第1章5節
張掖での短い休養を終え、隊商は再び西へと動き出した。頭領の掛け声が朝の空に響く。「敦煌まで一気にいくぞ!」
張掖から敦煌までは五日ほどの道程だった。道はますます乾燥し、草木がまばらになる。風が砂を運び、昼は容赦ない陽射しが肌を焼き、夜は急に冷え込む。荷車を押す手が荒れ、足の裏にマメができる。私は巾着袋を肩にかけ、黙々と歩きながら時折道端の白い骨に目を落とした。獣のものか、それとも……。言葉にできない恐怖が背中を冷たく撫でる。
そして、出発からちょうど四十日目。正始6年7月。私はついに敦煌のオアシス都市に到着した。
緑の木々と水の匂いが、砂漠の果てに突然現れた。城壁に囲まれた街並みは、想像以上に活気に満ちていた。ポプラの木々が風に揺れ、灌漑用水路がキラキラと光っている。隊商は市場近くの宿場に荷を下ろした。私は荷車から降り、巾着袋を肩にかけ直した。
頭領が私の肩を軽く叩いた。「嬢ちゃん、よくここまで付いてきたな。敦煌までは無事に連れてこれた。これで契約は終わりだ」。そう言って、腰の袋から小さな布袋を取り出し、私に投げてよこした。「餞別だ。少しばかりだが、役に立てろ」。
袋を開けると、中には五銖銭が十数枚入っていた。私は胸が熱くなって、ぺこりと頭を下げた。「本当に……ありがとうございます! おじさんたちのおかげでここまで来れました。みんな、元気でね!」
隊商の人たちが荷物をまとめ、別々の方向へ散っていく。私は一人、市場の入り口に立っていた。賑やかな声が四方から聞こえてくるのに、急に世界が広く、冷たく感じる。誰も私のことを知らない。誰も、私が現代からタイムスリップしてきた18歳の女の子だなんて、想像もしていない。できるわけもない。
敦煌の市場は活気にあふれていた。胡人の商人たちが大声で商談し、色とりどりの絹や宝石、香辛料が山積みになっている。私は長安で仕入れた玉の欠片と香料の小袋を売りに出してみた。胡人の商人相手に駆け引きは難しく、少しばかりの儲けは出たものの、長安からの長い道のりに見合っているとは思えなかった。「うーん……甘かったかな……」と肩を落とす。
夜、粗末な布団に横になりながら、私は小さく息を吐いた。敦煌にしばらく滞在して、情報を集めて、砂漠越えの準備を整えよう。隊商の人たちと別れた今、改めて実感する——今の私は本当に一人だ。でも、葵さんが三十年耐えたんだ。私も、絶対にローマまで行く。
星空の下、敦煌の夜風が静かに部屋に流れ込んでくる。私は手記を抱きしめ、目を閉じた。
第1章 了
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