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白き花のアクアマキナ ~男の俺が女性専用機に乗って無双するまで~  作者: 山下 六月
第五章 『望まぬ再会』

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021 正体



 教官の要望を受け、リララを呼びに食堂に急行する。

 

 ――この施設に、食堂は基本的に一つしかない。

 その分、整備士や事務員など一般職員も利用する、かなり大きなものではあるのだが……。

 何せ、あの容姿だ。認めたくはないが、黙っていれば相当な美少女でもあるし、見渡せばさほど苦労せず見つけられるだろう。


「……いた!」


 端っこで一人細々と食事を取っているリララを見つけ、息も絶え絶えに叫ぶ。

 ……女性の身体だからこその、この体力のなさが恨めしい。

 しかしリララは俺の疲弊した様子を目の当たりにしてなお、フォークに挿したポテトをのんきに頬張っていた。

 

「ん? な~にアシュリーちゃんたら息なんて切らせて……わたしさぁ、今日初めてのごはん食べてるんだけど」

「んな流ちょうなこと……指示来てるの分かってるのか⁉」

「分かってるよー。でもさ、第一種出動命令でしょ? あのフィンティがそんなに簡単にやられるわけないし、重役出勤でも問題ないって」

「でも、万が一ってことも……」

「マザーがスクランブルじゃなくても良いって判断したんだから、だいじょーぶだよ。それに何も食べないで行ったらさ、道中絶対お腹空くじゃん。それで戦闘中へばっちゃうほうが怖いと思わない?」

「それは……まぁ、そうかも知れないが……」


 そんな屁理屈に半ば屈する形で、言葉を飲み込む。

 ……確かに教官も、俺の出動をどうするか悩んでいたくらいだ。そこまで緊急性が高いものでもないとも言っていたくらいだし、実はリララぐらいの心持ちでちょうど良いのかも知れない。


 するとリララは、俺を体よく丸め込めたと感じたのか、にっこりと微笑んだ。

 

「だいじょーぶだいじょーぶ、わたし普段は遅いけど、早食いも得意な方だから。まー見ててよ」


 そう言いながらリララは、ハンバーグを小さく切っては、乱暴に口の中へ放り込んでゆく。

 しかし咀嚼が甘いのか、結局それらは頬に溜め込まれるばかりだった。

 コップの水が空になっていたので、ひとまず手近のウォーターディスペンサーから水を取ってきてやることにする。

 

「ん、もみもも、まりまと」

「礼は良いから、まずは落ち着いて食ってくれ。詰まらせるぞ」


 そうして、コップをあおるリララを呆れながら見つめる。

 ……とはいえ、こういう性格だからこそ肩肘張らずに応対できて、こちらは気楽でもあるのだが。

 

「いや~ていうかさぁ、今日限りの限定メニューで、まさかハンバーグ定食が来てるとは思わなかったよ。危うく見逃すところだったし」

「……ん、そうだったのか。確かに、入り口近くの格式高いレストランじゃなくて、食堂でハンバーグなんて出るのは珍しいな。まぁ、それでも人工肉はいくらか混ぜられてるんだろうけどな」

「ううん、今日のは100%天然みたいだよ。むしろそれで今回豚肉が入ってないぽくて、メチャクチャ肉々しい感じになってるし」

「……えっ、マジか?」


 思わずそれに顔を近づけてみると、確かに人工肉では出せないような芳ばしい香りが鼻をつく。

 肉汁もどこか食欲をそそるものだった。思わず生唾を飲み込む。

 

「ちょっと食べる?」

「……。良いのか?」

「その代わり、口裏は合わせてよ? トイレ行ってて遅れた~とかで良いからさ」

「……分かった」


 喉奥から絞り出すように告げると、リララは思わずあくどい笑みを浮かべつつ、おもむろにビーフ100%のハンバーグに切れ込みを入れていく。

 

「じゃあはい、これで共犯ってことで」


 そうしてちょちょいと粗めの岩塩にバウンドさせた切れ端を、そのままフォークごと俺の前に突き出すリララ。

 

「……え? 直接?」

「だってまどろっこしいでしょ、新しいフォーク持ってきたりするの。ほら、あーん」

「い、いや、その……」


 思わず及び腰になる。

 ……それはそうだろう。俺は男なのだから、これは言うなれば異性との間接キスだ。

 しかしリララはあくまで仲の良い子同士がやるような、食べさせ合いっこの延長線で考えているらしく。

 

「あのさあ、そうやって渋ってるとドンドン時間が押しちゃうよ?」

「……う」


 そこまで言われたら、もう従うしかない。

 俺は雑念を振り払い、渋々それを口の中に入れた。

 

 ……うわ、なんだこれ、うますぎやしないか……?

 口に入れた瞬間に感じる、振り切れた幸福感。油と塩気が合わさった時の、形容しがたい旨味に、肉の甘み。

 うっすら岩塩で味付けされているからこそ、余計に肉の質や味が良く分かる。

 鼻腔を抜ける芳ばしい薫り。広がる肉汁。感じる黒こしょう。

 噛めば噛むほど広がる多幸感。上質なタンパク質のスポンジが、舌の上で花開く。


 ダメだ、勝てない。負けだ。

 貧困層(フロータード)出身の俺が、こんなものに勝てるわけがない。


「どう? おいしい?」

「あぇ……えあうぃ……」


 もはや夢見心地で、まともな言葉も出せなくなった俺に対し、さらなる追撃が。


「じゃあ大サービス。次はソース絡めて……えい」

「もぶっ!?!?」


 特に溜めもなく、無防備だった口に投げ込まれる、もう一切れ。

 先ほどの岩塩ベースのそれとは違い、今度は鉄板でくつくつ熱されたドミグラスソースが、これでもかと絡められていた。


 こってりと濃厚なソースが、分かりやすく酸味と甘みを奏でる。

 そこに肉汁が絡まり、より濃密な甘みが足されたそれの破壊力たるや、まるで固有武装が如き威力である。


 命名。これはデルフィニクス・ハンバーグの、ドミグラスバーストだ。

 もっと言うと、ドミグラス・ローストオニオン・エクストリーム・コンフィデンシャル・アンチエイジング・ビッグバンだ。強すぎる。

 

 と、そんな支離滅裂な思考が脳内を駆け巡っていき。もはやそのままぼんやりと、視線を宙に浮かべることしか出来ずにいた。

 するとリララはそんな反応を目の当たりにし、くすりと笑う。

 

「なんかさぁ、アシュリーを餌付けするのって楽しいかも。……次はポテトと一緒に突っ込んじゃおっかな?」

「もむっ……⁉ いっ、いや、もうこれ以上は、ミーティングが……」

「やせ我慢しちゃって~。ほれほれ、ワシの肉が食えんのか~?」


 そんなクサい演技まで入れながら、リララはぐいぐいとフォークを押しつけてくる。

 思わずのけぞりながらもそれを遠慮していると、座ったまま前のめりになっていたリララは……。

 


 ……何故かそこで、ピタリと動きを止めた。

 そうしてそのまま、おずおずと辺りを見渡してゆく。

 


「……あのさ、アシュリー。最近……視線を感じたことってない?」

「こんな馬鹿騒ぎやってるんだから、そりゃ注目は集めるだろ……?」

「いや、そうじゃなくて。なんかこう……そういう感じじゃないの。何かさ、意味深な感じの」

「……? いや、俺はないが……今も感じたのか?」

「うん。大体が食堂(ここ)なんだよね。まぁ、たまにドックでも感じるんだけど」


 神妙な面持ちでリララが食堂の中心へと目を向けるので、つられてそれに続く。

 

 するとちょうど、眉をひそめながらこちらの方を見ていた男と、たまたま目が合った。

 ――そう、何の因果か、また例の男である。



 そして、俺は……そいつの顔を、初めて真正面から確認することが出来ていた。

 


「……アイツだ」

「えっ?」


 慌てて顔を士官帽で隠されるが、もう遅い。

 

「視線の正体はアイツだ、間違いない……‼」


 そう言うや否や、俺はそいつをとっ捕まえるべく、動き出していた。

 そいつも慌てて席を立ち、一目散にその場を離れていく。

 ……くそっ、昼時だからか人が多い。

 

「おい待て!」

「ちょちょっ、アシュリー⁉ も……もふふぼふ‼」


 慌てて皿の上のものを全部頬張ったのか、そんなくぐもった声が後ろから聞こえてくる。

 しかし俺は構うことなく、人をかき分けかき分け進んで行く。

 

 しかし相手はここを熟知しているとばかりに、一足早く通路へと抜け出してしまう。

 しかもなんとかこちらが通路に出られた時には、すでに通路の先の角を曲がっていた。

 

 と、そこで唐突に、耳障りなサイレンが鳴る。

 

 ……構うものか。せっかく、せっかく()()()()()が、手に届く距離にあるんだ。

 捕まえて全てを聞き出して、そうしてから出撃した方が、きっと何倍も楽になるはず……。

 

「ま、待ってアシュリー!」


 唐突に裾を引っ張られ、不意に前のめりに倒れかかる。

 苛立ちを隠さず振り返ると、そこには先ほどまでの余裕を一切なくした、真剣な表情のリララがそこにいた。

 

「今のサイレンはマズいって! 緊急出動(スクランブル)対応のやつなんだから……!」

「でも……」

「いいよ、いいから。放っといていい。別に何も思ってないから」

「いや、アイツはそういうんじゃ……!」


「……アシュリー‼ フィンティが危ない目に遭ってるかも知れないんだよ⁉」


 予想外に大きな声を出され、思わずうろたえてしまう。

 リララはそんな俺をじっと見つめながら、服の端を握っていた手に力を込めた。

 

「第二種出動命令ってことは、向こうの状況が相当悪くなったってことなの。……のんきにご飯食べててごめん。すぐにドックへ向かおう」

「……。……分かった」


 ……確かにリララの言うとおりだ。フィンティが窮地に陥っているのなら、のうのうと鬼ごっこなんてしている場合ではない。

 いつになく真面目な様子のリララに諭され、俺は渋々頷きを返す。

 

 そうして駆け出していくリララの後を追いかけようとして……俺は最後にもう一度、アイツが消えていった先に顔を向けていた。



 ――焦げ茶色の長髪ダークブラウンのロングヘア。それに呆れるほど見慣れた目鼻立ち。

 後ろ姿こそ既視感程度しか覚えはないが、しかし真正面から見ればすぐ分かる。

 何故なら……つい先日まで、()()()()()()()()()()()()()()からだ。



 思い返すは、リトルマザーとの問答。


 ――ノウェンベルの脳は別の素体に移植し、そこで休養を取らせる。

 ――俺の体はリトルマザーが管理する。

 ――逃亡や離反をした場合、元の体には戻れない。


 なるほど。

 俺はまんまとあの幼女に、してやられていたらしい。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()よな。……なぁ?」


 一拍置いて、その名前を呼ぶ。




「――ノウェンベル・キリシマ……」




 俺はそんな独り言を残して踵を返すと、慌てて持ち場に向かう整備士達と共に、全速力でリララを追いかけていったのだった。












ここまでお読み頂いてありがとうございます。

お気に召しましたら、評価やブックマーク、是非ともよろしくお願い致します。

いつも励みにさせて頂いております。


また、今回で大きな大きな伏線を回収しましたが、物語としてはむしろここからが本番。

エピローグまで、何卒お付き合い下されば幸いです。

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