表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白き花のアクアマキナ ~男の俺が女性専用機に乗って無双するまで~  作者: 山下 六月
第七章 『北極紛争鎮圧作戦』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
39/40

038 一番の親友に



「準備は良いか?」



 少し離れた場所に移動したブライアンが、振り返りながら訊ねてきた。

 近くにいたクレイアはすでに気を利かせ、俺達から離れてくれている。

 

「まだだって言ったら、ちゃんと待っててくれるのか?」

「そりゃな」

「……ずいぶんと、態度が柔らかくなったもんだ」


 肩をすくめ、くすりと笑う。

 そうしてから俺は、ゆっくりとラックから、フォトンライフルを引き抜いた。

 ブライアンもまた、どこかから金属製のバットを取り出す。

 

「それじゃ、行くぞっ‼」


 そのかけ声とともに、俺はフォトンスラッシュを放つ。

 するとそれを軽々避けたブライアンは、お返しとばかりに、何やら丸い玉をフルスイングしてきた。

 それはものすごい弾丸ライナーで、こちらにまで飛んでくる。

 

「なっ、なんだよそれ⁉」


 反射的にそれを避けようとするが、俺の脇を通過しようとしたところで、それは小気味よい音を立てて破裂。

 ……辛くも横ステップで直撃は避けたが、それでもかすり傷は負ってしまった。

 とっさに海中に潜り込み、装甲の回復を促す。

 

「特注の弾だ。元はガイアードに攻め込んだ時にかっぱらってきた、イベント用の花火らしいぞ」

「……何でそれをノックみたいに打ち込んでくるんだよ?」

「適当なライフルより、よっぽど威力あるだろ?」

「そりゃ、そうだが……いや、こんなところでまで、趣味の草野球かよ……?」


 思わず口を尖らせるが、ブライアンはお構いなしに、水中へドリルミサイルやグラインダーディスクを放ってくる。

 特にディスクが海中だとヒラヒラ不規則に動き、撃ち落としづらい。

 

「ディスク、海の中の方が厄介じゃねえか……」

「水切りさせた方が、スピードは出るんだけどな」

「ふーん。……そっちはそっちで、色々と工夫しがいがある武装が多そうで、羨ましいなぁ」

「そっちにゃ敵わねえよ。なんだその斬撃飛ばし。厨二心くすぐられるじゃねえか」

「これはいたって普通のフォトンライフルだぞ?」

「操縦桿握ってても、その動き出来んのか?」

「……すまん、聞かなかったことにしてくれ」


 ちょっぴりと肩をすくめながら、俺はデルフィーネモードに変形しつつ、急浮上。

 ブライアンの頭上に虹を架けるイメージで飛び上がりつつ、空中でニクスモードに変形。

 空に放たれたレーザーの数々は、体をひねって軽く避けておいた。

 

 そうしてサブマシンガンで扇状に弾幕を張り、その視線を散らせた後。

 今度は着水と同時に一足飛びで肉薄していく。

 やはり狙うは肉弾戦。メルクリウスソードさえ装甲に当てられれば、すぐにでもこの戦いは終わらせられる。

 しかし。

 

「そっちから近づかせたらダメだって事くらい、分かりきってるっつーの」


 そんな言葉と共に、ブライアンがいた場所には花火の置き土産。

 必死に急ブレーキを掛け、何とか爆発からは逃れられたものの、またも距離は離されてしまう。

 ……これじゃ虎の子の接近戦には、もちろん持ち込めない。

 我が親友らしい憎たらしい動きに、思わず苦笑いを浮かべてしまう。

 

「そんじゃ、今度はホームランだ!」


 そんな叫びと共に、今度はバットでゴロを打ってくるブライアン。

 

「どこがホームランなんだよ?」

「わざわざ予告と同じことする必要もないだろ? ここは戦場だぞ?」

「……確かに、なにも言い返せないな」


 そう軽口を叩きつつ、俺はあえてメルクリウスソードを構え。それを横に持ち直した。

 ……水切りしながら近づいてくる花火の弾は、射撃では中々対処しづらいものがある。

 しかしこちらから打ち返すのであれば、絶好球だ。

 

「おりゃあっ‼」


 そんな力みと共に、花火を打ち返す。

 それは二の矢として放たれていた、向こうのゴロ弾を弾き返しつつ、ブライアンの近くで破裂。

 

「……ちぇ、もうちょっとでピッチャー返しだったのによ」


 思わず口をへの字に曲げていると。

 ブライアンは何故か、持っていたバットを下ろしていった。

 

「なんか……声は女なのに、動きから何から、ホントに男みたいだな……」

「だから、何度も言ってんだろ?」

「やっぱり、にわかには信じがたくてな」


 その自嘲気味のセリフを聞いて、俺もふと、握っていたメルクリウスソードを下ろす。


 ……何故だか分からないが。

 今ならば奴に、アシュリーとしての声が届くような、そんな気がした。

 

「なぁ、ブライアン」

「何だ?」



「俺さ。――あの時一緒に仰ぎ見た、あの白いデルフィニクスに……乗れたんだよ」


「……!」

「正直言うとさ。真っ先にそのことを、お前に自慢したかったんだ。俺の一番の親友に、ずっとずっと、自慢したかったんだよ――」

「……アシュ、リー……?」



 そこでようやくブライアンは、ちゃんとこちらの方を見て、俺の名前を呼んでくれる。

 対する俺はもう、あふれ出る感情を抑えきれなくなっていた。


「女性の体を借りることになったり。元の体の持ち主を探し回ったり。あとさ……胸が当たって、仰向きで寝づらくなったりもした。想像以上に、色んな問題に直面させられてるけどな。でもやっぱり、楽しいよ。楽しい。むちゃくちゃ楽しいんだ」



 ――そう。確かに俺にはもう、慢心などない。

 ベルの想いを受け継ぎ、デルフィニクスパイロットとしてやっていく覚悟もある。


 ただ、それでも。

 楽しいという感情だけは、未だ胸の奥の方で灯り続けてもいた。

 

 はっきり言って、デルフィニクスは兵器だ。かつ、人類を安寧へと導く希望でもある。

 正直、楽しんで乗るなんて馬鹿げた代物だ。

 でも、それでも……やっぱりその感情だけは、拭い去れなかった。

 なんせそれは、俺の……俺たちの、原点だったから。

 

 それに。

 多分それがあったから、色んな面倒ごとだって、乗り越えられて来たんだと思う。


 近接戦が楽しかったから、それを解禁したくてあちこちかけずり回ったし。理論武装しないとダメだと知ったから、苦手な座学もなんとか耐えてきた。

 一向に口を割らないAIと何度もやり合ったし、辛辣な年下の同僚に泣きついたり、サボり癖のある同僚に振り回されたり……思い返せば、涙ぐましいくらいの道のりを歩んできた。

 

 それもこれも、結局はデルフィニクスに乗るのが、楽しいからだ。



 ああ、そうか。

 だから俺は――

 


「……ちぇっ、羨ましいな」


 ブライアンがため息交じりに、そう漏らす。

 

「だろ? だからさ……」


 俺は一拍置いてから、ゆっくりと、その言葉を口にした。

 



「――お前も来いよ。アクアルタに」




「……‼」

「デルフィニクスの整備士として登用して貰えるよう、すでに話は通してある。だから気の済むまで、こいつをいじくって欲しいんだ。俺好みのカスタムにしてもらって、俺はそれで皆がうらやむような戦果を持ち帰ってきてさ。それをお前と分かち合いたいんだよ」

「……アシュリー……」

「約束、今こそ果たそうぜ。なあ……」



 ――ああ、そうだ。

 俺は確かに、周りの人々にすごく恵まれている。

 だけど、唯一。楽しいというこの感情を、共有出来る存在がいない。


 ベルやフィンティは常に他人を思って動いている節があるし、クレイアも人々に安寧をもたらすというリトルマザーの思考に沿っている。

 リララは唯一感情こそ近しいものを持ってはいるが、デルフィニクスに乗ることそのものは億劫だと感じている。

 教官、イヴァンにルイユ、それに金髪キザ男も。

 みんなみんな、基本的には戦いを回避すべく動いている。


 だからこそ、一番の親友に、側にいて欲しいんだ。

 なんてったって、俺の根っこにあるその子供じみた想いは、こいつとならば分かち合えるから――。



「……すまん。俺はいま、ラグーンフォートを抜けることは、出来ない」


 ……しかして、そんな俺の希望は。

 瞬く間に、砕かれてしまっていた。

 

 愕然としながら聞き返す。


「……どう、してだ……?」

「立場も、背負う想いも、色々と出来ちまってるからな。約束を違えた事を、色んな人に謝って回んなきゃならねえし……もしお前の言うとおり、本当に俺たちがダマされてるならさ。そんな部下達を放っておくなんて、目覚めが悪すぎるだろ?」

「ああ……そうか。…………確かに、そうだな」


 自分の中にある大人な一面を何とか引っ張り出し、そう言葉を絞り出していた。


 ……残念だという気持ちと、仕方が無いという気持ちと。

 それから、ちゃんと責任を果たそうとする親友に、ちょっぴり誇らしさと、もどかしさも感じる。

 

 するとブライアンは、もったい振りながら続けていく。

 

「だからさ……色々と、けりをつけたら。その時はまた、誘ってくれないか?」

「……! ……その時は、じゃない。一秒でも早く、けりをつけてこい。そうだな……お前が俺の妹たちの顔を覗きに来たら、こっちから迎えを寄越すから。必ず」

「……。ああ、分かった」


 その回答に、若干胸をなで下ろす。



 ……出来ればすぐにでも連れ帰りたかったが、仕方ない。

 もうしばらくは、個性豊かな人々に囲まれながら。この想いは、密かに温め続けるしかないみたいだ。



 そう密かに、心づもりを済ませ。

 そうしてから俺は……改まって、ブライアンに向き直る。


 それに何かを感じたようで、向こうもまた一呼吸置いてから、立ち位置を改めた。

 

「そんじゃ……そろそろ、終いにするか」

「ああ」


 そんな同意を返しながら、俺は改めて、メルクリウスソードをラックから抜き去る。

 ……狙うはやはり接近戦。

 というより、この戦いを遠距離武器なんかで終わらせるなんて勿体ない。


 しかしブライアンは、あくまでこちらを近づけさせたくないのだろう。グラインダーディスクの射出機を構えていた。


「……正々堂々、殴り合わないのか?」

「悪いな。その剣がヤバいことくらい、こっちだって分かってんだ」

「なら、前はどうしてバットで殴りかかってきたんだよ?」

「不意を突くなら話は別だろ? 心配すんなって、殴り合いはお前さんの裏をかいた後にやってやるから……よっ!」


 そんなかけ声とともに、グラインダーディスクが何枚も射出される。

 それと同時にブライアンはそれを追い越すように加速すると、俺の背後にぐるりと回り込んだ。

 ……既視感のある、クロスの射線である。

 ひとまずディスクを回避しつつ、飛んできたドリルミサイルを切り払う。そしてバットを構えたブライアンの突撃を牽制すべく、ミサイルを先置き気味に放っておいた。

 すると、ブライアンは手に持っていた爆竹のような花火を放り投げ、ミサイルを誘爆。風下で焚かれた煙は、見る見る間に俺の視界を覆ってゆく。


「そんじゃ、行くぜ!」


 威勢の良いかけ声が上がる。

 しかし俺は、あえてその声を無視し――海中へと潜り込んでいた。


 案の定。バットを持っていたはずのブライアンは、ドリルミサイルを構え直し、海中深くに沈み込んでいる。


「……っ、何でこっちの動きが……!?」

「悪いな、ブライアン! それ、俺はとっくのとうに、やった事があるんでな!」 


 やはりルーツが同じなら、思考回路も似るのだろうか。

 俺は完全に読めていたその動きの裏をかき、ブライアンに肉薄。

 慌てた向こうはうまく迎撃の準備が整わず、仕方なくバットを抜き去るほかなかった。


「……っ」


 斬撃を受け止めようとしたばっかりに、あっさりと切断されるバット。

 驚くブライアンに対し、こちらは容赦なく追撃の薙ぎを加える。

 これは俊敏に躱されるが、次いで斬り下ろし、くるり回転しながらさらに二連撃。

 半身や屈伸で何とか避けられるが、こちらは構わず攻勢を掛ける。


 ブライアンは手に持ったバットの柄で、何とかその斬撃をいなそうとするものの。

 当然のようにそれをさらに切断しながら、俺は斬撃を加え続けていく。


 そして。

 ……ふと唐突に、世界がスローモーションになったかのような錯覚に陥った。


 ブライアンが乗った機体は、先ほどの斬り上げを躱しきれず、水中で大きくバランスを崩してしまっている。

 モビルフレームを介し、俺たちの視線が交わる。交わる。

 そしてそれを断ち切るかのように、俺が振るった刃が、その間を通り抜けていく。

 

 ……左腕を落とし、足を落とし、手首を返して止めを刺す。

 時間にしてわずか1秒足らず。

 しかしそれは俺にとっては、何故か永遠にも感じられた。



 しばらくの後。

 深藍のモビルフレームの胸のパーツだけが、浮力を持ってしてばしゃりと水面に浮上。

 それを見届けながら、ざばりと海上に戻って来た俺は、ゆっくりラックにメルクリウスソードを仕舞いつつ、告げた。


 

「……どうだ。すげーだろ?」

「ああ……すげーな。やっぱ、すげーや」



 ブライアンがしみじみ、通信越しに語る。

 

 ――そう。それは、俺たちの共通言語だった。

 遠き日の憧憬、岸壁によじ登って眺めた、あの白き花のようなモビルフレームを形容する、唯一の言葉である。


 そんな言葉を、いま再び交わし。

 ……そうして俺は、ブライアンの機体の残骸に、静かに背を向けた。

 

「……待ってるからな、ブライアン」

「……ああ」


 俺は振り返らず、その場を後にしていく。




「クレイア、……戦況はどうなってる?」


 そうしてブライアンを残し、離れていたクレイアの元まで移動した後。

 戦いの見届け人に向け声を掛けると、少し呆けていたクレイアは、ハッと我に返りながら答えてきた。

 

「あ、えっと……旧アラスカ側も、戦闘は終結したようです。向こうは正規軍から攻撃を受ける前に、さっさとワダツミに撤退したみたいですね」

「なら俺たちも行こう。用も済ませたしな」


 そう応じると、クレイアはふと視線を逸らしてから、しずしずと口を開いた。

 

「……ちゃんと、勝ってくれましたね」

「当たり前だろう? 俺が約束を違えたことがあったか?」

「……。……それを判断出来るくらい、付き合いが長いわけでもありませんよね?」

「……それもそうだな」


 そうして肩をすくませて見せた後。

 俺とクレイアはどちらからともなくデルフィーネモードに変形すると、足早にその場を後にしていく。



 こうして、北極を舞台にした長い長い戦いは、ようやく終わりを迎えたのだった――





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ