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白き花のアクアマキナ ~男の俺が女性専用機に乗って無双するまで~  作者: 山下 六月
第二章 『初陣』

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007 水面に咲く三輪



「ちょっ、ちょっと待ってくれ、俺はどうすれば良い⁉」


 各機それぞれが牽制を放ってゆく中、一人残された俺は、武器ラックの前で手を泳がせながら問いかけていた。

 ……事前のミーティングでは、必ず指示に従えとしか言われていない。

 すると、一番後方にいたリララが俺に指示を出してくる。

 

「ひとまずアシュリーは、私の後ろの方にいてくれる? 何するにしても、まずは数減らさないと始まらないからさ!」

「……分かった」


 やる気満々だった俺は、それでもひとまずはそれに従い、リララが操るマリーのさらに後方へと位置取った。

 

「ん。そんじゃまずは、わたし達の動きを見てて。なるべく汎用武装……そっちにも備わっているものを使って、あいつら捌いていくからさ」


 その言葉と共に、リララもまた遅れて戦場に繰り出してゆく。

 


 そうして俺は意に反して、お預けを食らいはしたのだが……俺はすぐに逸る気持ちなど忘れ、目の前で繰り広げられてゆく戦闘を、棒立ちのままただただ見入ってしまっていた。

 何故なら。3人がデルフィニクスを乗りこなして戦う様は、それほどまで可憐で、美しく、激しく……そして格好良かったからだ。

 

 ――そもそもデルフィニクス……中でも人型状態(ニクスモード)のフォルムは、いわゆるロボット然とした角々しいものであり、周りの汎用機たちと似通っている部分も多い。

 むしろ汎用機たちの方が後発で、デルフィニクスのデザインを模して数多のモビルフレームが作られていった経緯もあるらしいから、さもありなんと言った所なのだが……それでも肩幅の狭さや、花弁を模したようなスラスター付きスカートなど、細かなところでは女性らしさを感じられる作りにもなっていた。

 だからこそ無骨で色味の薄い周りと見比べたとき、より鮮やかに見え、目を惹かれるのだろう。



「同情しますよ。このメタルマーメイドを相手取ったことを」


 そんな言葉を吐いたクレイアは、両手にそれぞれ握ったサブマシンガンを突撃銃のように構えると、ぎゅん、ぎゅんという音でも鳴るかのようなジグザグステップを踏みながら、敵陣へ突っ込んでゆく。

 

「くっ、速い……‼」


 相手は必死にその動きを追おうとするが、性能の低いフラッド型では当然追いきれるわけもない。

 かといって、足を止めるのはもちろん自殺行為だ。ていの良い的となった敵機たちは、サブマシンガンによる銃弾の嵐によって順番に蜂の巣にされてゆく。

 それを見て、慌てて距離を取ろうとする機体も現れ始める中。今度は例のライフル銃を取り出すクレイア。

 

「無駄です。……この距離なら、まず外しません‼」


 そんな叫び声と共に放たれた数多のレーザー光線によって、逃げ腰だった奴らも完全に無力化されてしまう。

 しかし敵陣ど真ん中に突っ込んでいったが故に、周囲にはなおも数多の敵機が存在していた。

 それでもクレイアは、飛んでくる銃弾やレーザーは装甲に掠めるギリギリで躱しつつ、振り下ろされたヒートソードには持っている銃で受け止め、跳ね飛ばし、的確に狙撃を返していく。



 そして、そんなクレイアを包囲する一角に、突如襲来する銃弾の雨あられ。

 

「早く終わらせて部屋に引きこもりたいんだからさぁ、さっさと諦めてくれると、助かるんだけ……どっ!」


 そんな気の抜けた言葉と共に放たれる、ロングレンジからの理不尽な援護射撃により、敵機たちは容赦なく狩り取られてゆく。

 

 しかし、その腰に構えた大掛かりなガトリングガンは、見るからに重そうでもあった。近接さえ出来れば、十分隙を突けそうにも見える。

 だからこそ数機が包囲網を解き、弾幕をかいくぐりながらリララに接近を試みてゆく。

 ただ当然、そんなことはリララも分かっていて。

 

「それで弾を避けてるつもりなのは、流石に面白すぎじゃない?」


 むしろ向かって来てくれるなら格好の的だとばかりに、そいつらは動きを先読みされ、ことごとく撃沈されていった。

 背に腹は代えられないと、相打ち覚悟でミサイルが放たれれば、リララは手元のデータを眺めながら一言。

 

「んー、避けなくても問題ないっぽいけど。まぁ避けとこっかな」


 そうしてリララはそれをひらりと躱すが……しかしその先には、ヒートソードを握った敵機が海中で待ち伏せしてもいて。

 

「ちょっ、それはさすがに、当たると色んな人に怒られるんだけど‼」

「……食らえっ‼」


 ざぱぁんという音とともに、水面へと切り上げられるヒートソード。

 しかし渾身の一撃であったはずのそれは、重装甲らしからぬ華麗な身のこなしによってあっけなく躱されてしまう。

 逆に重量のある銃身を使った横薙ぎ一閃によって、あえなく跳ね飛ばされていく敵機。

 無慈悲に向けられる銃口。

 

「ま、当たらなければどうという事はない、ってやつだね。んじゃあひとまず……蜂の巣にでもなっとこっか?」


 にっこりと微笑んだリララによって、敵機はあえなく無力化されてしまうのだった。



 一方フィンティもまた、突貫していったクレイアから敵機を引き剥がすべく、別方向からヘイトを買ってゆく。

 

「脱出手段の確保は出来てますか? ……行きますよ!」


 そんなフィンティらしい忠告と共に取り出されたのは、無骨なバズーカだった。

 そこから放たれたミサイルは、速度こそ遅いもののとてつもなく追尾性能が高く、確実に敵機へと誘導されてゆく。

 必死に水中へと潜って難を逃れようとする敵機だったが、実は魚雷代わりにもなるそれに呆れるほど食らいつかれ、右往左往する羽目になっていた。

 ただ、そうして僚機があっけなく水柱を上げていく中。

 

「っ、ざけんなよ……!」


 気を吐いた一機が何とかレーザーを当て、誘爆に成功。

 しかしその隙にフィンティも水中へと潜っており、その死角からライフル銃を構えていた。

 

「もちろん読めてますよっ、その動き!」


 そんな叫び声とともに放たれたレーザーは、水中での威力減衰が極力抑えられてあるらしく、海の中でも問題なく敵機を屠ることが出来ていた。

 

 続けてクレイアの包囲網にアプローチを試みるフィンティ。

 今度は肩にあるスピーカーのような機構で、超音波を広範囲に発生させてゆく。

 ――それは『セイレーンウェーブ』と名付けられた、牽制や援護目的の非殺生兵器だった。

 音波で計器に異常をきたすそれによって動きが鈍らされてしまった敵機たちは、続くクレイアやリララからの攻撃によって、あえなく撃沈される運命を辿ることになる。

 

「無益な戦いはやめて下さい、貴方たちにも家族はいるはずです……!」

「……うわフィンティ、そんな映画のような台詞、マジトーンで言うんだ……」

「だっ、だって……」


 思わず言い繕うフィンティだったが、それでも動きは先ほどまでと変わらず、敵機たちとつかず離れずの距離を保ち、攻撃を華麗に避け、そして武装を的確に当てていくのだった。

 


 ――それぞれの機体に得意な距離が設定されているからか、彼女たちは三者三様の動きを見せていた。

 近距離機のクレイアは恐れ知らずに敵陣へ突っ込んでいくし、逆に遠距離機のリララは常に距離を保って、射程外から敵を屠っていく。

 中距離機のフィンティは相手を良く観察し、常にセーフティーに動いている……そんな印象である。

 

 ただ共通して言えるのは、3人は全くダメージを喰らわずに立ち回っているということだった。

 汎用武装という縛りでもなお、この数を圧倒する様は、まさに世界最強モビルフレームといったところ。

 銃弾やレーザーを華麗に避けながら敵を屠っていく様は、まさに戦場に舞う妖精とでも表現すべきだろうか。

 


 と、そうしてこちらが半ば呆けている中。ふとリララが頭を掻きながら口を開く。

 

「う~ん……ねぇアシュリー、ある程度分かった? そろそろ固有武装持ち出して、一掃したいんだけどさぁ」


 そんな申し出に対し、何故か俺ではなく、周りが待ったを掛けていた。

 

「ちょっ、ちょっと待ってリララちゃん、アレをフラッドハウンドに撃つのは、流石にオーバーキル過ぎじゃ……」

「そうですよリララ。燃費だって馬鹿にならないんですから、教官からドヤされても知りませんよ」

「でもさ、『ネレイドカノン』は二人の固有に比べたらずいぶん低燃費じゃん。だいじょぶだいじょぶ、期待の新人に固有武装の紹介しましたーって言えば何とかなるはずだって」

「……その発言もすべて、デブリーフィングで提出するログには残っているんですが」


 呆れながらそう返すクレイアだったが、リララはどこ吹く風。

 

「そもそもこういう輩ってさ~、圧倒的な力を見せつけなきゃ、とことんしつこいだけじゃん。それとも、そっちが使ってくれる? 特にフィンティのやつなんかは、こっちのよりよっぽど対多数に強いわけなんだしさぁ」

「うーん……クレイアちゃんを巻き込んじゃう危険があるし、撃たなくてもなんとかなるような状況で撃つのは……」

「ならやっぱりわたしがやるしかないじゃん。どうせ何かしら見せないと、自主的にお帰り頂けないよ?」

「とはいえ、フォトンライフルの一発とは比べようもないエネルギー消費量で……いえ、もう良いです、勝手にして下さい」


 あまりに乗り気な様子に、言っても無駄だと悟ったのだろう。クレイアはなおもサブマシンガンで敵を捌きつつ、通信にはため息を乗せてくる。

 するとお墨付きを得たとばかりに、リララは嬉々としてマシンガンをしまい込んだ。


 そうして、代わりに取り出したのは……でかくて長くてごつい、そして何よりものすごい流麗で格好良いライフルだった。

 すぐさま長細い先端部分の先にエネルギーが集約していく様子が、光と音で見て取れる。

 

「そんじゃ~、景気よく行きますか! ……リララ、行っきまーす‼」

「……景気よく撃ったら、低燃費云々は関係なくなりませんか……?」


 そんなクレイアの忠告を華麗に聞き流し、リララは銃口をまずは無人機へと向ける。

 そして。

 

「落ちろっ、カトンボぉー‼」


 そんな演技めいた叫びとともに放たれたのは、白銀に光り輝く光線だった。

 見るからに威力がありそうなそのレーザーは、煌めきと共に機体ににまん丸の穴を開けてゆく。

 もちろんその無人機は瞬く間に爆発、四散。

 吹き飛んだ手の一部が、弧を描きながらポチャンと水面に落ちた。

 

「ふはははは~‼ デルフィニクスは、伊達じゃなーいっ‼」


 そんな声と共に、今度は敵機が密集している辺りに向けそれを雑に放つと、光線の通過からワンテンポ遅れて、軌道上にいた機体から次々に爆煙が上がってゆく。

 またも響く閃光音、無秩序に上がる爆発音や水柱の音。そして放たれる高笑い。……もはやどっちが悪役なのか分からない。

 

 そしてその圧倒的な火力を目の当たりにした敵の中には、這々の体で逃げ出すものまで現れだした。

 ……無理もない。相手のほとんどが、寄せ集めの傭兵とも聞いているし。

 

 そんなわけで、狙撃されるか逃亡するかによって、おびただしいほどいた敵機の数はいつの間にやら淘汰されてゆき。自然と戦場に立っているのは一部の気骨のあるものや、心を持たない無人機だけになっていく。

 だからこそリララは遠慮なく、残ったものたちを屠っていくのだった。

 

「……すごいな……」

「あ、あはは……」

「……普段は自重している分、ここぞとばかりにタガを外してるみたいですね……」


 俺のぼやきに対し、フィンティは乾いた笑いで、そしてクレイアは盛大なため息で応じてくる。

 ……確かにこれなら、普通この規模は1機で相手する、などという話も納得である。

 

「そういや、二人の固有武装も、これくらいの威力があるものなのか?」


 ふと浮かんだ疑問をそのまま口にすると、フィンティは静かに首肯を返して来た。

 

「単純な比較は出来ませんけれど……見た目のインパクトで言えば、どれも似たようなものですね。ただ、中でもネレイドカノンは、強さが一番分かりやすいと思います。他は全て、ピーキーな性能ですし」

「そういえばそっちのは、味方も巻き込むとか言ってたな」

「はい。言ってしまうと、広範囲に電撃を食らわせるものですから。それにクレイアちゃんのほうは、ある程度敵機と距離が近くないと意味がないですし……」

「……ガーネットの固有は、機体のあらゆる箇所から特殊な弾をばら撒くだけです。基本的に単体攻撃ですし、連射も当然出来ません」

「なるほど、そりゃピーキーだ」


 ふと頷きを返す。

 すると、クレイアは少し遠い目をしながら続けた。

 

「それに……撃った後は毎度、整備士さん達が苦労して弾を籠め直しているのを知っていますから。ですから、雑魚相手に放つなんてもっての他。せめて士官級のモビルフレームが相手じゃないと、割に合いません」

「対ワンダードだと……エリート機は、大体がタイダル級になるのかな。確かにアレを相手取るなら、固有は欲しい所だよね」

「……ふーん、そんなもんなのか……」


 思わずそんな相づちを打つ中、クレイアはリララをたしなめに掛かっていた。

 

「……それはそうと、リララは明らかにやり過ぎです。後で絶対怒られますよ、それ」

「あー、やっぱり? ちょーっと調子に乗りすぎたかも……」


 ふとリララが最後に撃ち込んでいた方を確認すれば、そこには機体の残骸が山ほど浮いていた。

 人が乗っているモビルフレームだけはちゃんと加減して撃っていたようだが、手加減してなお、立っているものなどほとんどいない状態である。さすがは一騎当千のデルフィニクス。

 ……とはいえリララにやられた相手は、自分がまさかお遊び半分でボコられたとは思っていないだろう。



 と、そこで。

 雑に撃っていたが故に撃ち漏らされた敵たちが、最後の反撃に出るべく、徒党を組んでいる様子が見て取れた。

 

「お、なんだかちょうど良い数が残ったね。それじゃあ最後は、アシュリーちゃんに片付けて貰っちゃおうかな~。……どう、出来そう?」


 それを見たリララが、気楽にそう聞いてくる。

 何だか夢見心地で観戦をしていた俺は、そんな問いかけにふと現実に引き戻され、思わず瞬きを繰り返していた。

 

「……大丈夫ですか? あんまり自信がないなら、一緒に戦うことも出来ますけど……」

「ああいや、大丈夫だ。皆があまりにも華麗に戦ってたから、つい見とれてたってだけだ」

「見とれてた、って……デルフィニクスはあくまでも、世界に安寧をもたらすための力にしか過ぎません。見世物ではないのですが」

「ああ、そうだな、分かってるさ。……ともあれ、問題ない。好きなようにやって良いんだよな?」


 そう問いかけながら、かぶりを振ってもう一度気持ちを入れ直す。

 そうしてから、俺は一歩前に踏み出した。




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