表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『太陽が消えるので地球ごと引っ越したら、銀河の惑星戦争に巻き込まれました』  作者:


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/13

第6話 重すぎる星

 地球は、ゆっくりと外縁軌道を漂っていた。


 戦いの熱は去り、代わりに残ったのは、静かな損耗だった。


 モリト・アークは管制席に座り、スクリーンに流れる報告を無言で追っていた。


「……思ったより、やられてるな」


 表示されるのは各地の被害状況。


 沿岸部の異常潮位。

 大気循環の乱れ。

 重力変動による都市基盤の歪み。


 どれも致命的ではない。


 だが、確実に“削られている”。


《環境復旧率、現在七十二パーセント》


 ガイアが告げる。


《完全安定まで推定二十六時間》


「その間にまた来られたら?」


《対応困難》


「だよな……」


 モリトは椅子にもたれ、天井を見上げた。


 火星との戦闘は、敗北だった。


 押し返すことすらできず、ただ逃げるしかなかった。


 それが現実。


「……何が足りなかった」


 独り言のように呟く。


《分析結果を提示します》


「頼む」


 スクリーンに新たなデータが展開される。


《敗因――機動力不足》


「やっぱりそれか」


 予想通りだった。


《地球の質量は火星の約十倍》


「デカすぎるってことだな」


《加速・減速・軌道変更、すべてにおいて応答速度が遅い》


「一手遅れる」


《結果、相手の戦術に追従できない》


 モリトはゆっくりと頷いた。


 分かっている。


 分かっているが、どうしようもない。


「地球を軽くするわけにもいかないしな」


《不可能》


「だよな」


 ため息をつく。


 重い。


 それが、弱点。


 だが――


「……いや、待てよ」


 モリトは眉をひそめた。


 その言葉が、頭の中で引っかかった。


 重い。


 質量が大きい。


 それは本当に“弱点”なのか?


「ガイア」


《応答》


「重いってことはさ……」


 一瞬、言葉を探す。


「引力が強いってことだよな?」


《肯定》


「なら」


 モリトの目が、わずかに細められる。


「それって、武器にならないか?」


 ガイアが沈黙する。


 わずかな間。


 そして。


《再計算を開始》


 ホログラムが変化する。


 地球の重力圏が強調され、その影響範囲が広がる。


《理論上、他惑星への重力干渉は可能》


「やっぱりな」


 モリトは小さく笑った。


「押されるだけじゃない。押せるはずだ」


《ただし》


「制御が難しい、だろ?」


《肯定。精密な軌道操作が必要》


「それをやるのが、俺の仕事だろ?」


《……》


 ガイアは一瞬だけ沈黙した。


《適合しています》


「だろ?」


 モリトは前を見据えた。


 視界に広がる宇宙。


 その中で、地球は確かに重い。


 だがそれは、ただの足かせじゃない。


「使い方次第ってことだ」


《追加要素を提示します》


「まだあるのか?」


《はい》


 ホログラムに、新たな天体が表示される。


 地球の隣に寄り添う、白い球体。


「……月か」


《地球の天然衛星》


「知ってるよ、それくらい」


《月の質量は地球の約一百分の一》


「軽いな」


《しかし》


 その軌道が強調される。


《地球との相互重力により、大規模な干渉が可能》


 モリトは目を細めた。


「つまり?」


《月の軌道を意図的に変更した場合》


 ホログラム上で、月が動く。


 地球に接近する。


 その瞬間、重力場が大きく歪む。


《地球全体の軌道に影響を与えることができます》


 モリトは息を止めた。


「……マジかよ」


 これは。


 ただの補助じゃない。


「これ、下手すりゃ――」


《惑星規模の軌道操作が可能》


「だよな……!」


 心臓が、少しだけ速くなる。


 見えてきた。


 勝ち筋が。


「ガイア」


《応答》


「月を使えば」


 ゆっくりと、言葉にする。


「地球の動きを“強制的に変えられる”ってことだな?」


《肯定》


「しかも、相手の干渉を利用して」


《条件付きで可能》


 モリトは笑った。


 ようやく、分かってきた。


「……重いってのは、悪くないな」


《評価を更新》


「だろ?」


 地球は遅い。


 だが、重い。


 そして、その重さは――


 武器になる。


「……これなら」


 モリトはスクリーンを見つめた。


 遠くにあるはずのセカンドサン。


 その周りの、三つの席。


「奪えるかもしれないな」


《成功確率は未確定》


「いいんだよ、それで」


 モリトは肩をすくめた。


「俺は“正解”を探してるんじゃない」


《確認》


「作るんだよ」


 その言葉に、ガイアは静かに応じた。


《最適解の創造プロセスを開始》


 モリトは立ち上がった。


 まだやることは山ほどある。


 月の軌道。


 地球との距離。


 タイミング。


 すべてを計算し、そして――


 越える。


「……全員、生きるために」


 その呟きは、小さかった。


 だが、確かだった。


 その日、人類は知った。


 月は――ただの衛星ではない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ