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白き花のアクアマキナ ~男の俺が女性専用機に乗って無双するまで~  作者: 山下 六月
第三章 『元の持ち主』

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012 フランクゲーマー



「……あははは、なに、あの艦長ってばそんな奴だったんだね~」


 ごろ寝状態でコントローラーを握りしめていたリララが、けらけらと笑う。

 

「笑い事じゃねえよ、まったく……」


 大げさにため息をついてみせるが、リララはそんな様を横目で見つつ、さらにくすくす笑っていた。

 


 ――ここはリララの自室である。

 ひとまず3人の中で一番話しやすい彼女に声を掛けた俺は、特に警戒もされず、こうしてそのまま自室まで通されていた。

 見渡せばどこもかしこもカラフルでポップな家具で彩られていて、どことなくアロマの良い香りも漂っている。

 だが一見可愛らしくも思うそんな室内の棚には、何故か大昔に発売されていたプラモデルなどが所狭しと並べられてもいる。

 はっきり言って、男の部屋なのか女の部屋なのか、見た目からは分かりにくい内装だ。



 そしてそんな部屋の真ん中で、リララはフリルのついた可愛らしいクッションをお腹でむぎゅりと潰し、棒付きのあめ玉をくわえながら、ひたすら携帯ゲームに没頭しているという状況である。

 プリントシャツに短パンというラフな格好は、まさに休日のだらだら具合を服装でも体現しているかのよう。

 ふと何をやっているのか覗いてみると……ちょうど画面に映し出されたのは、翼を生やしたロボットが、敵機に向かって二連銃を放っていく様子だった。

 

「……なんだこのモビルフレーム、羽根が生えてるぞ……?」

「カッコいいよねー」

「いやまぁ、格好良いことは認めるが……なんか、ファンタジーに片足突っ込んでないか?」

「なに言ってんの、デルフィニクスだって水掛けたら自己修復するじゃん。あっちの方がファンタジーでしょ」

「……確かにな」


 ――デルフィニクスの装甲に使われているアクアニウムは、海水淡水問わず水分を吸収し、記憶された形状まで自然に戻っていくらしい。

 だからこそ整備士はデルフィニクスの帰還後、ボディーに溢れんばかりの水をぶっかけたりもしているらしいが……ともかく、なんとも特殊すぎる金属であることに違いはなかった。

 

 と、リララはそんな事を話している間にも、見下ろし型のマップ上でユニットを手早く操作してゆく。

 やがて画面が切り替わり、今度はエックスの文字を背負ったモビルフレームが、ものすごい極太レーザーを射出している演出が挟まれた。

 

「……あっ! 話してたら必中かけるの忘れてんじゃん!」

「必中……?」

「当たれ! 当たって! やれば出来る! やくめでしょ! ほら当てて当てて当てろーっ‼ ……いよっしゃーっ‼ あぶなー‼‼」


 うつ伏せのままのけぞり、大げさにガッツポーズを取るリララ。

 そのあまりの熱の入りっぷりには、思わず苦笑を浮かべるしかなかった。

 

「ずいぶん、入れ込んでるんだな」

「ん? ……うん、そだねー。小さい頃から割とこういうゲームばかりやってたし。まぁやってたというか、やらされてた、って言った方が良いんだろうけど」

「……やらされてた?」

「うん。ほら、デルフィニクスのパイロットってさ、基本的に世襲制じゃん? だから小さい頃から、パイロットになる為の教育を受けさせられたりしてたんだよね」

「ああ……確か初代パイロットと血縁関係じゃないと、ってやつだったか」

「そそ。だまくらかせそうなDNA配列してる子孫ね。んでそれがマリーに限ると、もう私以外誰も乗れないーって状況になっててさ」


 そこで一旦肩をすくめて見せたリララは、口に入れていた棒付きのあめ玉をカリコリとかみ砕きながら、続けていく。

 

「でもさぁ……やりなさい! って周りから強制されたら、普通はやりたくなくなるじゃん? だから小さい頃は、ホントにパイロットになりたくなくてねぇ~」

「……そうだったのか。正直……今からじゃ、考えられないな」


 ぽつりとそう答えると、リララは食べきったあめ玉の棒をゴミ箱へと投げ捨てつつ、ふと遠い目になった。

 

「だから……周りやリトルマザーが苦肉の策で、モビルフレームに興味持たせようと色々してった中の一つが、こういうロボットもののシミュレーションゲームをやらせることだった、ってわけ。そしたらさ~、まーどハマり」

「どハマり……」

「どハマり。おかげで今じゃ渋々、マリーに乗るようになりました。まる」

「それでも渋々なのか」

「渋々だよー、だって延々とゲームしてたいじゃん」

「な、なるほどな……本末転倒ちっくというか、なんというか……」


 もう一度、部屋をぐるり眺めてみる。

 ……そういう経緯を聞かされてみれば、確かにこの部屋は、リララらしい部屋だと思えてもくる。

 するとリララもそれに続き、飾ってあるフィギュアを眺めた。

 

「……あのフィギュアもこのゲームもさ、どれもこれも店頭で売られてたのは百数十年前なんだよ。それでも、今やってて楽しいじゃん? なんというか、すごいよねぇ」

「セブンスカタストロフが起こってなかったら、もっと数えきれないくらい、こういうものが作られていったんだろうな」

「そだね」


 端的にそう答えたリララは、湿っぽくなった空気を変えるためか、ふと握りこぶしを手のひらに落とす。

 

「そだ。ベルちゃんの体ってさぁ、実際のとこどうなの?」

「ど、どうって?」

「やわらかいの?」

「……は?」

「ほら、すでに犯行済みなんでしょ~? 潔く自供しちゃいなよ。てかやってないなら、わたしが今やったげよっか。ほらほら~」

「わ、ちょ、やめ……‼」


 いきなり俺に飛びかかってくるリララ。

 それを必死にいなして引き剥がそうとするが、それでもリララは子猫のようにじゃれついてくる。

 ……何というか、いい匂いがする。

 

「ほーら捕まえっ……あれ? よく見たら、いつもより肌に元気ないね」


 そうしてスイカお化けと組んずほぐれつし、その顔が至近距離になった所で、ふとリララが動きを止めた。思わず聞き返す。

 

「肌に、元気なんて……あるのか?」

「……。あの、ちょっと聞くの怖いんだけどさぁ。スキンケアとか、ちゃんとしてる?」

「……スキンケア?」


 なにそれおいしいの? というノリで聞き返すと、リララは急にがばりと立ち上がった。

 

「本気で言ってんの⁉ ……ちょっと、そこ座って! 早く‼」

「うっ……は、はい」


 カラフルマットの上に正座。

 リララはそんな俺の事を指差しながら、頭のてっぺんから叱りつける。

 

「あのさぁ‼ 今は年頃の女の子の体なんだよ⁉ せめて最低限のことはしないとダメでしょ⁉」

「最低限、って言われても……正直、何したら良いのか分からないし……」

「っ……ちょっと待ってて‼」


 そう言い残しリララは洗面所へ消えると、5秒も立たずに戻って来て、俺にジェルコンテナを数個投げつけてくる。


「……なんだこれ」

「オールインワンジェルってやつ! とりあえず、お風呂上がりは毎回どれかを必ず塗っといて! それだけで良いから!」

「……何個かあるけど、全部塗るのか?」

「んなわけないでしょ、メーカー違うだけ! 一つずつ試してみて、肌に合うなーってやつ使い続ければいいの! それくらい出来るでしょ⁉」

「わ、分かった……けど、あれだろ? こういうのって、化粧水とか、乳液とか……色々あるもんなんじゃないのか?」

「そりゃ、あるにはあるけど……でも、何でも良いから肌にしぱーん! ってしとけば、最低限おっけーなの。何もしないのだけはギルティ! むしろ死罪‼ 分かった⁉」

「わ、わかった……」


 弱々しく同意を返したところで、ようやくリララもテンションを元に戻してゆく。

 

「……。ちなみにだけどさ、他に質問はある?」

「質問?」

「今みたいに、女の子のことで分かんないこと、色々とあるでしょ? この機会だし、全部言っちゃっていいよ」

「……言ったら、今みたいに怒鳴りつけたりするだろ?」

「するわけないでしょ? これでも一応、事情は知ってるわけだしさ」


 その答えに安心し、俺は兼ねてからの悩みを打ち明けることにする。

 

「じゃあ、その。下着についてなんだけど……」

「……下着してないのっ⁉⁉」


 ほら怒鳴ったじゃないか……などと内心泣き顔になりつつも、俺は必死に否定する。

 

「し、してないわけじゃない! その、いっぱい種類あって、どれ付けたら良いのか……」

「そんなの、付けてて苦しくなかったりするものでいいんだよ。どうせ人に見せるもんでもないんだしさ。……あ、でも、あの艦長に見せたりするって言うなら、話は別だけど」


 唐突に口に手を当て、にやけ面を見せてくる。

 ……ホント、表情がコロコロ変わるというか何というか。

 俺は長めのため息を吐きながら告げる。

 

「そんな気はまったくない。第一、この体は借り物だと思ってる。俺の一存で傷物にするつもりなんてない」

「ん……そっか。なら安心した。でも……借り物だって言うなら、余計お肌のメンテナンスとか、しっかりやっとかないとダメなんじゃないの?」

「ああ、全くもってその通りだな。……死ぬほど面倒くさいが、とりあえずはやってみるさ」


 明確な意思を持って告げたそれに、リララはふと柔和な笑みを浮かべる。

 そして俺は、その雰囲気を見て……目的を果たすなら今だ、とも感じていた。

 

「……そうだ。何でも聞いて良いって、言ったよな?」

「うん、何でも教えるよ。そうだねぇ……月のこととか、聞きたいんじゃない?」


「なら――ノウェンベル・キリシマについて、知りたい」


 その問いに、リララはぴたりと固まった。

 

「……どういうこと?」

「どうも何も、この体の元の持ち主について、俺は何の情報も渡されてないんだ。経歴、人となり。趣味や特技に、好きな食べ物、もちろんスキンケアの方法も。そして……何故、俺に体を明け渡したのかについても、だ」

「……」

「これは特に確証がある話でもないから、あまり広めないで欲しいんだが。先の任務で、俺がトドメを刺し損ねた件、あるだろ?」

「急に力が抜けた、ってやつ?」

「ああ。アレが実は、ノウェンベルの意思によるものかも知れないんだ。彼女の過去を知ることが、原因を特定するカギになる可能性がある。だから答えられる範囲で良いから、色々と教えて欲しいんだ」


 出来るだけ気楽に問いかける。

 だがやはりそれでも、部屋の空気は格段に重たくなってしまった。ゲームのピコピコ音が、ことさらうるさく部屋に響いてゆく。

 だが俺は、それでも答えを待ち続けた。

 

「……ベルちゃんはね」


 すると。出来れば答えたくないというオーラを放ちつつも、ようやく口火を切ったリララは……そこでふと、目を逸らしてしまう。

 

「……優等生だった」

「優等生?」


 思わず聞き返すと、リララは弱々しく頷きを返してくる。

 

「うん。優しくて、とことん真面目で。世界の安寧を守るんだーって言って、率先して出撃してた」


 ぽつりぽつりと語られたそれを受け、思わず考えにふけってしまう。

 

 

 ……なるほど、優等生。確かにその評価なら、魔が差した俺に対し、灸を据えてきそうではある。

 ただ、そもそもそんな人間が出撃拒否をし、体を明け渡し、自らの使命を他者に委ねるだろうか?

 仮に出撃拒否をボイコットと言い換えるならば、不真面目という評価でなければならないはずだ。

 

 とすると……ノウェンベルはリトルマザーと対立した為に、出撃を拒否するようになったのか? リララの口ぶりを聞くに、口止めをしたのはリトルマザーだけのようだし、この線ならばある程度納得出来る気もする。

 だがそうだったとして、そんなリトルマザーの提案を受け入れ、体を第三者に明け渡している現状に説明はつかない。

 

 だから、ええと……だめだ、結局何も分からない。



「……それで?」


 思考が行き詰まってしまったので、ふと先を促す。

 しかし、それが逆に良くなかったか。リララはついに顔を伏せ、喉をこくりと一つ鳴らすと、ふるふると首を振ってしまった。

 

「……ごめん。まだ、わたしの中でも、整理がついてなくてさ。……他の人に聞いてくれると、嬉しいかも」

「……。……そうか」


 リララが見せた表情は先ほどまでとは異なり、まるで友人を亡くしてしまったような、そんな悲しげな表情で。

 そんなのを見せられてはもう、それ以上聞き出すことなど、俺には出来なかった。




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