14話 団長と、第一騎士団の到着
「ユリウス団長! 先行は危険であると、何度申し上げたらお分かりになるのですか!」
砕け散った地下室の扉の向こうから、怒声にも似た叫び声が響き渡った。
硬質な足音を立てて地下室へ雪崩れ込んできたのは、銀色の鎧を身に纏い、マントをひるがえした屈強な男たち。
その洗練された装備と身のこなしは、どう見てもそこらの兵士や衛兵ではない。
(えっ……騎士様!? どうしてこんなところに……?)
状況が飲み込めず、私はユーリの胸の中で呆然とその光景を見つめ続けた。
部屋へ突入してきた騎士たちは、床に転がって気絶している男たちを見事な連携であっという間に拘束した。
「遅いぞ、副団長」
私を抱きしめたまま、ユーリが先頭に立っていた男性に声を向ける。
少しだけ神経質そうな騎士が、呆れたようにため息をつきながらユーリの前に片膝をついた。
「団長が一人で突っ走るからです。我々第一騎士団の足をもってしても、あなたの速度にはついていけませんよ」
「お前たちが鍛錬不足なせいだ。それより、他の場所の制圧はどうなっている?」
「すでに完了しております。アジト内にいた違法薬物の密売組織の残党は、一人残らず捕縛いたしました。現在、証拠品となる薬瓶や帳簿の押収を行っています」
耳に飛び込んでくる信じられない単語の数々に、私の頭の中はパンクしそうだった。
(だ、団長……? 第一騎士団……!?)
第一騎士団といえば、王都の治安と防衛を担う最強の兵団だ。
混乱する私をよそに、ユーリは副団長に向かって平然とした顔で指示を飛ばし始めた。
「こいつらも一連の密売に関与した実行犯だ。王都の地下牢へ連行し、背後関係をすべて吐かせろ。万が一にも口を割らない場合は、俺が直接尋問する」
「はっ! ……それにしても団長、その腕の中にいらっしゃる女性は……?」
副団長の視線が、ユーリの腕の中に収まっている私へと向けられた。
抱きしめる力が強まり、ユーリの眼差しに柔らかい光が混ざる。
「俺の命の恩人であり……俺がこの世で最も大切に想う女性だ。彼女を連れ去り、危害を加えようとしたあの男たちには万死に値する罰を与えよ」
「なっ……だ、団長が、女性を……!? いえ、承知いたしました! 事後処理は我々にお任せを!」
副団長は後退りしながら驚愕していたが、すぐに気を持ち直し、周囲の騎士たちへテキパキと指示を出し始めた。
「アイリス、もう大丈夫だ」
ユーリは私の耳元で優しくささやくと、私を抱え上げたまま、ゆっくりと立ち上がった。
足元がすくんで立てない私の体を、軽々と抱き上げてくれる。
「あっ……ユーリ、自分で歩けるわ……!」
「無理をするな。君の体はまだ震えている。……それに、俺が君をこうして抱いていたいんだ」
見上げると、彼の空色の瞳が慈しむように私を見つめていた。
その熱を持った眼差しに、私は何も言えなくなり、ただ落ちないように彼の首に腕を回すことしかできなかった。
部屋を出て廊下を進んでいると、すれ違う騎士たちが、ユーリに向かって敬礼をして道を空けていく。
その光景の異常さに、私は自分が匿っていた青年が、どれほどとんでもない身分の持ち主だったのかを、ようやく頭で理解し始めていた。
(王都の守りの要……第一騎士団の団長様。それに、『ユリウス』という名前も、どこかで聞いたことがあるような……)
記憶の底を探ろうとするが、ユーリの胸の温もりと鼓動によってすぐに溶かされていく。
「怖かっただろう。俺の配慮が足りなかったばかりに、君をこんな危険な目に遭わせてしまった……」
歩きながら、ユーリが悔恨を滲ませた声でつぶやいた。
「ううん……あなたのおかげで、私は助かったの。それに、ユーリが迎えに来てくれて……すごく嬉しかった……」
安心感から、また涙があふれそうになり、私は彼の胸元に顔を埋めた。
ユーリはアジトを出ると同時に歩みを止め、私の額にそっと優しい口づけを落としてくれた。
「……もう二度と、君を危険な目にはあわせない。俺のすべてを懸けて、君を守り抜く」
誓いのようなその言葉は、澄んだ青空の青空の下で輝き落ちる。
私は彼の言葉と、その胸から伝わる心地よさに包まれ、静かに瞳を閉じるのだった。





