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【完結】悪女と呼ばれた令嬢、望まぬ婚約寸前で剣聖皇子に奪い去られる【10月下旬に三章更新予定】  作者: しのギドラ
2章

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24話 伝説の龍の敗北

『無駄ですよ、我が主の番よ』


 白龍の、感情を排した声が虚空に響く。


『汝の肉体はすでに限界。これ以上私に近づけば、汝という魂の器そのものが崩壊するでしょう』


「……そんなの、やってみなきゃわからないわ」


 私は荒い呼吸を繰り返しながらも、その歩みを止めない。

 絶対的な神性を放つ白龍を、怯むことなく見据える。


『理解不能です。なぜ、そこまでしてこの無価値な世界に執着するのですか。私がすべてを消し去れば、汝を苛むこの痛みも、喪失への恐怖も、すべては無へと回帰するというのに』


「……笑わせないで。あなたにとっては石ころ同然かもしれないけれど、私にとっては全てが代えの利かない宝物なのよ」


 足元から感覚が消え、自分が地面に立っているのか、あるいは虚空を漂っているのかさえ判然としない。

 それでも私は、自らの魂の輪郭を必死に繋ぎ止めていた。


『無駄なことです。汝のその矮小な感情も、主が抱く絶望も、私がすべてを等しく白く塗り潰してあげましょう。それが私の主への、そして汝らへの救済です』


 白龍の巨大な瞳が、私を冷淡に見下ろした。

 そこには悪意も慈悲もない。

 ただ、美しすぎるほどに無情な論理があるだけだ。


「それは救いなんかじゃない。……この十年、ジークは鈍感にもほどがあるし、隙あらばからかってくるし、顔を合わせれば喧嘩ばかりだった……」


 私は、震える足で最後の一歩を踏み出した。

 脳裏には、走馬灯のように十年の月日が巡る。


「でも、その毎日が愛おしかった。彼と一緒にいる時間、そのすべてが、今の私を形づくる光なの。この世界に……消されていい無駄なものなんて、ただの一瞬だって、ひとつもない!」


『情動に支配された、ただの脳の反応に過ぎません。それはあまりに脆く、不確かなものです』


「……ええ、脆くて、不確かよ。……だから、こうして形にして見せてあげるわ!」


 私は、震える足でさらに一歩を踏み出す。

 ただの拳を強く、強く握りしめた。


「――これが、私の全力全霊よ!!」


 私は、地を蹴った。

 消滅の嵐を真っ向から切り裂き、神の如き巨躯を持つ白龍の鼻先へと肉薄する。


「ジークを、……私たちの世界を、勝手に消さないで!」


 私の魔力と記憶がこめられた拳が、白龍の真珠のような鱗に叩きつけられた。


 ――ッ!


 音のない衝撃が、神域を揺らした。

 伝説の龍の強靭な肉体に対し、人間の少女の拳など、羽虫が触れたのと同義。


 しかし白龍は、その場に釘付けになった。


『…………っ!?』


 白龍の瞳が、驚愕に見開かれる。

 物理的なダメージなど皆無。


 だけど、私の拳に乗せて流れ込ませた、十年間の記憶。

 ジークへの愛執、明日を生きようとする傲慢なまでの生の意志。


 それは、白龍が数千年の孤独の中で一度も触れたことのない熱だった。


『……なぜ……。私の鱗は、因果さえもかき消すはず……』


「……あなたに足りないのはこれよ、白龍! 理屈じゃない、説明もつかない、ただの愛! ……それが私達の答えよ! たとえ伝説の龍であろうと、私は……ジークのためなら、絶対に負けたりしない!」


「……っ、エル……」


 虚無の底に沈んでいたジークの瞳に、灼熱の光が戻った。

 口元に笑みを浮かべながら、私だけをただ見つめている。


「ああ……そうだ。俺は君を守るため……君へ誇れる俺であるために、強くなったんだ……」


 ジークが、自らの内に渦巻く白き奔流を、強引に捻じ伏せるように叫ぶ。


「戻れ……白龍! この勝負は……エルの勝ちだ!」



『…………』


 主の力強い宣言に、白龍を包んでいた消滅の波動が、凪のように静まる。


 白く塗り潰されていた空に、どこまでも突き抜けるような青い色が戻ってきた。


 白龍は、肩で息をする私を、ただ静かに見下ろした。


 傷ひとつない。

 痛みもない。


 だが、白龍という神話的存在の根源が、この一撃によって書き換えられたように感じた。


『……なるほど』


 白龍が、ふっと瞳を細める。

 その巨大な姿が、まるで影に溶け込むように、ゆっくりとジークの背後へと収束していく。


『……これが愛というものなのですね。絶望よりも底がなく、救済よりも輝かしい狂気……理屈を超え、龍の理さえもねじ伏せる、傲慢で美しい人間の意志。……ふふ、私の負けです』


 白龍の声が、風に溶けるような穏やかな響きを残して、完全に消えた。

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※カクヨムにも掲載
【代表作】→「悪役令嬢は全員生存エンドを目指す」
◆累計ページビュー63,000pv超え感謝◆

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あらすじ→「全員生き残るか、一人残らず死ぬか」その二択しかない極限の乙女ゲーム。
前世の記憶を取り戻したルナリアは、自分が"全滅エンド"を招く悪役令嬢だと知る。
導き出した答えは、誰とも関わらず、孤独に生きること。
そう誓った矢先に出会ってしまったのは、攻略対象——公爵令息のグレン。
父の虐待を見抜き、どんなに突き放しても離れない彼に、距離を取ろうとするほど執着されていく。
やがて暴かれる、最初から大切な人を"殺す力"を宿していたという残酷な真実。
それでも彼は、皆の前で誓った。
「生涯をかけて君を幸せにする」と。
虐げられた令嬢×公爵令息。
作品ページはこちら→「悪役令嬢は全員生存エンドを目指す」
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