008 才能の片鱗
「お、頼もしいねぇ。それじゃ、頑張って貰おうかな~」
意を決した俺の表情を見て、リララが感心したような声を上げる。
それと同時に近くにいたフィンティだけでなく、離れていたクレイアも、俺を援護できる位置まで近寄って来てくれた。
「が、頑張ってください。危なくなったら、すぐに援護しますから!」
「くれぐれも、この程度の相手に後れは取らないでくださいね。デルフィニクスの名声に傷がつくだけでなく、アクアルタ自体の名折れにも繋がりますから」
「……あのさぁ、これから初戦闘だっていう新人に、プレッシャー掛けてどうするの? まったく……」
そうして珍しくクレイアをたしなめた後、リララは改まってこちらに向き直ってくる。
「ちなみにだけど、事前にある程度はレクチャー受けてるんだよね? アクアニウムのこととか知ってる?」
「……ええと……装甲に使われてる、特殊な金属のことだよな? 確か水を吸って自己修復するとか、そんな事を映像では聞かされたが……」
「そうそうそれのこと。そんなヤバイ仕様がデルフィニクスにはあるから、多少の被弾は気にしなくてもだいじょーぶだからね。ミスとか気にしないで、気負わずやっちゃっておっけー」
「それに今回は私たちだけでなく、後ろにワダツミも控えていますから、安心して下さい。あと、アドバイスとしては……まずは使いやすい汎用武装を使って、セーフティーに立ち回ってみると良いんじゃないかなと、思います」
「……ああ、分かった」
そんなリララやフィンティの助言に、何度か頷いて見せる。
そして事ここに至り、どうしてリトルマザーがシミュレータや模擬訓練といった段階を経なかったのか、ようやく悟ることが出来ていた。
……確かに自己修復機能に加え、ここまで手厚いサポートがあるなら、直で戦場に投入しても問題はないのだろう。それに実戦を経験できる分、何度も訓練を重ねるよりよほど効率も良いはずだ。
と、同僚二人がそんな優しい声かけをしてくれる中。クレイアだけは、全く真逆の発言を投げかけてくる。
「というか。こんなに手厚いバックアップは今回限りでしょうから、私としてはむしろ被弾覚悟で『メルクリウスソード』を使ってみた方が良いと思いますが」
「えっ、本気? アレって言っちゃえば、ただの剣じゃん」
「……ただの剣ではないですし、ベルは実際にアレで敵をいとも容易く切り刻んでいたじゃないですか」
「でも接近しなければ当たらないでしょ? やめといた方が良いと思うけどなぁ……」
「……。何というか、リララはあまりに過保護なのでは? もちろん、そうしたくなる気持ちも十分に分かりますが……」
「……むしろクレイアこそ、新人に対してあまりに投げやりなんじゃないの?」
「そんな事はありません、早くいっぱしのパイロットになって貰いたいだけです」
「それはもちろんそうだけどさぁ……」
そうしてクレイアとリララが勝手にやいのやいの言い合う様を聞きながら、俺は改めてコクピット内を順繰りに眺めてゆく。
――手元の武器ラックには、先ほどリララ達が実演してくれた『フォトンライフル』や『72式誘導ミサイル』、あるいは『アクセラレートサブマシンガン』とそっくりのレプリカが差し込まれていた。
加えて遠近それぞれでとっておきの武装も用意されている。遠距離用はハープを模したような弓と矢のイミテーション、近接時の秘密兵器は足下に備わっている特殊なペダルがトリガーだ。
ちなみに、斜め上にあるシンバルを模したものが、セイレーンウェーブのスイッチである。何かを握ったままでも、バチのように叩けるよう設計されているらしい。
そして……左側の武器ラック一番手前に刺さっていた、機械じみた片刃の剣。
これこそがノーブルの固有武装、『メルクリウスソード』のコントローラーだ。
「ま、機会があったら使ってみるさ。まずは試したいことが色々と出てきたし、それらをやってみてからだ」
俺はずいと前線に立ち、向かってくる敵機たちを正面から見据えた。
そうしてまず武器ラックからバズーカを引き抜くと、無人機に向け何発か適当に放つ。
するとそれらは、勝手に敵の懐へと吸い込まれていった。
「……なるほど」
その弾速を確認した後、飛んできたミサイルは横っ飛びで避けつつ。今度はフラッドハウンドなる有人機に向けて、同じようにミサイルを放つ。
それと同時にデルフィーネモードへと変形した俺は、ミサイルを追い越すようにかっ飛ばすと、敵機の背後にぐるり回り込んだ。
相手パイロットの戸惑う声が無線に乗って聞こえてくる。
「うぇっ⁉ 何なんだよ、その動きは……‼」
「後ろで見てて思ったんだよ。……俺ならこうする、ってな!」
ミサイルの着弾に合わせ、こちらからもフォトンライフルを連射。
一瞬でクロスの射線を組まれた相手は回避が全く間に合わず、為す術なく撃沈していった。
続いて近場で呆然としていた機体は、セイレーンウェーブで足止めの後、サブマシンガンの弾幕で処理。
雄叫びを上げながら接近してきた奴らには、まず的確にレーザーを当てて数を減らしつつ、それでも懐に飛び込んでくる輩には、あえて拳で応戦していく。
「意のままに動けるっていう仕様は、銃撃戦じゃなくて、格闘戦でこそ生きると思うんだよな!」
そうひとりごちながら、俺は的確に踏み込み、フックやストレート、あるいはニーキックを繰り出していった。
女性の体ということもあって動きにキレこそないものの、しかし握りしめたヒートソードを振りかぶるか振り下ろすかの択しかない相手は、まともに応戦も出来ず打ち込まれていく。
「ぐっ……い、意味分かんねえぞ、早すぎだろ……!」
「性能差なんて、始めから分かりきってただろ?」
そんな言葉の応酬の後、俺はトドメとして、相手の機体のみぞおちに手を当てた。そうして足下のペダルを踏み込めば、渦巻いた水流が手のひらからものすごい勢いで放たれてゆく。
「そんじゃ終いだ! ――リーヴ、ツイスターっ‼」
その叫び声と共に吹き飛ばされた機体は、水切りした石のように何度か水面を跳ね、最後に残っていた無人機を巻き込み、そのまま廃墟のビル群へと突っ込んでいった。
そうして水面にスタッと降り立った俺の周りに、敵はもう誰も立ってはおらず。
辺りには廃ビルが崩れ落ちてゆく、地響きのような音が響くばかり。
「わお……」
「……操縦技術だけじゃなく、戦闘技術もすごいなんて……」
「初陣、なのです……よね? 本当に……」
そんな三者三様の称賛をバックに、俺は少し早くなっていた鼓動音と共に、ふと今の動きを脳内で軽く振り返る。
……楽しかった。魂が震えるほど。
もちろんそんな思いを抱くこと自体、不謹慎であることは分かっている。
それでも世界最強のモビルフレームを思いっきり、思うがまま動かせたのだ。
そもそもデルフィニクスを見てパイロットを志した身でもある。これくらいは仕方ないだろう。
それから……なるほど。いつぞやリトルマザーが俺の素質について、自信たっぷりに語っていたが。今ならばあそこまで警戒されるのも、少しは分かるような気がする。
それくらい、初陣にしては会心の出来でもあった。
そんなわけで、俺は高揚感からなにげなく己の右手を見つめ、ぎゅっと握りしめていた。
するとリララが、おもむろに一言投げかけてくる。
「……ところでさぁ、なにそのポーズ。フィギュアのパッケージみたいにかっこつけてるけどさ」
「ん、あ、えと……何でもない」
慌てて拳を解くが、リララはなおも俺を茶化すばかり。
「ていうかさ、一つ言っていい? 武装名を必殺技みたいに叫ぶのは、ちょっと厨二病入ってたかもよ?」
「い、良いだろそんくらい! 流れでつい口にしただけだ‼」
「いやぁ~やっぱこういうとこは男の子だよねぇ、胸からメロン下げててもさ。いいのいいの、わたしだって色んな台詞をマネして言ってるし。実はさ、仲間が出来て嬉しいんだよ。だから今後も、気にせず叫んじゃって良いからね!」
「……金輪際やらないからな‼ 第一、メロンメロンって……自分だってスイカお化けのくせに……!」
そう吐き捨てつつ。それでもそのからかいで、結果的に落ち着きを取り戻せたことに密かな感謝もしながら。
そのまま皆のところへ戻ろうとした……その時だった。
――ふと崩れた廃ビルの中から、モビルフレームが一機、瓦礫と共に姿を現したのは。




