第10章1節 サマルカンド~ブハラ 246年(正始7年)11月 旅立ちから17ヶ月
城門を出たとき、後ろに続く足音は一人分だけだった。
隊商のときは、駱駝の足音、荷馬の足音、誰かの咳、誰かの笑い声——それら全部が一つの塊になって歩いていた。今は違う。私の足音と、サムフルの足音。それだけが、朝の乾いた道に響いていた。
「静かだね」
振り返らずに言った。
「そうだな」とサムフルが言った。「隊商だと、こんなに音が少ないってこと、忘れてた」
「私も。びっくりするくらい静か」
「寂しいか」
「ちょっとだけ。でも、二人分の荷物なら二人で十分だし」
サムフルが小さく笑った。「頼りにされてるな、荷物持ちとして」
「頼りにしてるよ、ちゃんと」
ザラフシャン川に沿って、西へ道が延びていた。水量は、サマルカンドで見たときより明らかに落ちていた。岸の石が、以前より広く顔を出している。朝、その石の上に薄く霜が張っていた。踏むと、かすかに音がした。
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歩調は、私が決めた。
いつからそうなったのか、はっきりとは思い出せない。二人だけになってから自然にそうなった気もする。とにかく、朝出発するとき「今日はここまで行こう」と言うのは私で、「わかった」と応じるのはサムフルだった。
集落で水と食料を補給するときも、宿を取るときも、明日の道筋を決めるときも、同じだった。
「今日はあの村で水を汲んで、あと三里くらい進もう」
「わかった」
「ここ、屋根がしっかりしてるから今夜は宿にしよう」
「わかった」
不満そうな顔は、一度も見なかった。
四日目の夕方、野営の火を熾しながら、サムフルがふと言った。
「たまには相談に乗ってもいいよ。道とか、宿とか」
軽い調子だった。冗談とも本気ともつかない声だった。
「大丈夫、こっちで考えておく。その方が早いし」
短く返した。火の始末をしながら、次の水場までの距離を頭の中で計算していた——意識はもう明日の段取りに向いていた。
サムフルは何も言わなかった。少ししてから、「わかった」とだけ言って、鍋を火にかけた。
それ以来、サムフルはこういうとき、「わかった」しか言わなくなった。私はそのことに、まだ気づいていなかった。
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とはいえ、話す時間は多かった。
歩きながら、サムフルはよく喋った。叔父の若い頃の話、ソグドの祭りの話、カシュガルで見た手品師の話。私も負けずに応じた。日本の話は詳しくできないぶん、旅の途中で見たもの——敦煌の壁画、タクラマカンの星空、于闐の白玉——を、身振りを交えて語った。
「星の話、もう三回目だよ」
「え、そうだっけ」
「三回目だ。砂漠のやつ」
「だって本当にすごかったんだもん。手を伸ばしたら届きそうだった」
サムフルが笑った。「四回目もそのうち聞かせてもらうよ」
話さない日も、もちろんあった。風が強くて口を開くのが億劫な日、足元に集中しなければならない岩がちな道。そういう日は黙って歩いた。どちらの日も、不自然には感じなかった。
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七日目の夜だった。
火のそばで、干し杏を分けながら、サムフルがぽつりと聞いた。
「柚って、こっちに来る前、何してたんだ。家族とか、友達とか」
一拍、反応が遅れた。
「今はそれより、明日の水の補給を考えないと。次の集落まで、あと何里だったっけ」
サムフルは少しの間、私の顔を見ていた。それから「二里くらいかな」と答えて、水袋の残量を確かめ始めた。
会話は、そのまま別の話題に流れていった。
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別の夜、火が小さくなった頃、サムフルが空を見上げて言った。
「またこういう夜があってもいいな」
サマルカンドでアルダフシルにご馳走してもらった時と同じことを言った。声の調子も、いつもと変わらなかった。軽くて、それでいて、少しだけ長く尾を引くような響きがあった。
「うん」
それだけ答えて、私は服の上から、護符の位置を確かめた。冷たい石の感触が指先に触れる。それから刀の柄に触れ、鞘の角度を確かめた。就寝前のいつもの動作だった。
サムフルはそれ以上、何も言わなかった。焚き火の枝を一本、くべただけだった。
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十日ほど、その繰り返しが続いた。
夜は同じ宿か、同じ野営地で眠った。別々の場所で眠る日もあったが、距離はいつも近かった。朝の霜は日ごとに厚みを増し、吐く息が白く残る時間が長くなった。ザラフシャン川の水は、さらに細くなっていた。
十日目の朝、遠くの地平線に、靄のようなものが見え始めた。
「あれがブハラか」
サムフルが目を細めて言った。
「たぶん」
「あと一日ってとこかな」
「そうだね。明日には着けそう」
歩調を、少しだけ速めた。サムフルの足音が、後ろから同じ速さでついてきた。




