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転生した黒猫は悪役令嬢を改造したい 〜極悪非道のはずのお嬢様が、ただの不器用ポンコツだったので断罪エンドを全力で回避します!〜  作者: ゼロブロ
第6章 王家より怖い公爵家 、静かなる怒り

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42/58

第42話 悪役令嬢断罪の舞台が、用意される

完結確定。

毎日朝7時に更新します。

よろしくお願いします。

 星降る学院には、年に一度の大きな夜会がある。


 星祝祭の舞踏会。

 学院に通う貴族の子女だけでなく、王家や高位貴族、神殿関係者も招かれる行事だ。


 生徒にとっては、学びの成果を示す場。

 貴族社会においては、若い世代の人脈を確認する場。

 神殿にとっては、聖女候補を紹介する場。

 王家にとっては、王太子の成長と人脈を示す場。

 そして、ゲーム本編では。


 悪役令嬢シルビア・グランベルが断罪される場。


 華やかな大広間。

 きらめく灯り。

 音楽。

 ドレス。

 王太子。

 ヒロイン。

 集まった貴族たち。

 その中心で、シルビアは糾弾される。


 リーナへの嫌がらせ。

 聖女候補への妨害。

 王太子への不敬。

 数々の悪行。

 そしてアレクシスが告げる。

 婚約を破棄する、と。


 画面越しに見たときは、よくある悪役令嬢断罪イベントだった。

 今思うと、恐ろしい。


 あの場面のシルビアは、本当に全部やったのだろうか。

 それとも、今と同じように言葉を曲げられ、善意を悪意に変えられ、誰かに仕組まれたのだろうか。


 考えるだけで、背中の毛が逆立つ。

 その星祝祭の舞踏会が、近づいていた。

 断罪エンドまで、あと少し。


 私はシルビアの部屋で、招待状を見つめていた。

 金の縁取りがされた美しい紙。

 星の紋章。

 華やかな文字。


 非常に不穏である。

 華やかな招待状ほど、ろくなことがない。


 前世のゲームでもそうだった。

 イベント告知が豪華なほど、だいたい修羅場が来る。


 シルビアは招待状を手にして、静かに座っている。

 膝の上には私。

 私はだいぶ回復した。

 まだ全力疾走は禁止されているが、部屋の中を歩く許可は出た。

 廊下も短時間なら許可された。


 窓からの脱走は、まだ禁止。

 シルビアの監視は厳しい。


「星祝祭の舞踏会……」

 シルビアが小さくつぶやく。

 その声には、少し緊張があった。

 当然だ。

 馬車事故のあと、初めての大きな公の場になる。


 しかも、クラリスも来る。

 ローヴェル家も来る。

 神殿関係者も来る。

 リーナも聖女候補として紹介される。


 危険要素が多すぎる。

 フラグ密度が高い。

 会場に入った瞬間、警告音が鳴ってもおかしくない。

 私は招待状を前足で叩いた。


「にゃ」

 危険。

 シルビアは私を見る。

「ええ。ノワールもそう思うのですね」

 思う。

 かなり思う。


 その場には、アレクシス、公爵、夫人、レオンハルトもいた。

 いつもの対策会議である。

 最近、会議の頻度が高い。

 私はもはや正式メンバーのように扱われている。


 議事録には載っていないと思うが。

 アレクシスが言った。


「星祝祭の舞踏会は、敵にとっても好機だ」

 公爵がうなずく。

「人が多く、証人も多い。公の場で印象を操作するには最適です」

 公爵夫人が静かに続ける。

「逆に言えば、こちらにとっても好機ですわ」


 こわい。

 母の声がとても穏やかなのに、内容が戦略的すぎる。

「証拠が揃えば、曖昧な噂ではなく、公の場で真実を示せますもの」

 レオンハルトが資料を机に置いた。

「現時点で、ローヴェル家の従僕は捕捉済みです。逃げる途中で接触した相手も確認しています」

 アレクシスが目を細める。


「神殿派閥の者か?」

「はい。下級神官の一人です。ただし、その背後に上位者がいます」

 神殿派閥の上位者。

 いよいよ、黒幕の輪郭が濃くなってきた。

 公爵も別の資料を出す。


「偽造身分証の金の流れは、ローヴェル伯爵家の管理する小商会を経由していました。名義は別ですが、実質的な管理者は伯爵の側近です」

 ローヴェル伯爵。

 クラリスの父。

 ここまで来ると、かなり黒い。

 シルビアは静かに聞いている。

 顔色は少し悪い。

 だが、目は逸らさない。


 私は彼女の膝の上で喉を鳴らした。

 大丈夫。

 つらいなら、少し休んでもいい。

 シルビアは私の背を撫でた。

 アレクシスは言う。


「まだ、クラリス嬢本人の直接の指示までは届いていない」

 レオンハルトがうなずく。

「ただ、彼女が周囲の令嬢や使用人に噂を流していた証言は複数取れています」

 公爵夫人が微笑む。

「お茶会は、思ったより実りがありましたわ」


 怖い。

 お茶会、実りがありすぎる。

 クラリスの周囲にいた令嬢たちが、少しずつ証言を始めているらしい。


 シルビアは誤解されやすい。

 悪気はない。

 リーナ様が傷つかないか心配。

 王太子殿下とリーナ様の距離が近い。

 シルビア様は強いから大丈夫。


 どれも一見優しい言葉。

 だが、積み重ねれば印象操作になる。

 公爵夫人はそれを丁寧に拾い上げている。


 父が証拠を集める。

 母が言葉の流れを集める。

 兄が人の動きを集める。

 アレクシスが王家の権限でつなげる。

 包囲網が完成しつつある。

 シルビアは小さく言った。


「星祝祭で、何かが起きるのでしょうか」

 誰もすぐには答えなかった。

 起きる。

 たぶん。


 ゲームの断罪イベントが、その場だからだ。

 敵がそこを狙わないはずがない。

 アレクシスが静かに言った。


「起きる可能性は高い」

 シルビアの手が、私の背で止まる。

「向こうは、おそらくまだ君を公の場で失墜させることを諦めていない。慈善会も馬車事故も失敗した。なら、次は星祝祭を使うはずだ」


 公爵が続ける。

「こちらも備えます。証拠を整え、警備を増やし、リーナ嬢の周囲も守る」

 公爵夫人も言う。

「わたくしは社交の場で、どの言葉がどこから出るか見ます」

 レオンハルトが言う。

「私は会場の若い貴族の動きを見ます。クラリス嬢の周囲にいる者は、すでに把握しています」

 アレクシスが言う。

「僕は、断罪の場を作らせない。もし誰かが君を糾弾しようとするなら、その場で真実を返す」


 断罪の場。

 その言葉に、私は耳を伏せた。


 シルビアは、まだ知らない。

 ゲーム本編で自分が断罪されることを。


 私は知っている。

 だが、言えない。


 猫なので。


 シルビアは少しだけ目を伏せた。

「もし、わたくしがまた悪く言われたら」

 声が小さい。

「うまく、言い返せるでしょうか」

 部屋が静かになった。

 昔のシルビアなら、こんな不安を言わなかった。


 公爵令嬢として、堂々と立とうとした。

 怖い顔で、強い言葉で、全部を押し返そうとした。

 そして、その強さがまた誤解された。


 でも今は違う。

 シルビアは不安を口にできる。

 それは弱くなったのではない。

 強くなったのだと思う。

 アレクシスが静かに答えた。


「そのときは、一人で言い返さなくていい」

 シルビアが顔を上げる。

「僕がいる。リーナ嬢もいる。君の家族もいる。ノワールもいる」

「にゃ」


 いる。

 かなりいる。

 まだ全力では走れないが、精神的にはいる。

 レオンハルトも言った。


「相手が言葉で来るなら、こちらは証拠で返す」

 公爵夫人が微笑む。

「必要なら、わたくしも少しだけお手伝いしますわ」

 少しだけ。

 絶対に少しだけではないだろう。

 たぶんどんな証拠より、抉りにくるはずだ。

 たぶん。

 公爵が最後に言った。


「シルビア。お前は、ただ真実を言いなさい」

 シルビアは父を見る。

「真実を」

「ああ。飾らなくていい。強く見せようとしなくていい。誰かを必要以上に責める必要もない。お前が見たこと、感じたこと、してきたことを、そのまま言えばいい」

 公爵の声は静かだった。

「それを支える証拠は、こちらで用意する」

 シルビアの目が揺れた。

 そして、ゆっくりとうなずく。


「……分かりました」

 私は膝の上で、彼女の手に前足を乗せた。

 そうだ。

 シルビア。


 あなたはもう、悪役令嬢の台詞を言わなくていい。

 怖い顔で、強いふりをして、孤独に立たなくていい。

 ただ、自分の言葉で話せばいい。

 それがどれほど不器用でも、もう通訳してくれる人がいる。


 信じてくれる人がいる。

 守ってくれる家族がいる。


 断罪の舞台は、用意されようとしている。

 だが、今回は違う。


 断罪されるのは、シルビアではない。


 私は黒猫ノワール。

 悪役令嬢断罪エンド回避担当。

 星祝祭の舞踏会。

 ゲーム本編では、終わりの始まりだった。


 けれど今は。


 悪役令嬢ルートを完全に折るための舞台になる。

 物語は、ついに最終局面へ向かい始めた。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


続きが何か気になる、面白いと思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると、とても嬉しいです。

黒猫一匹と作者が喜びます。

ありがとうございました!

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