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勇者の魔石を求めて  作者: 圭太朗
王国歴622年6月13日(月)
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32-16「シーラの采配」


「ダメですよ。昼前にも伝えましたよね。ホールでの商談は禁じていますよ。それに、相談役への直接の陳情も禁止されています」


 メリッサさんの提案により、次回の集まりはジェイク領の担当者が来てから行うことが決まり、応接室での打合せは終了した。

 俺とシーラは応接室を後にし、商工会ギルド一階のホールへ降りた。

 すると昼前に挨拶を交わした三人組の商人、ヤセルダさん、ヨエルゾさん、カライカさんが俺とシーラに直接の陳情をしてきた。

 それをナログさんが、商工会ギルドホールでの商談や相談役への直接の陳情は禁じられていると制してくれるのだが⋯


「それはわかっています。どうかお話だけでも聞いてもらうことは⋯」

「そうです。お話だけでも聞いてください」

「お願いします」


 ヤセルダさん、ヨエルゾさん、カライカさんの願いは執拗だ。

 ナログさんが盾になってくれているのだが、それも上回りそうな勢いだ。思わずシーラと共に一歩下がり、距離を取ってしまう。これは、話だけでも聞かないと引かない勢いだ。


「イチノス魔導師、話だけでも聞いてはどうですか?」


 シーラから思わぬ言葉が出た。

 言わんとしていることも理解できる。

 この三人の勢いからすると、話だけでも聞かない限り引き下がらないだろう。

 このままシーラと共に商談室で打合せを始めても、打合せが終わるまで外で待たれる可能性は否定できない。


 また、場合によっては店に突撃してくる可能性もある。そうなると、向かいの交番所のイサベルさんたちの仕事が増えるのか⋯


「三人とも一旦、落ち着いてください。話を聞くだけなら構いませんよ。但し、話を聞くだけです」


「「「!!!」」」


 俺の言葉に三人組は口をつぐみながらも、嬉しさを滲ませた顔を見せてきた。

 俺はすかさずナタリアさんへ問い掛ける。


「ナタリアさん、このホールでは問題がありますよね?」


「えぇ、ホールでの商談は禁じられておりますから、できるなら、2階の大会議室でお願いしたいのですが⋯」


 ナタリアさんが参加者の人数を数えるように目線を動かし、大会議室での開催を提案してきた。

 俺はその言葉を聞いてナログさんに確かめる。


「ナログさん、西方再開発事業の魔法技術支援相談役である我々への、直接の陳情を商工会ギルドは許可していますか?」


「いえ、商工会ギルドの全会員にイチノスさんとシーラさんへ直接の陳情を行わないよう通知しています」


 ナログさんが改めてそう答えると、三人組に目をやった。

 その様子に、三人組は落ち着きを取り戻したのか、ようやくナログさんの盾から一歩下がった。


「それでも、こうして直接の陳情が起きているのですから、話だけでも聞くべきでしょう。そうしないと、この後か、明日にでも私の店が襲われるかもしれません。そうなると店の向かいに立つ街兵士のお世話にならざるを得ません(笑」


「そ、そこまでは私どもは考えていません⋯」

「さすがにそこまでは⋯」

「そこまでしたら⋯」


 ようやく三人組の思考が回り始めた感じだ。

 俺は言葉を続けようとする三人を手で制して、シーラに問い掛ける。


「シーラ魔導師、どちらを先に済ませましょうか?(笑」


「皆さんのお話を先にしましょう。ナタリアさん、大会議室の手配をお願いしてよろしいですか?」


「は、はい、すぐに手配します」


「それと、ナログさん?」


「はい、何でしょう?」


「今回のお三方からのお話は陳情ではなく、ナログさんがお話を聞く会合に私とイチノス魔導師が同席した形に出来ますか?」


「「「おぉ~」」」


 三人の商人から喜びの声が聞こえた。


 これはシーラの名采配だな(笑

 これならこの三人の商人の願いを叶えられるし、特別扱いしたことにはならないし、後々に違反に対する処置にまでは繋がらないだろう。


 そんな会話の後、ナタリアさんが商工会ギルド2階の大会議室の手配に向かってくれた。


 1階のホールで待つ間、三人の商人はチラチラと俺とシーラに目線を向けてくる。きっと今回の陳情の触りだけでも話したいのだろうが、それを堪えている感じが伝わってくる。


 だが、そうした想いの乗った視線を防ぐようにナログさんが壁になり、俺とシーラに声をかけられない状況を作っている。これは何とも異様な光景だ。


 実際に商工会ギルドへ何かの用件で訪れたであろう人々の視線までも感じる。これは手を打つべきだな。


「ナログさん。すいませんが、私とシーラ魔導師は、そこの商談室で待たせてもらって良いですか?」


「あぁ、そうですね。気が付かずにすいません。準備が出来次第、声をかけさせていただきます」


 そんなナログさんの返事を聞いて、シーラも頷いてくれた。

 俺はシーラを護衛するように商談室へ向かった。


 三人の商人が揃って軽く頭を下げてくる。どうやら三人とも、だいぶ落ち着いたようだ。


 シーラと商談室に入り扉を閉めると、再び静寂が訪れた。


「ふぅ~」


 昼前と同じようにシーラが商談室の奥に座ると、少し長めの溜め息が漏れた。


 どうやら2階の応接室での打合せに続き、商人からの不意の突撃を受けた緊張が解けたのだろう。


「シーラ、疲れているなら回復するか?」


「うぅん、体の疲れじゃないの。工房を構えた方が良いのかな?」


 シーラから思わぬ言葉が出てきた。


「しばらくは、イチノス君との打合せはこの商談室を借りようと思ってたけど、商工会ギルドだと商人の人たちやメリッサさん、レオナさん、それにジェイク領から来た文官の人たちから割り込みが入りやすい気がするの」


 なるほどな。確かにシーラの言い分には頷ける。


 今日は6月の半ばだ。

 もう1週間もすれば、冒険者ギルドでの質問状の取りまとめも終わり、俺とシーラでの打合せも増えていくだろう。


 そのたびに商工会ギルドの商談室を借りてシーラと籠るのは、良い方法だとは思えなくなってきた。


 俺とシーラが商工会ギルドで打合せをしていると周囲に知れると、商人もさることながら、商工会ギルドの関係者から割り込まれる可能性が高い。


「ねえ、イチノス君」


「ん?」


「どう思う?」


 コンコンコン


 ちょっと疲れた顔でシーラが問い掛けてきた時、商談室の扉を叩く音が聞こえた。


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