表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白き花のアクアマキナ ~男の俺が女性専用機に乗って無双するまで~  作者: 山下 六月
第一章 『メタルマーメイド』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
5/13

004 たったひとつの、強引なやり方



 ――そう。

 デルフィニクスが女性限定の機体だという事実は、もはや世界の誰しもが知っている常識だった。

 なんせその仕様が、かのメタルマーメイドという異名の由来にもなったぐらいである。


 だからこそ。幼かった俺やブライアンは、大人達から小馬鹿にされながらそれを聞かされ、泣きべそをかきながらデルフィニクスに乗る夢を諦めたのだ。

 ましてや目の前にいる人の面を被ったAIは、その機体を使って戦争に介入し続けている、まさに当事者そのもの。そのことを知らないはずがない。


 食い入るようにその顔を見つめる。

 するとリトルマザーは、俺の疑問にさらりと答えていった。


「はい、そのとおりです。それどころか、4機あるデルフィニクスは今もなお、初代パイロットの専用機、という設定にもなっています。仮に貴方が女性だったとしても、搭乗することは出来ません」

「そう、だったのか……いや、ちょっと待て。確か初代って、全員何十年も前に亡くなっていたよな? じゃあ今はどうしてるんだよ?」

「その設定や制約を、何とかごまかしながら運用しています」

「ご、ごまかしながらって、そんなむちゃくちゃな……」


 ……メタルマーメイドは絶えることのない紛争を一撃で鎮められる、言わば今の人類における特効薬みたいなものだ。そんな人類の希望とも言うべき存在が、そんな不安定な状況下で用いられているだなんて。はっきり言って、由々しき自体なのではないだろうか。

 しかしリトルマザーは、そんな懸念などとうに語り尽くされたとばかりに、続きを述べていってしまう。


「なので初代パイロットと極めて類似した存在……つまりは『機体に登録された人物と血縁関係にある女性』しか、今は乗せることが出来ないという状況なのです。そうでないと、ごまかしが効きませんので」

「……。それなら余計、俺が乗れるわけがないだろう?」

「ええ。だからあえてこう口にしました。デルフィニクスを()()()()()と」

「……」


 押し黙る。何かしらのカラクリ……それも、俺にとって都合の悪そうなカラクリがありそうな予感がした。

 リトルマザーはそんな俺の顔をじっと見つめながら、しかし若干言いづらそうな様子で続けていく。


「実は現在、とあるパイロットとの間に、重大な問題が発生しています。それにより、デルフィニクスの一機が運用出来ていないという状況です」

「重大な問題?」

「有り体に言えば、搭乗や出撃を拒絶されています」

「……!」


 ……驚いた。世界の安寧を担うメタルマーメイドのパイロットが、まさかのボイコットとは。

 ひょっとしてアクアルタでは、パイロット達が労働組合を結成していたり、ストライキを起こしたり出来るのだろうか。


 と、そう勝手に発想を飛ばしている中。

 続けざまに放たれた言葉に、俺は別の意味で肝を抜かされる事となる。


「ですが、交渉の結果――その体だけは、我々に貸して頂けることになりました」


「……は? 体だけ、貸す……?」

「はい。詳しい話は割愛しますが、デルフィニクスが半ば専用機となっている主な要因は、機体とパイロットの四肢をDNAレベルで接続しなければならないから。言い換えるなら、搭乗者の四肢が初代パイロットに近しければ、問題は出ないのです。つまり、必ずしも脳まで一緒である必要はありません」

「なんだなんだ、つまり言うこと聞かないから、脳みそだけすげ替えようってか? そんなの、移植する方もされる方も、承諾するわけ……」

「少なくとも、そのパイロットからはすでに快諾を頂いています」

「……。正気かよ?」

「ええ。そして幸運なことに……目の前にも一人、幼少期の頃よりずっと、デルフィニクスに乗りたがっていた人物もいます」

「……。…………⁉⁉⁉⁉」


 愕然とした。

 それは、それはつまり……。

 リトルマザーの水晶玉にも似た眼球が、おもむろに俺を射貫く。



「――問題を抱えたデルフィニクスのパイロットに、貴方の脳を移植する。そうすることで、喫緊の問題が全て片付くのです」



「……。本当に片付いてると言えるのかよ、それは……」

「はい、一切滞りなく。我々は再びデルフィニクス全機を運用出来るようになる。さらに貴方の能力を野放しにせず、飼い殺しにもせず、適切に使うことも出来る。そして貴方は、憧れの機体に乗る事が出来る。全員がWINWINとなります」


 ……なるほど。言っている事はかろうじて理解出来る。

 理解は出来るが……それでも、おいそれと首を縦に振れるわけがない。


「……自分の体を捨てて、他人の体の中に入れってか」


 うなるように、口に出す。

 そうしてから、見るとはなしに自分の手のひらを見つめた。

 

 ……幸いなことに、五体満足の体だ。大きな病気も怪我もした事はない。

 別に執着はないが、かといって愛着がないわけじゃない。

 あっさりと捨て去るだなんて……。


「戸惑うのも無理はありません。しかし……これを拒否した場合、貴方に残された選択肢は、拘禁か、もしくは死しかありません。よく考え、選ぶようにして下さい」

「……」


 あえてそうダメ押しをしてきた、目の前の幼女。

 ……はっきり言って、その二つはもはや選択肢ではない。

 しかしかといって、踏ん切りがつくわけもない。


 思わず、目の前が真っ暗になりかけた、その時。

 何故かふと、その人間味の薄い顔と、斜め前でたたずむ姿を見ていて思い出したのは……開口一番の言葉だった。


「そういえば。現れた直後は、やけに俺の心配をしていたが……あれは俺の身を案じてじゃなくて、単にすげ替える予定の脳に異常が出てないか、気になっていただけか?」

「……。ええ。言ってしまうと、その通りです」


 リトルマザーはその問いで、全てを把握されたとでも思ったのだろう。観念したような表情を浮かべ、肯定を返して来た。

 ……なるほど。やはりリトルマザーが現れた時にはすでに、俺に選択肢など与えられてはいなかったらしい。

 そう考えるとほんの少しではあるが、気は楽になった。


「もし俺が頑なに拒んだら、実際に長い間、牢屋へぶち込むつもりだったのか?」


 ため息交じりのそんな問いかけに、リトルマザーはふるふると首を振る。


「いいえ。あの手この手を使って、同意を引き出すつもりでした。こうして色々と、用意してもいたのですが……」


 そう言いがてら、リトルマザーはどこからともなく、おどろおどろしい大鎌を持ち出してきた。思わずギョッとして後ずさる。

 すると今度はそんな俺の足下から、じわりと水が流れ込んできた。同時にトゲがついた天井も、徐々にこちらに迫ってくる。


「ま、待て待て待て、いま実演して見せなくていい!」

「そうですか? この部屋では実体を伴う事も可能なので、面白い事も様々出来たのですが……」


 至極残念そうな様子で、大鎌を軽々と投げ捨てるリトルマザー。

 いつの間にか床も天井も元通りになっているのを確認し、俺は思わず肩で息をする。


 ――思い返すは、先ほどの会話。

 何故か嫌悪感を抱かれると愚痴をこぼしていたが……事ここに至り、俺は身に染みてそのわけを理解出来ていた。


 人権を欠片も考慮していない対応。人を換装パーツ扱いする思考回路。息をするように人を脅せるその倫理観。

 ……なるほど、確かに超高性能AIだ。人の情や機微といったものを、塵芥と同じに捉えていそうな点まで含めて。

 こいつには絶対に心を許さないようにしようと、そう固く心に誓う。


「……もし、もしも仮にだ。俺がそれを承諾したとして。元のパイロットは、その後どうなるんだ?」

「現パイロットから摘出した脳のその後、でしょうか? もちろんむげには致しません。別の素体に移植し、そこでしばらく休養を取って貰う予定です。なんせそれまでずっと我々に尽くしてくれていた、功労者でもありますから」

「なら、俺の脳をそのパイロットの体に移植するとして……俺の体は、一体どうなる?」

「貴方の元の体は、こちらで丁重に管理します。なお、これは貴方にとっての人質でもあります。万一逃亡や離反をした場合、まず元の体には戻れないと考えて下さい」

「ということは、元の体に戻る事も可能なんだな?」

「はい。今後の状況次第ですが、そうなる可能性もありえます」

「……。脳移植手術なんて聞いたこともないが、成功率はどうなってるんだ?」

「私が直々に指揮を執ります。99%以上と考えて頂いて構いません。ちなみに件数は少ないですが、これまでに数十名のガイアードが、同様の手法で命を長らえてもいますよ」


 さらりと質問に答えてゆく、目の前の幼女。

 とはいえ、嘘を吐いていないことくらいは分かる。信じるしかない。

 いや……こうなった以上、信じようが信じまいが、受け入れるしかない。


「最後に、一ついいか?」


 もったいぶってから、俺は極めて真面目な顔でもって、リトルマザーの瞳をまっすぐ見つめた。


「……せめて、給金ははずんでくれるんだろうな?」

「それはもちろん、働きに応じた評価は致します。ですが、世界の半分を渡すなどといった、あまりにも荒唐無稽な要求には応えられませんよ」

「なにもふっかけようとしてるわけじゃない。……小さい妹たちを、故郷に残してきてるんだ。仕送りも出来ないようじゃ、本当に飢え死にするレベルなんだよ」

「……なるほど」

「大体あんたらのせいで、法外なレース賞金を取りっぱぐれてるんだ。せめてそれに匹敵するぐらいの保証はして貰わなきゃ困る」


 ……そう。最大の心残りはこれだった。

 そもそも突拍子もない話ではあったし、決断には途方もない勇気も必要だった。有無を言わさない対応にはカチンと来てもいる。

 しかしそれでもどこか、心が躍っているのも事実ではあった。

 なんせ、あのデルフィニクスに乗れるのだ。

 仮に妹たちが自立していて、体の入れ替えも気軽に行えるのであれば、諸手を挙げて話に乗りたいくらいだった。


 リトルマザーは、そんな俺の心の内を知ってか知らずか、ほんの少し表情を和らげながら告げてきた。


「心配には及びません。不自由のない生活を送れるように致します。ひとまずは、兄からの仕送りという形にしましょうか? それとも安全を重視するのなら、我々の支部で引き取るのも選択肢の一つですよ。もちろん、事の詳細は伏せた上で、ですが」

「……。ひとまず、故郷で幸せな生活を送れるなら、何でもいい」

「承知しました。では貴方から承諾を得た段階で、すぐにでも手を回しましょう」

「……そうか」


 ため息まじりに、そう答える。


「――まだ、何かありますか?」


 俺は目を閉じ、それに静かに首を振った。


 

 それは即ち――目の前の人ならざる存在に従い、己の身を差し出すという意味に他ならなかった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ