

「にゃ」

 断固拒否。

「まだ本調子ではありません」

「にゃ」

 それでも拒否。

「危険な場所へ連れていけません」

「にゃ!」

 危険だから行くのだ。

 私はクッションから降りようとして、少しふらついた。

 シルビアの顔色が変わる。


「ほら、まだ無理です」

 ぐうの音も出ない。

 猫なので、もともと「ぐう」とは言わないが。

 最終的に、アレクシスが提案した。


「ノワール用の小さな護符付き抱き布、つまり猫用の抱っこ布を用意して、シルビア嬢が抱いている形ならどうかな。床を歩かせない。危険があればすぐ控え室へ」

 王太子。

 素晴らしい妥協案。

 シルビアはしばらく悩んだ末、認めた。


 こうして私は、リーナが作った護符をつけ、柔らかな黒い抱き布に包まれ、シルビアの腕に収まっている。


 戦闘力は低い。

 しかし、視界はある。

 耳もある。

 鼻もある。

 そして、何よりシルビアのそばにいる。


 これが一番重要だ。

 シルビアは今夜、深い紫のドレスを着ていた。

 夜空のような色。

 裾には銀糸で小さな星が刺繍されている。

 髪はゆるく結い上げられ、首元には控えめな宝石。


 美しい。

 非常に美しい。

 普段から顔面圧が高いのに、今日は完全に公爵令嬢仕様である。

 近寄りがたい圧倒的な美しさ。

 普通なら、それだけで悪役令嬢オーラが漏れまくりである。


 だが、今日のシルビアは少し違った。

 緊張をしている。

 表情は固い。

 だから、いつも以上に怖く見える。


 しかし、腕の中の私を時々見下ろし、そっと背を撫でる。

 その仕草が、彼女を氷の令嬢ではなく、人の温度を持つ少女に見せていた。

 周囲の視線が集まる。


「グランベル公爵令嬢ですわ」

「お元気そうでよかった」

「ノワール様もご一緒なのですね」

「本当に大切にされているのね」

 ノワール様。

 やはり様づけ。

 悪くない。


 シルビアは視線に気づき、少し肩に力を入れた。

 私は小さく鳴いた。

「にゃ」

 大丈夫。

 睨むな。

 いや、普通に見ても睨みに見えるが。


 シルビアは小さく息を吐いた。

 そして、近くで礼をした令嬢に向かって言った。

「ご心配をおかけしました」

 お。

 良い。

 とても良い。

 令嬢は驚いたように目を丸くし、それから微笑んだ。

「ご無事で何よりです」

「ありがとうございます」

 言えた。


 完璧。

 私は腕の中で喉を鳴らした。

 星祝祭の夜、開始早々に良い流れである。


 アレクシスが近づいてきた。

 今日は王太子としての正装だ。

 白を基調とした礼服に、青と金の飾り紐。

 立ち方、視線、周囲への対応。

 今日は王太子としての風格がある。

 衣装のおかげか。


 七歳の頃、観察力不足だった少年は、ずいぶん遠くまで来たものだ。

 これまた感慨深い。

 アレクシスはシルビアの前で足を止め、柔らかく微笑んだ。


「よく似合っている」

 直球。

 かなり直球。

 シルビアが固まった。

 私は腕の中で目を細める。

 シルビア、受け取れ。

 褒め言葉だ。

 政治的発言ではない。

 婚約者としての社交辞令だけでもない。

 かなり本音だ。

 シルビアは少し頬を赤くした。


「殿下こそ、本日は立派でいらっしゃいます」

 固い。

 社交辞令に戻した。

 アレクシスは少し苦笑した。

「ありがとう」

 彼は私を見る。

「ノワールも、今日は護衛役かな」

「にゃ」

 当然。

 ただし、今日は抱っこ固定である。

 アレクシスの視線が少し柔らかくなる。


「無理はしないように」

「にゃ」

 それは約束できない。

 シルビアがすぐに私を見る。

「ノワール」

「にゃ」

 はい。

 無理はしません。

 たぶん。


 リーナもやって来た。

 白と淡い金のドレス。

 神殿の聖女候補としての装いらしく、派手すぎず、清楚で柔らかい。

 いつもの素直な雰囲気によく似合っていた。

「シルビア様、とてもお綺麗です」


 リーナはまっすぐ言った。

 シルビアはまた固まった。

 本日二回目。

「リーナ嬢も、よく似合っていますわ」

 お。

 ちゃんと返した。

 リーナの顔が明るくなる。

「ありがとうございます」

 シルビアは少し視線をそらした。


「事実です」

 照れ隠し。

 だが、悪くない。

 リーナは私へ近づき、護符を確認した。


「ノワールさん、護符は苦しくありませんか?」

「にゃ」

 大丈夫。

 リーナはほっと笑った。

「よかった」

 この三人。

 シルビア、アレクシス、リーナ。


 ゲーム本編なら、ここは危険な三角関係の中心だった。

 王太子。

 悪役令嬢。

 ヒロイン。

 けれど今は違う。


 互いを疑うのではなく、支え合っている。

 この光景だけで、悪役令嬢ルートから大きく外れている。


 しかし、油断はできない。

 大広間の奥。

 淡い水色のドレスを着たクラリスが立っていた。

 完璧な微笑み。

 控えめで、優しく、少し儚げ。

 周囲には数人の令嬢がいる。


 以前よりは少ない。

 だが、まだ彼女を信じている者はいる。

 クラリスは私たちを見ると、ゆっくり近づいてきた。


「シルビア様」

 声は柔らかい。

「今夜はご出席なさったのですね。お体はもうよろしいのですか?」

 心配そうな声。

 だが、私は耳を伏せた。

 クラリスの言葉はいつも柔らかい。

 だからこそ危険だ。

 シルビアは静かに答えた。


「ええ。ご心配ありがとう」

 お。

 良い。

 余計な棘を返さない。

 クラリスの目が、ほんの少し動いた。

「ノワールも元気そうで安心しましたわ」

「にゃ」

 元気です。

 あなたには油断しませんが。


 クラリスはアレクシスとリーナにも礼をした。

「殿下、リーナ様。今夜もお二人はご一緒なのですね」

 お二人。

 その言い方。

 私はすぐに耳を立てた。

 アレクシスとリーナが一緒にいる、という印象をさりげなく出す。

 しかし、アレクシスはすぐに答えた。


「シルビア嬢とノワールも一緒だよ」

 返しが早い。

 王太子、成長している。

 クラリスの微笑みが一瞬だけ止まる。

 リーナも言った。


「はい。今日はシルビア様とノワールさんのおそばにいると決めています」

 強い。

 リーナも強い。

 クラリスは少しだけ目を細めた。


「まあ。皆様、本当に仲がよろしいのですね」

 以前なら、そこに棘が混じった。

 今も棘はある。

 だが、シルビアは引っかからなかった。


「ええ」

 短く答えた。

 肯定した。

 クラリスがわずかに目を見開く。

 シルビアは続ける。


「大切な友人と、婚約者と、家族ですから」

 大切な友人。

 婚約者。

 家族。


 言った。

 シルビアが、自分から。


 リーナが目を潤ませる。

 アレクシスが少し驚いて、それから嬉しそうに笑う。

 私はシルビアの腕の中で、感極まって喉を鳴らした。


 素晴らしい。

 非常に素晴らしい。

 クラリスの微笑みが、わずかに歪んだ。

 ほんの一瞬。

 だが、クラリスはすぐに笑みを整えた。


「そうですか。素敵ですわ」

 その声は、いつもより少し硬かった。

 星祝祭の夜は、まだ始まったばかり。

 音楽が流れ、光が揺れ、人々が笑っているその華やかさの裏で、何かが動いている。

 断罪の舞台は、整っている。

 けれど、今夜その舞台に立つシルビアは、もう昔の孤立した悪役令嬢ではない。


 友人がいる。

 婚約者がいる。

 家族がいる。

 黒猫もいる。

 私は腕の中で、クラリスを見つめた。


 来るなら来い。


 ただし、シナリオ通りにはいかない。

 その断罪の舞台ごと、踏み潰してやる。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


続きが何か気になる、面白いと思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると、とても嬉しいです。

黒猫一匹と作者が喜びます。

ありがとうございました!

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