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『太陽が消えるので地球ごと引っ越したら、銀河の惑星戦争に巻き込まれました』  作者:


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第10話 月は刃になる

地球は、静かに航行を続けていた。


 セカンドサンは、もう“遠い光”ではない。

 視界の奥で、確かな重みを持って輝いている。


 だが――その光の周囲には、三つしか席がない。


 モリト・アークは管制席に座り、無数の軌道シミュレーションを見つめていた。


 赤い線。青い線。白い線。


 何度も重なり、何度も失敗し、何度も崩れる。


「……違うな」


 小さく呟く。


 これまでの戦いは、すべて同じだった。


 押すか、押されるか。


 ぶつけるか、逸らすか。


 だが――


「それじゃ勝てない」


《同意》


 ガイアの声が応じる。


《火星勢力は重力干渉において優位》


「分かってる」


 だからこそ、発想を変える必要がある。


 モリトは目を閉じた。


 思い出すのは、これまでの戦い。


 火星の動き。


 自分の動き。


 そして――


 月。


「……ガイア」


《応答》


「月を使った時、何が起きてる?」


《地球の重力場が変化し、軌道に影響を与えています》


「それだけか?」


《それが本質です》


「……いや」


 モリトはゆっくりと首を振った。


「違う」


 スクリーンに月の軌道を表示する。


 その動き。


 地球との関係。


 重力の流れ。


「月は、押してない」


《……》


「引いてるんだ」


 その言葉に、ガイアが沈黙した。


《詳細を要求》


「今まで俺たちは、押し合いをしてた」


 モリトは言葉を選ぶ。


「でも、月は違う」


 指で軌道をなぞる。


「近づけば、引き込まれる」


《肯定》


「なら」


 モリトの目が、ゆっくりと開かれる。


「その“引き込み”を使えばいい」


 ホログラムが変化する。


 地球の前方に、月を配置。


 そのまま、地球が引き寄せられる。


 軌道が、曲がる。


 そして――


 セカンドサンの公転軌道へ、滑り込む。


「……これだ」


《新規軌道パターンを検出》


「押すんじゃない」


 モリトは立ち上がった。


「滑り込む」


《解析開始》


 ガイアの処理が加速する。


 シミュレーションが何百、何千と展開される。


 失敗。失敗。成功。失敗。


 そして――


《成功パターンを確認》


 その声に、モリトの呼吸が止まる。


「確率は?」


《六十八パーセント》


「……まだ足りないな」


《最適化を継続》


 さらに計算が進む。


 月の位置。


 タイミング。


 地球の速度。


 すべてが微調整される。


《成功確率、七十二パーセント》


 その数字を見て、モリトは笑った。


「十分だ」


 これまでの戦いではあり得なかった数値。


 それが意味するのは――


「勝てる」


 確信だった。



「これは……」


 会議室にざわめきが広がる。


 モリトが提示した新しい戦術。


 そのシミュレーション映像が、スクリーンに映し出されていた。


「月を前方に配置し、地球を引き込む……?」


「そのまま軌道に侵入するというのか?」


「正確には」


 モリトは訂正する。


「侵入じゃない。“落ちる”んです」


 重力に従って。


 自然に。


 無理なく。


「……理屈は分かる」


 誰かが言った。


「だが、制御できるのか?」


「できます」


 モリトは迷わず答えた。


「今なら」


 沈黙。


 その言葉には、確かな重みがあった。


「リスクは?」


「あります」


 モリトは正直に言う。


「失敗すれば、軌道を外れます」


 つまり。


 終わる。


 だが――


「成功すれば」


 モリトはスクリーンを指した。


「一気に、席に入れる」


 誰よりも早く。


 誰よりも確実に。


 沈黙が続く。


 だが、それは否定ではない。


 理解だ。


「……やるしかないか」


 誰かが呟いた。


 それが、結論だった。



 管制室。


 モリトは再び席に座っていた。


 スクリーンには、セカンドサン。


 その周囲に、三つの円。


 そして、接近する火星。


《最終戦闘、準備段階》


「……いよいよだな」


 小さく呟く。


 ここまで来た。


 もう、引き返せない。


「ガイア」


《応答》


「これで勝てるか?」


 一瞬の沈黙。


 そして。


《はい》


 その一言に、迷いはなかった。


 モリトは目を閉じた。


 怖くないわけがない。


 失敗すれば、すべてが終わる。


 だが――


「……全員、生きる」


 その言葉を、もう一度胸に刻む。


 それが、自分の選んだ道だ。


 なら。


「やるしかないだろ」


 目を開く。


 その視線は、まっすぐ前を向いている。


 セカンドサン。


 そして、その周囲の席。


 そこに――


 滑り込む。


 月を使って。


 重力を使って。


 すべてを使って。


《最終航路、確定》


 ガイアの声が響く。


 その瞬間。


 すべてが、繋がった。


 月は、もはやただの衛星ではない。


 それは――


 軌道を切り裂く刃だった。

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