第8章5節
アルダフシルの荷を、まだ持っていた。
返すタイミングを計っていたわけではなかった。アルダフシルが自分の足で歩けるようになっても、体が動いている間は、そのまま持ち続けようと思った。
肩が痛み、骨がきしんでいた。でも、体は動いた。
西の斜面を降りながら、地面が少しずつ変わっていった。
稜線のすぐ下は、岩だけだった。足を置くたびに石の角が靴底に当たる、剥き出しの地形だった。それが五十歩、百歩と降りるうちに、岩の隙間に草が混じり始めた。丈の低い、地を這う草だ。茶色い岩の間に、緑の点が増えていく。何かの中間にいる感触があった。
匂いが変わった。
乾いた岩の匂いだけだったものに、何かが混じり始めた。湿気のある匂いだった。土の匂いと言えばいいのか——砂漠の匂いとも違う、もっと重い、生き物が混じった匂い。鼻が先に気づいて、体がそれをいっぱいに吸い込んでいた。
水の匂いもかすかに混じっていた。川はまだ見えない。でも、確かにあった。
アルダフシルが、隣を歩いていた。
呼吸が落ち着いていた。歩幅も、稜線の前より大きくなっていた。高度が下がるにつれて、体が戻ってきている——顔色が変わっていくのが、歩きながらでも確かめられた。
ある岩の段を降りたとき、アルダフシルが止まった。
私の肩の荷を見て、それから私の顔を見た。
何も言わなかった。手を伸ばしてきた。荷を受け取ろうとする動きだった。
渡した。
アルダフシルは荷を受け取って、自分の肩に戻した。重みを確かめるように少し揺らしてから、また歩き始めた。
肩が、急に軽くなった。軽さが、今まで重かったことを知らせてきた。
サムフルが振り返って、私の肩のあたりを見た。
「軽くなりました?」
「うん」
それだけの会話だった。でも、サムフルは小さく笑って、また前を向いた。
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しばらくして、衛が横に並んだ。
いつの間に来たのかわからなかった。足音が静かな男だった。しばらく並んで歩いた。傾斜が緩くなってきていた。遠くに、平らな地形の気配があった。
衛が言った。
「遠くまで来た」
感傷ではなかった。地形を見ながら言う言葉と、声の質が同じだった。
「ええ」
「あなたは、どこまで行く」
「サマルカンドの、その先まで。衛さんは、どこまで」
「サマルカンドまでと思っている」曖昧な答え方だった。「その先は、まだわからない」
また、しばらく並んで歩いた。それだけだった。
でも、距離感がわずかに変わった気がした。衛がこちらの行き先を聞いたのは、初めてだった。衛がどこから来たのかは、私はまだ知らなかった。でも、この道をサマルカンドに向かって歩いているという共通点があった。
それだけでいい、と思った。
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日が傾くころには、地面がまた変わっていた。丈の低い草に混じって、膝ほどの高さの灌木が増えていた。乾いた枝に、小さな葉がまばらについている。緑はまだ少ないが、確かに木と呼べるものだった。
夜営の場所は、風が遮られる地形の窪みだった。
サムフルが、乾いた草と、岩陰で拾った木の枝を組んで、火を熾した。周りの岩の面が橙に照らされた。
荷を下ろして、革鞄の留め具を確かめた。護符の位置を確かめた。刀の状態を確かめた。
イスマイルが荷を下ろす手を止めて、一度だけ隊全体を見渡した。一人ひとりの顔を確かめるような目だった。それだけで、また荷下ろしに戻った。
アルダフシルが岩に背を預けて茶を飲んでいる。衛が手ぬぐいで顔と首を拭いている。ガザンが馬を眺めている。サムフルが火に枝を投げ込んでいる。
アルダフシルが、こちらを見た。何か言いかけて、やめて、代わりに茶碗を差し出したので受け取った。
私は焚き火のそばに立った。
気づいたのは、少し後だった。輪の端ではなかった。
端より、数歩だけ内側に立っていた。意識してそうしたわけではなかった。誰かが場所を作ってくれたわけでもなかった。ただ、そこにいた。精絶を出た夜、孟頭領の焚き火の輪に入れなかった。笑いが遅れた。カシュガルを出た夜も、人の輪の端に立っていた。今夜は、その端より前にいた。
それが、自然なことのように思えた。
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火が落ち着いてきた。
薪が炭になりながら、小さく赤く光り続けている。岩の向こうに、星が出ていた。高地の星は近かった。砂漠でも星は近かったが、空の厚さが違う分だけ、ここの星はさらに近い気がする。
サマルカンドまで、まだ先は長い。
パミールを下りきって、草原地帯を越えて——その先に街がある。
服の内側で、護符が胸に当たっていた。
稜線の上では冷たかった。今は、少し温かい。師傅の指が彫った文様が、胸に当たっていた。
第8章 了




