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白き花のアクアマキナ ~男の俺が女性専用機に乗って無双するまで~  作者: 山下 六月
第二章 『初陣』

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009 未遂



「……くっ、何故ここにいることが分かった……⁉ タイダル型は視認されなきゃ、レーダーには映らないんじゃないのか……⁉」

「へっ……?」


 思わず素っ頓狂な声が出る。もちろん、そこに敵機が隠れているだなんてつゆにも思っていなかったからだ。

 ……はっきり言ってリーヴツイスターの射出先は、完全に適当だった。つまりこいつが姿を現したのは、完全に偶然の出来事である。

 

 そしてそんな思いがけない事態に、クレイア達は何故かこぞって慌て出してゆく。

 

「っ、タイダルランサー⁉ 何故エリート機がここに……⁉」

「もしや、この部隊を率いていたんでしょうか……? 正規軍でもないのに、あんなの何機も用意出来るわけもないでしょうし……」

「アシュリー下がって! そいつは新人が相手するような奴じゃない!」


 ……なるほど、俺をからかっていたはずのリララから、一瞬で余裕が消えるほどだ。皆が相当焦っているのが分かる。

 しかし、とはいえ一機だ。

 俺はあえてその指示には従わず、その場で仁王立ちをして見せた。

 

「まーまー先輩方や。ここは一つその新人とやらに任せて、後方で腕組みでもしててくれないか?」

「っ⁉ ほ、本気で言ってるんですか……?」

「もちろん。エリート機って言っても、デルフィニクスよりは何倍も劣ってるんだろう?」

「そりゃもちろん、そうだけど……」

「なら問題ない。さっきと同じように、割って入る準備さえしててくれればいいさ」


 そう告げるが、それでも三人は不安そうな表情を隠そうとはしなかった。

 ただそれでも、俺は気遣いは無用だとばかりに前に出る。

 

 ……なんせ、降って湧いたおかわりだ。さっきは一瞬でおわってしまい、物足りないとすら思っていたところでもある。

 それに自分がどこまで強いのか、試してみたくもなっていた。

 

 俺は間合いを測りながらそいつに近づいていくと、たまたま足下に漂っていた敵のヒートソードを拾い上げ、ぐわんと投げつけた。

 そして相手がそれを腕で弾いたのを皮切りに、俺とそいつは一気に肉薄してゆく。

 

「……なんで4機まとめて来ないのか分かんねぇが、各個撃破できるなら願ったりだ!」


 そんなダミ声が無線に乗って聞こえてもきた。

 俺はフォトンライフルを突撃銃にしながら、売り言葉に買い言葉をぶつけてゆく。

 

「なめられてるって事に、まだ気づいてないみたいだな?」

「……なめてるのはそっちだろ⁉ タイダル型の装甲をなめんなよ‼」


 そんな言葉と共に、相手はライフルの弾幕をものともせず突っ込んでくる。

 あまりにも捨て身で予想外なその動きには、流石に面食らうしか出来ず。銃を握りしめたまま、近接対応を余儀なくされてしまう。

 

 繰り出されるトライデントを左、右と躱し、その腹部を足の裏で蹴り上げて距離を取る。

 それでも追いかけてくる動きにはライフルで応戦するが、やはり傷こそつけども、その動きを止めるには至らず。

 

「しつこいな……」


 仕方無く俺は再度距離を取ると、瞬時にデルフィーネモードへ転換して思いっきり距離を稼ぐ。

 流石にこの速さにはついて来れないのか、相手はようやくそこで動きを止めた。

 

「なるほど……確かに面倒だな、こいつは」


 おもわず独りごちていると、見ていられないとばかりに、後方で控えているフィンティ達が参戦して来ようとする。

 

「……タイダル型はワンダードの正規軍で、士官機としても採用されている機体です。とにかく固いのが売りで……もちろん自己修復能力はないんですが、装甲の単純な固さだけなら、デルフィニクスをしのぐほどなんです」

「お恥ずかしい話ですが……私は過去、弾を撃ち尽くした状態でタイダル型数機に囲まれ、撤退を余儀なくされた事もあります」

「……っ、だから言ってるじゃん! そんなに叩きたいなら、せめて4人全員で……」


 フィンティは緊張感を漂わせ、クレイアは忸怩たる思いを乗せて。そしてリララは切なる声を上げながら。

 三者共に、これまで聞いたことないような声色でこちらを心配してきてくる。

 しかし、それでも俺はあえてそれを手で制していた。

 

「いいから! ……良いから、見てろって」


 心配を掛けて悪いとは思っているが、それでも俺は今、めちゃくちゃに燃えていた。

 ……やはりこれくらい歯ごたえがあるほうが、やりがいってヤツも生まれるだろう?

 

 俺は先ほども使った時間差攻撃を狙うべく、ミサイルを遠距離から放ちつつ、デルフィーネモードへと再転換した。

 

「さっきと同じ手か? 見え見えなんだよ‼」


 相手はこちらの動きを読み、サブマシンガンでミサイルを誘爆させながら、くるりと振り向く。

 だが、そこに俺の姿はない。

 

「同じ手を使うわけないだろう?」


 さらに四分の一周ほど回り込んでいた俺は、相手の読みを上回るべく、あえてもう一度ミサイルをぶっ放していた。

 当然これも迎撃されるが、しかし風上での爆発となったため、相手の視界は次第に爆煙という名の煙幕で覆われることになる。

 

「……ちっ」


 煙に乗じて接近してくると読んだのか、相手は一目散にその場を離れていく。

 そうして視界を確保した相手は、しかし俺が見あたらないことに気づく。

 

「……そこか!」


 サブマシンガンで、爆煙の中めがけ弾幕を張る相手。だがもちろん、そんな所に隠れているわけもない。

 ただ……レーダーを見る限りにおいては、俺は間違いなくそこにいるはずだった。

 

「どうなってやがる……?」


 とっさに相手がそう漏らした次の瞬間。海中にぽわりと光が灯る。

 ……そう。煙幕の下、海中深くに沈みながら、俺はハープを模した弓に矢の如き魚雷をつがえていた。

 

「てめえっ……」


 そんな罵りを聞きながら、俺はそこでふと、脳裏によぎった言葉を口にする。


「――デルフィニクスの異名は、メタルマーメイド。洋上だけでなく、海中もまた主戦場だ」


「……! ちょっ……⁉」

「え? クレイアちゃん、どうしたの?」


 通信越しに聞こえるは、そんなクレイアの声にならない声。

 いつぞやの意趣返しがちゃんと伝わっていることを確認し、俺はにんまりと口の端を釣り上げた。

 

「そのことに気づけなかった時点で……お前の負けだっっ‼」


 そうして俺は、汎用遠距離武装にて最高火力を誇る『トルピードアロー』を、敵機目がけ放っていく。

 ――もちろん数秒後には、タイダルランサーは爆発の中心と化していた。

 

 ただ。その爆風を食らってなお、タイダルランサーは膝をつくだけで、何とか耐え続けてもいた。


 しかしともかく、大勢は決している。後は相手が白旗を揚げるのをゆっくり待てばいい。

 俺はふぅと一息つき、緊張を解いてゆく。


 ……確かに歯ごたえのある敵ではあったし、リララたちが焦るのも分かる。こちらが複数いるのなら、協力して叩いた方がずっと楽に対処も出来ただろう。

 だがそれでも、なんとか初見でも一人でやっつけてしまうことは出来た。

 疲労感は多少あれど、それでも達成感や充実感、それに高揚感をひしひしと感じてもいる。

 

 そして。それと同時によぎったのは――ちょっとした、邪念だった。

 

「速くて、扱いやすくて、強い。これがいまや……俺専用の機体となったわけか……」


 リララたちには決して聞かれないよう、ぼそりと呟いたそれは、身に余る力に当てられた気の迷い、あるいは錯覚といった類いのものだった。

 ……そう。世界最強と呼ばれるこの機体さえあれば、理論上は世界の均衡を一人で崩すことすら出来るはずだと、そう発想を飛躍させてしまったのである。

 もちろんこの力を悪用しようとは微塵も思っていないが、それでも内心ふんぞり返るぐらいはしてもいいんじゃないか、と。


 急にむくむく湧き出てくる、良くない自尊心。

 それが好ましくないものだということも重々承知の上で、俺はほとんど労せず手にした力の大きさに、少々酔いしれてもいた。


 と、そんな中。

 ふとモニター越しに、鋭い指摘がクレイアから飛んできた。

 

「ちょ、ちょっと、何ぼうっとしているんです? まだ終わってはいませんよ?」

「……えと、トルピードアローはタイミング良く爆発させるより、そのまま直撃させた方が、威力が出るんです。多分タイダル型は爆発に巻き込んだぐらいじゃ、まだ……」


 そんなフィンティからの助言も受けて、よくよく見てみると。

 よろよろとした動きではあるが、確かに相手は銃を拾いに動いてはいるようだった。

 

「まったく、ほんっとーに固いんだな、タイダル型ってやつは……」


 思わずそうぼやきつつ、俺は銃を拾いかけた腕を、フォトンライフルで淡泊に狙撃。

 しかしその腕を弾くことは出来ても、やはり戦意を喪失させることは叶わなかった。

 

 だからこそ俺はそいつにとどめを刺すべく、慌てて浮上してゆく。

 ふと武器ラックから取り出すは、機械じみた片刃の剣。

 ……そう、ノーブルが持つどの武装よりも攻撃力があるこのメルクリウスソードでなら、たとえタイダル型であろうとも、そのご自慢の装甲を破壊出来るだろう。

 

「……くっ……」


 流石にまともには動かせないのか、俺が目の前に立ち塞がっても、煤まみれの相手は呆然と膝をつくことしか出来なかった。

 だからこそ、俺はあえて隙を晒しつつ、剣を上段に構えてゆく。

 

「だが。……これで終わりだ」


 そんな言葉と共に……俺は相手を袈裟切りにすべく、それを思いっきり振り下ろした。




 ――否。

 振り下ろした、はずだった。




 何の予兆もなく、ガクンと力が抜ける。視界が一瞬、斜めにぶれる。

 

「……?」


 ――力に溺れそうになっていた罰が当たったのか、それとも何らかの大きな力でも働いたのか。

 気づいた時には、俺は剣をポロリとこぼしながら、相手の眼前で跪いてしまっていた。

 

「え? あ、……なんだ? いま、の」


 知らず知らず、そんな言葉が漏れる。

 コクピットの中で無意識に、自分の手へと目を落とす。

 すると、目の前の相手も俺の変調に気づいたのか。最後の力を振り絞ると、取りこぼしたメルクリウスソードを手に取った。

 

「ぼさっとしてるなら、刺し違えるだけだぜ……⁉」


 もちろん相手は、それを十全に扱うことは出来ない。しかし単なる刃物としてなら、当然使うことは出来る。

 俺は回避行動も取れず、刃が間近に迫る様子を眺め……。

 

「っ、何やってんの⁉ トドメ刺すなら、最後までやりなよ‼」


 刹那。敵が横に吹っ飛んでいくと同時に、眼前を超高エネルギーの光が通過してゆく。

 ……それがリララが放ったネレイドカノンだと分かるまで、数秒を要した。

 

「大丈夫ですか⁉」


 慌てて近寄って来てくれるフィンティ。

 クレイアは精密狙撃によって吹き飛ばされた敵機から、メルクリウスソードを奪い返してきてくれていた。

 

「……その、相手はどうなった?」

「リララが的確に撃ち抜いた時点で、完全に無力化は出来てます。コクピットも無事ですから、放っておいても大丈夫でしょう」

「そうか。……ありがとう」


 礼を言いながら立ち上がり、リンクを一端切って、クレイアから剣を受け取る。

 そして落ちている模造の剣も拾い直し、まずはコクピット内の矛盾を解消。


 そうした後、俺は何度か自分の手を握りしめてはみるものの……しかし先ほどのような異常は、全く見られなかった。

 

「一体、何があったんです?」


 クレイアのそのストレートな問いに対し、俺は何も答えられずにいた。



 そうして俺の初陣は、確かな手応えと、それから一抹の不安を残し、なんとも言えない終わり方をしたのだった――。




ここまでお読み頂いてありがとうございます。

また、高評価やブックマークでのご支援、本当に本当にありがとうございます。

いつも励みにさせて頂いております。この場を借りて、お礼申し上げます。


引き続き、お昼時+αという形で、一日2更新を予定しております。

今後ともお付き合い下されば幸いです。

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