023 ラグーンフォート部隊
まずは遠距離から放たれたドリル状のミサイルを何とか回避。
そして乱雑に誘導ミサイルを撃ち返しはしたものの、その時点ですでに相手の先陣には、アームが届く距離にまで肉薄されてしまう。
二桁を超える蛇腹のアームが、まるで空から覆い被さるように押し寄せてくる。
セイレーンウェーブでその動きを鈍らせつつ、急いでフォトンライフルを握り直し、横薙ぎを飛ばして対応。
しかし斬撃を逃れた数本のアームが、うねりを挙げて迫ってくる。
「くそ……っ」
水面を蹴り、体をひねり、あるいは腕で弾き飛ばし、何とかそれらを躱してゆく。
……確かに|フォトンライフルの斬撃は射程も優秀で、攻撃範囲も広いし、高火力だ。
ただ腕を振る必要があるから連射はしにくいし、懐に入られると隙も多い。あくまで中距離で、立ち回り重視の動きをした時に力を発揮する攻撃手段だ。多方面から一気に押し寄せてくる場合には、有効な手段とは言いにくい。
適宜回避行動を入れつつ、サブマシンガンらへんと合わせながら応戦していくしかない。
右手に逆手のライフル、左手にはサブマシンガン。何とかその二刀流で、攻撃をいなし続けてゆく。
しかしその隙に、今度は遠距離から丸ノコにも似たディスクがいくつも射出されていた。
それらは水面を水切りするかのように不規則に跳ねつつ、追い込み漁のように俺を追跡してくる。
「なんだなんだなんだ、ずいぶんとユニークなんだな、コーラル型ってやつは。こんなところで大道芸してないで、サーカスでもやったらどうなんだよ?」
そんな軽口と共に、フォトンライフルで一つ一つディスクを撃ち抜いてゆく。
……不規則な動きを見せるディスクにかろうじて迎撃出来ているのは、もちろん俺の腕が良いからではない。単にデルフィニクスの補助性能が優れているだけである。
正直これでは、機体に撃たされているだけだ。こちらとしては全く面白くない。
「……そもそもコーラル型は戦闘用として作られたわけではなく、土木工事や建設作業用途で作られたモビルフレームなんです。……くっ……現在の秩序に不満を持つフロータードの作業員たちが、それを改造し、ゲリラ部隊として戦場へと殴り込んでいくようになったのが、ラグーンフォート部隊の始まりと言われ、て、……っ!」
金属の甲高い音によって、フィンティの解説が何度か遮られる。
見ればフィンティにはチェーンソーを握りしめた士官機が2機ほどまとわりつき、援護に回れないよう牽制を繰り返していた。
……アレでは固有を撃つなんて、もってのほかだろう。思わず顔が歪む。
「おらっ、よそ見してる暇なんてねえぞ‼」
そんな声を皮切りに、アームの第二陣が襲いかかってくる。
躱して躱して、何とか手の部分を切り落とすように斬撃を飛ばしてはみるものの、むしろ残った蛇腹の腕を鞭のように振るわれ、胴体や足になかなかのダメージを貰ってしまう。
――デルフィニクスの自然治癒能力は、もちろん万能ではない。傷の深さに比例して、修復も時間が掛かる。
戦闘中に直りきらない傷を負えば、もちろん戦闘不能に陥るし、コクピットに届くぐらいの傷を負えば、そもそも中身が死んで終わる。
ゼロ距離からの自爆に巻き込まれ、バラバラに吹き飛ばされれば、当然ジ・エンドだ。
「寄ってたかって卑怯だと、そう罵ってくれてもかまわねえぜ? その代わりお前は地獄の底で、俺の娘に詫び続けてくれよ‼」
「……っ、さっきから、いったい何を言って……!」
「まだとぼけるつもりかよ、この人殺しがぁっ‼‼」
無線越しの激情と共に、アームがさらに押し寄せてくる。
……先ほどから意味不明に罵倒されているのだが、もはやそれに反論する猶予すらない。
ひとまず目の前の攻撃に対応し続け、フィンティ側の準備が整うのを待つしかない。
斬撃を飛ばす。飛ばす。飛ばして避ける。
避けて、弾幕を張り。避けて、避けて、避ける。
……ダメだ、近接攻撃が封じられている以上、採れる対応策が限られすぎている。
機体性能は明らかに優れているはずなのに、まさに数の暴力で押しつぶされている感覚だ。
頼みの綱であるフィンティを、フリーにさせる動きすらままならない。
何より、掴まれたら終わりという事実が、じとりと手汗をかかせてくる。
「……くそっ、剣で切り払えれば、どんなに楽か……」
恨みつらみと共に、左のラックに刺さっている柄を見やる。
……ノーブル最強の武装は、物言わぬ状態でそこに佇んでいるばかりだった。
「おらぁっ‼」
そんなかけ声と共に、ディスクの第二陣が射出される。
その海面を不規則に飛び跳ねる動きを見て……俺はふと、海中に潜れば避けられるのではと思いつく。
そうしてそれらが着弾する寸前で海へと潜ってみると、流石にそんな動きには追尾が出来ないのか、思った通りにディスクは俺の頭上を過ぎ去っていってくれた。
……が。
「良いのか? お前は潜れても……戦艦は潜れねえぞ?」
「……っ⁉」
そう、ディスクがそのまま向かっていく先には、ワダツミがいた。あれだけのディスクがその胴体に突き刺されば、致命傷になりかねない。
慌ててデルフィーネモードを経由し、ディスクたちを追いかける。
何とか追いつくことが出来たので、ひとまずはセイレーンウェーブとフォトンライフルで処理。
接近したことでその射程内に入ったからか、ワダツミから機関銃の援護もあり、何とかそれらを一掃することは出来た。
ただ、当然それは、敵に背中を晒さなければ為せないことでもあって。
「……ぐっ」
俺はいつの間にか後ろを追跡して来ていた敵機に、脇腹辺りを掴まれてしまっていた。
引きずられ掛け、慌ててアームの腕部分をゼロ距離射撃にて切断するが、すぐに2本3本と別のアームが死角から襲いかかってきて、完全に身動きが取れなくなってしまう。
「……アシュリーさんっ‼」
「離せっ、この……‼」
「出血大サービスだ。地獄の底の底にまで、引きずっていってやるよ!」
そんな台詞と共に、数機が俺の側まで寄ってきて、次第に光り輝き――。
……そして。
そいつらは自爆しきる前に、斜め上から発せられた閃光によって狙撃され、次々に水面へと叩き付けられていった。
「アシュリー、大丈夫かい⁉」
「……ファーブルか、助かった」
「それを言うならこちらの台詞だよ。ただ、それでも……少しは君に、カッコいいところを見せられたかな?」
そう言いながら、ウインクを噛ましてくるファーブル。
……悔しいが、窮地を救われた以上、いつものようにはあしらえない。
「……良いところを見せたいのなら、もう少し前の時点で援護してくれ」
「すまない、ワダツミの艦砲はあまりに動きが鈍重でね。リララ君のものとは違って、遠くを狙撃しようとしても、ほとんど当てられないんだ。それどころか角度もつかないから、闇雲に打てば、港に誤射してしまうかも知れない」
「なるほどな。……しょうがない、いまの発言は撤回しておく」
「理解が早くて助かるよ」
そんなにこやかな笑みを今度こそスルーしつつ、俺はおもむろにトルピードアローを構えていく。
コーラル型の残存集団とは、俺がディスクを追いかけたが故に、少しばかり距離が開いている。今は必死に俺を追いかけて来ている最中だ。
つまりこの一瞬だけ、俺は完全にフリーになっていた。隙の大きい武装も、今ならば放つことが可能なのである。
「フィンティ、潜れ‼」
そんな叫び声と共に、俺はトルピードアローをアイビー目がけ射出。
俺の意図に気づいたフィンティは、それを聞いて即座に海中へと潜っていった。
そうして相手が急に視界から消え、一瞬まごついた士官機たちの懐に、矢のような魚雷が飛び込んでゆく。
――爆音、のち上がる爆煙。
もちろん直撃ではなく、その爆風に巻き込んだ程度だが、フィンティのマークを外すにはそれで十分だった。
「アシュリーさんっ‼ 離れて下さい‼‼」
そんな叫び声とともに、アイビーが満を持して取り出したのは――金色の意匠が映える、スマートな二丁拳銃だった。
「……了解‼」
その合図と共に、俺は眼前に迫るアーム達を無視し、水面に手のひらを押し当てる。
そうしてリーヴツイスターを発動すれば、水流の勢いによって、ノーブルは高く高く空へと舞い上がった。
そうして今にも囲い込もうとしていた集団の頭上を、宙返りながら華麗に通り過ぎてゆく。
それと同時に、フィンティもまた引き金を引く。
するとその銃から射出されたのは、弾ではなく……ワイヤーのついたユニットだった。
「少し……寝ていて下さいっ‼」
フィンティがそう叫ぶのと同時に、常軌を逸した出力で、アイビーから電撃が放たれていく。
それは瞬く間にワイヤーを伝い、敵陣ど真ん中に潜り込んだユニットから放射状に放たれ……まさに巨大なプラズマボールのように、その周囲を理不尽な音と光の暴力で満たしていった。
――数秒の後、リヴァイアサンダーをまともに浴びた全てのコーラル機は、ただただ突っ伏し、ぷかぷかと浮かぶことしか出来ずにいた。
まさに一網打尽という言葉がぴったり当てはまる、会心の戦果である。
宙に浮いていてなお、こちらにも少しダメージは入ったみたいだが、そんな小傷なんて些末ごとだ。
しかし、当然まだそれで終わりというわけではない。
フィンティを足止めしていた士官機たちは、仲間の仇だとばかりに、雄叫びを上げながらアイビーへと斬りかかっていた。
棒立ちでユニットを回収していたフィンティは、隙を晒すことしか出来ずにいる。
だが当然、そんな動きはこちらも読めていて。
「それをみすみす許すとでも思ってんのか? ……おめでたい野郎だなっ‼」
宙返りながらすでに二の矢をつがえていた俺は、今度は片方にしっかりと直撃させるよう、トルピードアローを放っていた。
超高速で放たれた矢の如き魚雷は、瞬く間に距離を詰め、不快な音を立てて士官機の下腹部に突き刺さってゆく。
……もちろん、今度はそれを爆発させたりはしない。むやみに命を奪わずとも、動力源さえ破壊すれば、問題なく戦闘不能には出来るからだ。
「……メイルストロムカノン、てーっ‼」
そしてもう一機の方は、そんな叫び声と共に放たれたワダツミの主砲により、問題なく無力化されていた。
……そう、ファーブルが出していた細かな指示を又聞きしたからこその、この連係プレーというわけである。
そうして俺たちは何とか嵐のような波状攻撃を耐え忍び、これ以上敵機を自爆させることもなく、一息つくことが出来ていた。
額の汗を拭いつつ、遠巻きに戦況を見守っていた、恐らくは指揮官が乗っているであろう士官機へと向き直る。
「……これ以上は無意味だ。おとなしく救援でも呼んで、全員を救助して貰ってくれ」
辺りに浮かぶ、モビルフレームの数々を眺めながらの降伏勧告。
未だ通信機器が生き残っている機体からは、無念を滲ませた声も聞こえてくる。
「……すいません、小隊長……」
「俺たちが、ケリを付けるって言ったのに……」
「もう良い、おとなしくしてろ。……なんだかんだ言って、その白い機体にもそれなりに因縁はあるしな。心中する相手としては、まぁ悪くない」
「……小隊長……」
「その代わり……俺の代わりに、あの赤い奴だけはきっちり潰しておいてくれよ? 目的が果たされるまで、地獄の底からじっくりと見といてやるからな」
そのやりとりを、俺は無意識に眉をひそめて聞いていた。
……不穏な内容に嫌悪感を抱いたわけじゃない。とにかくその声に、ものすごいデジャブを覚えたからである。
――この声、絶対にどこかで聞いたことがある。
最近……じゃない。少し前だ。
それも何回も聞いている。なんせ聞き馴染みがある。
いったい、どこで聞いたんだ……?
「まだ、やる気なんですか……⁉ もう、一機だけしかいないのに……!」
黙り込んだ俺の代わりに、フィンティがそう問いかける。
しかしそいつは突っ伏す仲間達から視線を切りつつ、鼻息を荒くしながら応じてきた。
「ふん、こいつは最新鋭のフラッグシップ機だ。耐久性はともかく、俊敏性や最高速ならお前達を超える性能を持っている。一瞬で距離を詰めて、その白いのと心中するだけなら……何の問題もないだろ?」
「……っ‼ そ、そんな事はさせません‼」
思わず食ってかかるフィンティだったが、相手はそれを無視し、こちらに向き直ってくる。
「なぁ? 白いの。……おい、何とか言ったらどうだ?」
そして。
そう問いかけられた俺の頭に、ふと懐かしい光景が蘇る。
……そう。
この声は確か、故郷の家の近くや、あるいはあの岸壁で……。
「……。………………⁉⁉⁉」
愕然とした。
いや、聞き覚えとか、そんなレベルではない。この声を忘れるはずがない。
……そうだ。何ですぐに分からなかったんだ。
この声は……このぶっきらぼうなのに、どこか人情味溢れる、この声は――。
「――ブライアン……⁉ どうしてお前が、こんなところにいるんだ……⁉」
――俺の、親友の声じゃねえか……っ‼‼




