015 一騎当千
それから数週間後。
俺は今日もデルフィニクスに乗り、モビルフレーム相手に無双していた。
「ええと――こちらは世界融和連合アクアルタ、これ以上の戦闘行為は……って言っても、通じないよなっ!」
言い慣れない口上を述べつつ、襲ってくるフラッドハウンドをフォトンライフルの二連射で的確に撃ち抜いてゆく。
続いて崩れ落ちるそいつを盾にして殴り込んできたフラッドドラゴンには、先置き気味のミサイルを食らわせ、なんなく撃破。
……やはりフラッド型は一番流通している量産型モビルフレームだけあって、正直張り合いがない。
「アシュリーさぁ、あおるならもっとちゃんとあおった方が良いんじゃない? なんか中途半端だと思うけど」
気の抜けた声でそう述べるリララもまた、低空から角度を付けてこちらを狙おうとするフラッドワイバーンたちを、腰に構えたガトリングガンで蜂の巣にしていた。
逸れた数多の銃弾が、青々とした空にすうっと消えていく。
「……あおるつもりで言ってるわけじゃないんだが」
「じゃあもっと早く言わないと意味ないでしょ? 何機も落とした後に言っても、向こうは止まるわけないんだしさぁ」
「まぁ、それもそうか」
そうぼやきつつ、なおもセイレーンウェーブで肉薄してくる集団を軽くいなすと、そのまま引き付けてリララをフリーにさせながら、射撃オンリーで立ち回ってゆく。
――敵機の接近に拳で応じたり、リーヴツイスターで応戦しないのは、もちろん近接戦闘が封じられているからだ。
初陣の時に発覚した問題は、数週間が経ってもなお解決の糸口すら掴めずにいる。
ただそれでも、こちらが前衛を担当しなきゃならない、遠距離特化のデルフィニクス・マリーと組めているのにはワケがあった。
俺は握っていたフォトンライフルをくるり半回転させると、トリガーに指を掛けたまま銃の背を握りしめた。
そうして振り払うようにしつつそれを撃てば、当然レーザーは斬撃のように弧を描いて飛んでゆく。
そう、こうして擬似的に剣閃を飛ばすことを思いついてからは、この小技を中距離戦の要にして立ち回っていたのである。
ヒートソード片手に飛びかかってくるハウンドはバックステップで距離を取りつつ、クロスを描く二連撃で処理。
次いで横っ面を狙う相手には横薙ぎ一閃をおみまいしておく。
袈裟切りを空に飛ばしてワイバーンにも牽制しつつ、海の中から狙おうとする輩にはくるりと銃を持ち替え、射撃で対処。
もちろん対処しきれなかった敵は、リララが後方から的確な援護射撃を当ててくれている。
「うーん、いつ見ても鮮やかだよねぇ……それにさ、なんか生き生きとしてない?」
そうして近寄って来た敵を倒し終えた後、リララがそんな感想を漏らしてくる。
……確かにこれを編みだしてからは、少しだけ戦闘を楽しめる余裕も生まれてきた。
それまでは汎用武装、つまり使いやすいが決め手に欠けるものだけで戦っていた為、やっていてかなりストレスが溜まっていたのである。
もちろん切り札としてトルピードアローもあるにはあるが、あれは連発出来ないうえに隙も大きい。かつ手加減も出来ないため、特に対人戦闘においては使いにくい代物でもある。
そんなものに頼るよりも、細々としたことを考えず、もっとスカッと殴り合いたい。あるいは、高火力の武装を気兼ねなくぶっ放したい……そう考えてしまうのも必然で。
しかしある程度動きに工夫のしがいがあると、自分で動かしている感も出て、物足りなさは減ってくる。
ただとはいえ、初戦の時に感じた開放感や爽快感にはまだ遠く及ばないのだが。
俺は軽くため息をついてから、エネルギー残量をちらり確認しつつ、答えてゆく。
「別に、見世物でやってるわけじゃないんだが」
「いやいや茶化してないよ。むしろ憧れちゃうくらい。純粋にカッコいいしさ、その技」
「……そこまで言うなら、リララもやってみたらどうだ? 銃は同じのあるわけだろ?」
「いやぁ無理無理、本来の位置にはないトリガーをタイミング良く引くの、難しすぎだもん。まぁフィンティやクレイアは、最近こっそり練習してるみたいだけど」
「……フィンティはまだしも、クレイアもか?」
「うん。ものに出来れば中距離でも立ち回れて、結果的に被弾を減らせそうだーって言ってたけど……アレは絶対、アシュリーに対抗心燃やしてもいるだろうね」
「へぇ……」
以前フィンティと一緒になった時には、コツやタイミングを細かく聞かれたりしたのだが……ともかく、彼女たちにも良い影響を与えられているならなによりである。
と、そこで真打ち登場とばかりに、様子をうかがっていたタイダルランサーが2機ほどこちらに向かってきた。
同時に飛んできた誘導ミサイルは、左手に持ったサブマシンガンで先んじて起爆させつつ。牽制代わりに、何度か剣閃を飛ばして迎撃。
レーザーは横っ飛びで躱しながら、ついでに渾身の勢いを付けた斬撃も食らわせておく。
……まぁ、質量のないレーザーを飛ばしているだけだから、勢いを付ける意味なんて特にないのだが。
もちろん、タイダル型の売りはその堅さ。この程度の手数で倒せはしない。
ただ実を言うと、それで敵の動きを止めるだけでよかった。なんせ、今回はソロではないのだから。
チラリと後ろを確認すれば、リララは示し合わせたかのようにネレイドカノンを構えてくれていた。
そして、高らかに訊いてくる。
「ねえアシュリー。――月は出ているか?」
「……は?」
「月が出てるか聞いてるの‼」
「えーと……出てない、みたいだが」
「じゃあいいや。……ネレイドキャノーン‼‼」
そんな気の抜けた叫び声とともに放たれる、特に幅広なわけでもない超高速のレーザービーム砲。
……なら何で聞いたんだよ、などと問いかける暇もなく、手前にいたタイダルランサーは片腕だけを残し、彼方へ吹っ飛ばされていた。
そしてもう一機はおののきのあまり、俺やリララから慌てて距離を取ってゆく。
そいつを追撃すべく、俺はおもむろに水面に残されていた片腕を拾い上げた。そうして抜群の強度を誇るその腕を相手に向ける。
それに掌底を当てつつ、踏み込むは足下のペダル。
……そう、接近戦は確かに封じられているが、近距離武装そのものが使用不可というわけではないのである。
「悪いが、ちょっと手を借りるぞ。……文字通りの意味でなっ‼」
その声と共にリーヴツイスターを放てば、渦巻いた水流を推進力に、タイダルランサーの腕がそのまま射出兵器となり、相手へと突っ込んでいく。
響く甲高い金属音、上がる水しぶき。
そうしてリララの2発目を待たずして、水面にぷかぷか浮かぶこととなったその姿を眺めつつ、俺はふぅと一息ついていた。
「……。これで斥候とやらは全部か?」
「そうみたいだね。とは言え、もうすぐ母艦からの増援がやってくる頃だと思うけど」
「しっかしなんでこんな辺鄙なところに、ワンダードの正規軍が殴り込んでるんだ? イベントやってただけじゃないか」
そんな疑問を口に出しながら、ふと後ろを振り返る。
――眼下に広がるは、細々とした島々。
そしてその浅瀬では、今の今まで奮闘していた傭兵部隊の汎用機たちが、ボロボロの状態で膝をついている。
その後方には、何やら音楽フェスのような会場も見えた。
恐らく彼らはその警備要員として、安月給にて雇われたのだろうが……まさかワンダード正規軍にちょっかいを出されるとは思いもしなかっただろう。
「そだねぇ、まぁそこら辺も本人達から聞いてみよっか。どうやらお出ましって感じだからさ」
リララがそう言いきると同時に、示し合わせたかのように遠洋から、総勢50機程度の増援が現れる。
その内、タイダル型は8、と言ったところだろうか。遠くの方には豆粒大の母艦も見えた。
それらはある程度の統率を保ちつつ、こちらを威圧するように整列していく。
「――あーあー。こちらは世界融和連合アクアルタ~。民間人に対する攻撃への申し開きがあれば、どうぞ~?」
セイレーンウェーブの機構を使った拡声器モードによる、リララの質疑応答に対し、向こうからはことさらに居丈高な声が返ってくる。
「――こちらは戦艦ケトス。当該諸島は三者協定による国際法、第29条1項に違反していたため、一部のものがこれを是正すべく動いていたと、そう報告を受けている」
「……船舶や浮遊艇の航行阻害? どこが? フェスやってただけじゃん」
「向こうの事情は知らないが、たくらみ事があったことは明白だ。事実、我々のモビルフレームが攻撃を受けているのだからな」
「……そっちが先に手を出したって聞いてるんだけど」
思わず嘆息を返すリララに対し、向こうはふと俺たちにも矛先を向けてきた。
「そしてお前達もまた、先んじて攻撃を仕掛けてきたはずだ。よもやこの機に乗じて、新たに着任した我々を叩いておこうとでも思ったか?」
「……ああ、なるほどな。新しい部隊だったのか。どうりで歯ごたえがなかったわけだ」
思わずそうぼやくと、リララも小声でそれに応じてくる。
「どーせこれくらいの島なら混乱に応じて制圧できるって思って、それでいちゃもんつけて殴り込んだんでしょ。もしくは試し切りしたくて、部下達が勝手にケンカ売りに行ったか、かな?」
「なるほどなぁ」
と、こちらがそんなひそひそ話を交わしている間に、向こうは聞いてもいないことをペラペラと述べてゆく。
「しかし我々は運が良い。着任早々あのメタルマーメイドを2機も落とした小隊だと、そうもてはやされることになるのだからな」
「……捕らぬたぬきのなんちゃらしてるのが、まさに小物って感じだねぇ……」
「ぬかせ! すぐに、その鼻を明かしてやる! ――全隊、かかれ‼」
その号令を皮切りに、総勢50機ほどの機体が割とバラバラにこちらに向かってやってくる。
しかし対するリララは、それを目の当たりにしてなお、大きい伸びを見せていた。
「よーし、かったるいやりとり終わり~。……ん、なにその顔」
「いや、その……あのリララの口から、形式張った会話が聞けるとは思わなくてな」
ふとそう漏らせば、リララは肩をすくめる。
「真正面からただバカを叩きのめすだけじゃダメ、ってことだよ。正しいことしてたとしても、後からわたし達だけがいちゃもんつけられるかも知れないでしょ? だから、とにかくこういう建前を聞いて、それを記録に残すことって大事なわけ。てかアシュリーは、あの鬼教官から集中講義受けてるんじゃなかったっけ?」
「確かに、受けてはいるが……」
「それらを全部こなせば、これくらいはすぐ出来るようになるよ。安心しといて」
「なるほど。……ああ、そういや今日も、帰ったらあるんだったな……」
思い出したくないことが脳裏によぎり、鬱屈としてしまう。
……そう。操縦技術も戦闘技術も特に問題ないとされた俺はいま、唯一足りていない知識面を補うべく、定期的に教官から知識を詰め込まれていた。
そして俺にとってそれは、タイダル型100機を相手にすることよりも、よほど苦痛なことでもあって。
「ここで頑張っとけば、少しは手心加えてくれるかもよ?」
「……そうだと良いけどな」
長めのため息を吐きつつ、改めてリララの前方に移動する。
「そんじゃ、行きますか~。……アシュリー! ウラカゼ! ストリームアタックを仕掛けるぞ!」
「何で俺を名字と名前で呼んだんだよ」
そんなツッコミに、リララはただちろりと舌を出すだけだった。
……どうせこれも、いつものゲームの台詞か何かなのだろう。
俺は気を取り直して、向かってくるモビルフレーム達を見据える。そうしてゆっくりと、フォトンライフルの背を握りしめた。
――そうしてほぼ同時に構えを取った俺たちが、目の前の小隊を完全に制圧するのに、都合10分も掛からなかった。
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