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勇者の魔石を求めて  作者: 圭太朗
王国歴622年6月13日(月)
522/526

32-15「秩序と陳情のホール」


「では、次の集まりはジェイク領からの担当者がいらしてからということで、よろしいでしょうか?」


「そうですね、そうなりますね」


 メリッサさんがこの先の進め方を口にし、それにシーラが同意したところで、レオナさんが問い掛けてきた。


「イチノスさん、念のため確認させてください」


「はい、何でしょうか?」


「先ほど、相談役の就任と冷却魔法技術の提供を切り分けるという話を、イチノスさんがされました。これは、相談役に就任しなくとも、冷却魔法技術の提供が可能だということですよね?」


 その質問に、俺とシーラは互いに顔を見合わせ、共に軽く頷くと、シーラが答えた。


「はい、そこはご安心ください。たとえ新会社の相談役へ就任しなくとも、冷却のための魔法技術の提供は可能です。但し⋯」


 そこまで告げたシーラが俺に視線を向ける。それに合わせて、レオナさんもメリッサさんも俺を見てきた。


「魔法技術の提供料や、実現に関わる費用は別途であるとお考えください」


「「⋯⋯」」


 俺の答えに、メリッサさんもレオナさんも無言かよ(笑


 まあ、これで二人の考えが、より見えてきた気がする。

 俺とシーラが『相談役』に就任することに、何を求めていたのかが、より明確になってきた気がするな。


 いずれにせよ、ここがお開きには、ほどよいだろう。


「メリッサさん、レオナさん。今日の打合せは、これでお開きということで、よろしいでしょうか?」


「は、はい。そうですね⋯」


「そうですね。日程が決まり次第、伝令を出させていただきます」


 俺の投げ掛けに、メリッサさんは若干、歯切れの悪い答えを口にしたが、レオナさんは違った。その違いについては、後でシーラと意見を交わしておく方が、良さそうだな。


 そんなことを思いながら、応接から腰を上げると、シーラが問い掛けた。


「メリッサさん、この後も商談室は使えますよね?」


「えぇ、今日は四時までお使いになると、ナタリアから聞いておりますが?」


 その返事に、誰からともなく視線が、壁の時計へと向いた。

 短針は二時を過ぎ、長針は三時を指している。

 こんな形で幕を閉じたが、時だけは確かに進み続けていた。


 ◆


 その後、俺とシーラは応接室を後にした。


 応接室を出る際、メリッサさんやレオナさんからは、見送りの姿勢も言葉もなかった。


 シーラの口にした『魔導師としての矜持』という言葉と、それに理解を示したレオナさんの発言。

 さらに、冷却魔法技術の提供に関する費用などを考えすぎたあまり、メリッサさんは見送りにまで思いが及ばなかったのだろう。

 また、今日はこの後も俺とシーラが、商工会ギルド1階の商談室を借り続けることから、今回は見送りまでは、という抑制も働いたのだろう。


 そんなことを思いながら、シーラと共に応接室を出ると、アナスタが待っていた。


 俺とシーラの姿を確認したアナスタが、改めて周囲を見渡す。


 そこには誰もいないことは、わかっているのだろうが、その周囲を見渡す様子は、幼い頃にエルミアやコンラッドが時折見せたものを、思い出させる。


「アナスタさん。いろいろと、ありがとうね」


「⋯⋯ いえ⋯」


 シーラの投げ掛けに、アナスタが言葉を選ぶ間を感じた。

 まだ、シーラとアナスタの間には、わずかに距離というか、互いの立場に慣れない関係というか⋯


 いや、違うな。


 シーラが『さん』付けで呼んだことに、アナスタが返し方で迷ったのだな(笑


 そんなやり取りを経て、アナスタには応接室での昼食の後片付けを任せた。

 また、帰りの馬車の手配も、シーラがアナスタに頼んだことで、俺は歩いて帰らずに済むことが確定した。


「シーラ、済まんな。帰りの馬車まで頼って」


「ううん、気にしないで。最初からそのつもりだったから(笑」


 そんな会話をしながら、俺とシーラは再び商工会ギルドの1階に降りた。


「イチノス君は、明日は予定があるんだよね?」


 衝立で仕切られた通路を歩いていると、不意にシーラが問い掛けてきた。


「そうだな。明日は、ヘルヤさんが来店する予定だな」


「ヘルヤさんって、ドワーフの?」


 シーラの問い掛けに、俺はあることを思い付いた。


「シーラも、参加するか?」


「えっ?」


「ほら、沸騰と冷却の話が、出てたろ?」


「ああ、あれね。あれって、たぶん蒸留が目的だろうから、水分除去の方が、良くない?」


 シーラの案は、なるほどと頷ける意見だ。


「そうだな。そうした、こちらからの提案を伝えるためにも、明日、店に来ないか? 今日みたいに、依頼者の考えや目的を、きちんと聞いた方が良いだろ?」


「う~ん。私が行っても大丈夫なのかな? 何時からなの?」


 そう問い返されて、思わず答えに詰まってしまった。

 ヘルヤさんが何時に来るかについて、確認をしていないことを思い出したのだ。


「何時だったかな。店に戻って、サノスかロザンナに聞けば、覚えていると思うんだが⋯」


 そうした話を、シーラとしながら、衝立でできた通路を抜けてホールへ出ると、ナタリアさんとナログさんが、三人の商人の相手をしていた。


 三人の商人は、その纏っている色鮮やかなベストの配色から、昼前に挨拶を交わした、ヤセルダさん、ヨエルゾさん、カライカさんだと、わかった。


 そして、俺とシーラに最初に気が付いたのは、ナタリアさんだった。

 ナタリアさんの顔や視線で気が付いたのか、三人の商人が振り返る。途端に、俺とシーラへ近付こうとするのを、ナログさんが体を張って制した。


「イチノスさん、お願いがあります」

「シーラさん、お願いします」

「お願いします」


 ナログさん越しに、三人の商人が、俺とシーラにお願いをしてくる。


「ダメですよ。昼前にも、伝えましたよね。ホールでの商談は禁じていますよ。それに、相談役への直接の陳情も禁止されています」


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