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『太陽が消えるので地球ごと引っ越したら、銀河の惑星戦争に巻き込まれました』  作者:


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第9話 届かない軌道

 セカンドサンは、確かに近づいていた。


 暗黒の海の向こうで、淡く、しかし確実に存在感を増している第二の光。


 あの恒星圏に入れなければ終わる。


 そして、入れたとしても――席は三つしかない。


 モリト・アークは管制席に座り、スクリーンに映る軌道図を見つめていた。


「……距離は?」


《セカンドサン外縁圏まで、推定七十二時間》


「思ったより早いな」


《現在の航路は最適化されています》


「だよな」


 小さく頷く。


 前回とは違う。


 月のデータ。


 重力干渉の理解。


 そして、経験。


「……少しはやれる」


 自分に言い聞かせるように呟いた、その時だった。


《重力異常を検知》


 来た。


 モリトは即座に顔を上げた。


「位置は?」


《前方、距離三十五万キロ》


「映像」


 ホログラムが展開される。


 そこに映るのは――


 赤。


 鈍く、確実な存在感を放つ、火星。


「……また会ったな」


 思わず漏れた言葉。


 前回と同じ距離。


 だが、違うのは――


 こちらの準備だ。


《火星勢力、進路変更》


 軌道が交差する。


 逃げ場はない。


「……やるぞ」


《戦闘準備完了》


 モリトは深く息を吸った。


 恐怖はある。


 だが、それ以上に。


「今回は、逃げない」


 覚悟があった。



 戦いは、静かに始まった。


 火星のリングが展開される。


 空間が歪む。


 重力が押し寄せる。


「来るぞ……!」


《重力干渉開始》


 地球が揺れる。


 だが――


「月、位置調整」


《了解》


 モリトの指示と同時に、月が動く。


 ほんのわずかに。


 だが、その変化が、地球の重力場を変える。


「……押し返す!」


 重力の流れが変わる。


 火星の干渉を、わずかに逸らす。


《干渉率、低下》


「よし……!」


 前回とは違う。


 確実に、対応できている。


「このまま――」


《警告》


 ガイアの声が割り込む。


《火星、第二干渉開始》


「何?」


 次の瞬間。


 重力の流れが、変わった。


 先ほどまでとは違う方向からの圧力。


「……挟まれた?」


《火星は干渉方向を分割しています》


「そんなことまで……!」


 読まれている。


 こちらの動き。


 月の利用。


 すべて。


《軌道逸脱警告》


「くっ……!」


 モリトは歯を食いしばった。


 まだだ。


 まだ終わってない。


「月、再調整!」


《応答遅延》


「間に合え……!」


 だが。


 火星の動きは、それより速い。


 正確で、無駄がない。


 こちらの“次”を読んでいる。


「……くそっ」


 モリトはスクリーンを睨んだ。


 軌道が、じわじわと押されていく。


 前回と同じ。


 だが――


 違う。


「……まだだ」


 モリトは低く呟いた。


「今回は、終わらせない」


《……》


 ガイアは何も言わない。


 ただ、計算を続けている。


「耐えるぞ」


 その一言で、すべてが決まった。


「押し返せないなら――耐える」


《戦術を確認》


「いいからやれ!」


 地球の動きが変わる。


 無理に逆らわない。


 押される方向を受け流す。


 その代わり――崩れない。


 軌道を、維持する。


《逸脱率、低下》


「……そうだ」


 モリトは息を吐いた。


「これでいい」


 勝てなくてもいい。


 負けなければいい。


 今は、それで十分だ。



 一方。


 火星内部。


 イグナスは静かにデータを見ていた。


「……変わったな」


「地球の挙動ですか」


「ああ」


 明らかに違う。


 前回よりも、対応している。


 そして。


「崩れない」


 それが、厄介だった。


「月の利用も確認」


「やはり、あの異物ですか」


「間違いない」


 イグナスは目を細めた。


 だが。


「まだ届いていない」


 冷静に言う。


「最適解には遠い」


 だから――


「排除は不要」


 その判断に、迷いはない。


「今は、無視する」



 再び、地球。


 重力の波が、ようやく収まる。


《火星勢力、離脱》


「……終わったか」


 モリトは椅子に沈み込んだ。


 全身から力が抜ける。


「……勝てなかったな」


《はい》


「でも」


 モリトは小さく笑った。


「負けてもない」


《その通りです》


 スクリーンには、まだセカンドサンがある。


 遠いが、確実に近づいている。


「……届かせる」


 その言葉に、迷いはなかった。


 まだ差はある。


 技術も、戦術も。


 だが。


「次は、越える」


 モリトは前を見据えた。


 その先にあるのは、三つの席。


 そして、最後の戦い。


 その差は――


 まだ、埋まっていなかった。

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