033 仲間
「……えっ? 叱る……?」
俺の腕の中で、思わずこちらを見上げてくるノウェンベル。
俺は安心させるよう笑みを浮かべながら、続けた。
「自己犠牲の精神は立派だけどな。君はさすがに、自分の身を省みなさすぎだ。全部一人で抱えてさ。それで沈んでいく様を目の当たりにする周りの気持ち、一度でも考えたことはあるか? 独りよがりだって言われて、反論が出来るか?」
「……」
「君は一人じゃない。フィンティも、リララも、クレイアもいる。だからな……一人で悩まなくていい。もちろん、いつも全てを周りと共有しろ、とは言ってない。でも時には周りに悩みを打ち明けて、相談してさ。そうして色んなものを、分かち合ってもいいんじゃないか?」
「……色んなものを、分かち合う……」
ノウェンベルが俺の言葉を、ぼんやりと復唱する。
そんな胸の中にいる、不器用な頑張り屋に向けて。俺は窓辺に視線を向け、過去を思い出しながら告げてゆく。
「フィンティは、泣いてたぞ。肝心なときに、力になれなかったって。頼りになれなくて、ごめんなさいって」
「……‼ そんな……私の方が、よっぽど謝らなきゃいけないのに……」
「リララもな、珍しくしょげてた。まだ整理がついてないって。それから反省もしてたな。君のこと、ちゃんと分かろうとしてなかったって」
「……あのリララが、そんな事を……?」
「クレイアも、やっぱり思うところはあるみたいだった。君のことを問いかけたら、少し寂しそうにしていたし」
「……クレイア……」
「せめて3人には、事情を言っておくべきだったと思うぞ。ちゃんと話して、共有して、それで一人で背負いきれないものがあったらさ、少しずつ肩代わりして貰って。……それが、仲間ってもんじゃないのか?」
「……」
俺の腕の中で、ノウェンベルは弱々しくうつむく。
そして、ぼそりと口にした。
「……やはり、余計な気苦労を与えてしまうだけじゃ、ないですか? もし話して、それでデルフィニクスに乗るだけで、私みたいに全身が震えてしまうようになったら……」
「だからって、君一人が背負わなきゃいけないってことでもないだろう? 多分な……フィンティ達にとっては、疑心暗鬼に陥ることよりも、君に話して貰えないことのほうが、よっぽど堪えることなんだと思うぞ。だからこそずっと、ずっとずっと、君がいなくなったことを引きずっていたんだろうし」
「……っ」
ノウェンベルが静かに息を呑む。……その言葉で、やっとフィンティ達の気持ちに気づけたのだろうか。
俺はようやくその肩を掴み、ゆっくりと彼女を離していく。
「何も知らないはずの俺ですら、見てられないくらいだった。それに比べたら、周りに敵が潜んでるかも知れないーとか、デルフィニクスに細工されたかもーとか、なんてことないんじゃないか? ほら、リララなんていつもの調子で、謀ったなー⁉ とか言いそうだろ?」
肩をすくませながら冗談めかせば、ようやくノウェンベルはクスリと笑ってくれる。
「……そう、ですね。確かにそういう事、言いそうです」
「だろ? だから……」
そこで一拍置いた後。
俺は彼女の肩に手を置いたまま、面と向かって告げた。
「俺も。――仲間だと思ってくれて、良いからな」
「……え?」
俺が今までしたこともない、目をまん丸に広げた表情を浮かべるノウェンベル。
それに柔らかく笑いかける。
「今まで君のことを、間接的に知ってきた。すごく優秀で、優しくて、でも頑張りすぎるところが玉に瑕だってことも、全部知ってる。……だからもう、他人じゃない。他人とは思えない。なんてったって……体、交換してるぐらいだしな」
「……あっ、えと、そう……ですね」
「そして。そんな君が押しつぶされそうになってるところを、黙って見過ごせるほど、ドライな性格でもない。……確かに、ついさっき初対面だったさ。けどな、俺にとってはもう……リララや、フィンティや、クレイアと同様に。君もまた仲間だと、そう勝手に思ってる」
「……!」
息を呑む、かすかな音が聞こえてくる。
俺はため息をつき、彼女の肩に置いていた手を腕を下ろし。そうして視線を窓の先に向けながら、続けていく。
「正直さ。俺は君と違って、人々の安寧を守りたいだとか、そんな高尚な理由でデルフィニクスに乗ってるわけじゃないんだ。……以前、教官にも言った話なんだけどな。リトルマザーから半強制的に乗せられて、妹たちの食い扶持を稼いでるってだけだ。けどさ、もちろんそれじゃダメだって事も分かってる。きっと肝心なところで間違えたり、あるいは競り負けたりすると思う。だから――君の想いを、俺に受け継がせてくれないか?」
「……え?」
「君の使命感も、後悔も願いも、君の代わりに俺が全部任務に持ってってさ、ぶつけてきてやるよ。それなら……君がこれ以上、重荷に苛まれることもなくなるだろう?」
「……」
「もちろん、君がちゃんと立ち直れるまでの、期間限定の話だけどな」
そう付け加え、会話のボールをノウェンベルに渡す。
――そう。俺は全人類のために、命なんて張れない。
けれど親しい人の為なら、いくらでも命を投げ捨てる覚悟くらいは持っている。
そして、今の話を聞かされて。
つい目の前の子を、そんな括りの中に入れたいとも思ったのだ。
つまりは――頑張り屋の、この子のためならば。
命も、プライドも、魂も。全部懸けられる気がしたのである。
「……なんで、そこまで……」
思わず口をついて出るそんな疑問に、俺は大げさに肩をすくませて見せる。
「おいおい、体を交換するくらい、親密な仲じゃないのか? 全世界どこを探したって、似たような奴らすら見つからないぞ」
そんな冗談に、二度三度瞬きを繰り返したノウェンベル。
口を押さえ、ひとしきりクスクスと笑い……。
それでも、真剣な表情で告げてくる。
「私……それでもやっぱり、犯人を見つけ出せなければ、前には進めないと思います」
「良いんじゃないか? 自分をはめた相手に落とし前をきっちり付けるのも、賢い方法の一つだと思うしな」
「……そう、ですか」
その答えを受け、一つ深呼吸をし。
そうしてから、ノウェンベルは俺の瞳をじっと見つめた。
「……なら。ちゃんとけりを付けるまで、私の想いを、あなたに託させてください。――よろしくお願いします。アシュリーさん」
「ああ。――よろしくな、『ベル』」
「……! はい‼」
正直な話、いつ愛称で呼んで良いか聞きそびれていて。ちょうど良い機会だと思ったので、一か八か呼んでみたのだが。
ノウェンベル……いやベルは、憑き物が落ちたような顔で、それに満面の笑みを浮かべてくれたのだった。
「ん。じゃあベル、早速聞きたいことがあるんだが、良いか? ――メルクリウスソードを、振るった時のことなんだが……」
ここまでお読み頂き、ありがとうございます。
ようやく、一番お見せしたかったものをお届け出来ました。
後はクライマックスまで駆け抜けるだけ。
この後も是非、お付き合い下されば幸いです。
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