第11章2節
一日目、改めて荷を確かめた。保存食は、十二日分。水袋は三つ、どれも満杯だった。
二日目、夜に歩き、朝が来る前に窪地を掘って埋まる。羊番の間に鈍っていた体の感覚も、二日と経たないうちに戻ってきた。
黒い砂は、昼の熱の残り方が、タクラマカンと少し違った。日が沈んでからも、しばらく足の裏に温かさが残る。埋まった砂の中でも、その余熱を感じながら眠った。
地平線に、時折、灰色に枯れた低木の影が浮かんだ。サクサウールだと、渡河点の宿の主人が言っていた。
早春のカラクムは、夜になると急激に冷えた。昼の熱が嘘のように引き、風が地面すれすれを這って通り過ぎる。
三日目、宿の主人が教えてくれた通り、一つ目の川筋に行き当たった。水が流れている。細い流れだったが、水袋を満たした。
四日目。特に変わったことはなかった。同じ歩調で、西へ進んだ。
五日目、出発から方角を見誤った。星の位置を確かめ直したとき、数時間分、無駄に歩いていたことに気づいた。足跡を頼りに野営地まで引き返し、正しい方角を取り直す。それからしばらく、歩幅が、いつもより速くなっていた。
六日目、宵の口に、二つ目の川筋に着いた。水は無かった。しかし涸れて、まだそれほど経っていない気配があった。
水袋は、一つが空になっていた。残りのうち一つも、少し心もとない張りだった。
荷を下ろし、砂を掘った。半日掘って出てきたのは、湿った砂だけだった。水は、どこにも無かった。
掘りながら、私だ、と思った。サムフルの気持ちに気付いていて、それに応えられないのを知りながら利用したのは私だ。
西へ向き直った。東にいるであろうサムフルから顔を背けるように歩き出した。
この日を境に、水を大きく切り詰め始めた。
七日目、歩いた距離を、頭の中で計算し直した。水探しと、道迷いに費やした時間の分、進みが遅れている。予定より、明らかに後ろにいるはずだ。夜半、遠くで甲高い鳴き声が一度上がった。ジャッカルの声だと思った。しばらく耳を澄ませたが、二度目は来なかった。歩みを止めず、そのまま西へ進んだ。
八日目、午後に砂嵐が来た。地に伏せ、上着で頭を覆って、やり過ごしたが、夜になってもなかなか止まなかった。出発が、大きく遅れた。腰の帯を、一つ内側の穴に締め直した。唇の皮が、薄く浮き始めていた。舌で確かめて、そのままにした。
九日目、また同じ時刻に、砂嵐が来た。前日と同じように、夜になっても足止めされた。視界の端が、薄く白く滲むようになっていた。瞬きを繰り返しても、すぐには戻らない。指先の感覚も、少しずつ鈍くなっていった。荷紐を、目で確かめながらでないと、うまく結べなくなっていた。
十日目の夜半、三つ目の川筋に行き当たった。涸れ川の跡だった。乾いた砂利と、白く干上がった小石が、帯のように続いているだけだった。水はなかった。望みの余地は、どこにもなかった。
あのとき、二つ目の川筋で、引き返していれば。しかしもう考えても仕方のないことだ。今から引き返しても、一つ目の川筋に着く前に死ぬ。
砂漠を抜けるまでは、およそ四日ほどだろう。この日から、保存食を少し食い延ばして口にするようになった。
十一日目、水袋の中で、もう音がしなくなっていた。逆さまにして、数滴舌の上に落ちたのを、長く味わった。喉の奥が、常に薄い痛みを持つようになっていた。
十二日目、夜半、わずかに雨が降った。口を開け、上を向いた。舌に、冷たい雫がいくつか触れた。ほんの数滴で、すぐに止んでしまった。
視界の端の白い滲みは、日を追うごとに、戻りが遅くなっていた。歩いている最中、足元の砂の粒が、一瞬だけ輪郭を失って見えることがあった。瞬きをすれば、また元に戻る。それだけのことだと思って、歩き続けた。
深く息を吸うと、肋骨の輪郭が、以前より指で数えやすくなっていることに気づいた。
十三日目、保存食は、もう一日分に満たなかった。
乾いた河床の跡に、獣の足跡らしきものを見た。古く、風に薄れかけていた。何の獣かは、分からなかった。
夜、星を見上げる時間が長くなった。北の星を探すのに、以前より瞬きの回数が増えている。頭の中で数を数えることと、足を運ぶことの境目が、少しずつ曖昧になっていった。風の音が、時折、別の音に聞こえることがあった。人の声のようにも、鈴の音のようにも聞こえたが、振り返っても、何もなかった。
空腹と脱水が、体の輪郭を溶かし始めていた。歩くことと、考えることの境目が、砂の熱に炙られるように、少しずつ曖昧になっていく。それでも、足だけは動いていた。
骨と、砂と、風の音。それだけの世界の中で、意識の輪郭が、ゆっくりと溶けていった。




