第7章4節
五月の半ばを過ぎた頃、女将が帳簿の読み上げを終えた後に言った。
「あんた、筋がいい」
振り返ると、女将は帳面を閉じながらこちらを見ていた。
「この先もここで働く気はないか」
何と答えるべきかが、すぐに出てこなかった。
「……考えておきます」
女将は頷いて、帳面を棚に戻した。
部屋に戻って荷物を確かめた。革鞄の留め具を締め直した。刀の手入れをした。それらの動作をしながら、女将の言葉がまだ耳の中にあった。
この先もここで。
消えるのに、少し時間がかかった。
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翌日、市場でウリと短い言葉を交わした。
「カシュガルは住めば住むほど面白い都市だ」とウリが言った。荷の整理をしながら、半ば独り言のように。私へ向けているのかどうかも、定かではなかった。
「そうですか」
「ここに根を張った商人は、大体みんなそう言う。最初は通るつもりだったのに、気づいたら何年も経っていた、と」
私は相槌を打って、市場の奥へ向かった。
その夜、部屋の板張りの床に座って荷物の計算をしようとした。パミールを越える路銀がいくら要るか、今手元にいくらあるか——開いた帳面に数字を並べようとして、筆が止まった。しばらく帳面を見たまま、何も書かなかった。
閉じた。
ウリの言葉を思い出した。気づいたら何年も経っていたとは、こういうことかもしれない。
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ある夕方、市場の端で見かけた男がいた。
西方の顔立ちをした、六十がらみの商人ふうだったが、露店を構えているわけではなく、通りの隅に椅子を出して座っていた。行き交う人を眺めながら、何かを食べていた。顔見知りらしい商人が通りかかると立ち上がって短く言葉を交わし、また椅子に戻る。その繰り返しだった。
声をかけると、男は流暢な漢語で答えた。
「もう西へは戻らない。ここに落ち着いて二十年になる」
「故郷へは戻らないんですか」
「故郷より長くいるから、もうここが故郷だな」
男は干し杏を嚙みながら、穏やかな顔でそう言った。葛藤している様子がなかった。何かを諦めた顔でもなく、ただ、そこに収まっていた。
私は礼を言って立ち去った。
歩きながら、男の表情が頭の中でしばらく消えなかった。
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三日ほど、隊商の情報を集めに行かない日が続いた。
市場には出た。女将の通訳の仕事もこなした。でも、午後の自由な時間に「隊商を探しにいく」という足が、なぜか動かなかった。露店の間を歩いて、ウリと短い言葉を交わして、宿へ戻る。それだけで夕方になった。
三日目の夜、気づいた。
足が動かないのではなく、動かしていなかった。
それが何を意味するのか、言葉にしようとして、やめた。言葉にしてしまうと、別の問題になる気がしたから。
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月が変わった頃、パミール越えを試みて引き返した経験がある商人の話を聞いた。
その男は隊商の仲間と七月初旬に出発し、峠の手前で引き返したという。雪が深かったのではなかった。標高が上がるにつれて、頭が重くなった。峠の頂上に近い岩場で、頭痛とともに視界がぐらりと揺れた。一歩踏み出すごとに息が詰まって、足が上がらなくなった。仲間の一人が嘔吐して動けなくなり、そこで引き返すことにした。
「体力の問題じゃない」と男は言った。
私は黙って聞いていた。
砂漠は越えた。狼も、賊も、切り抜けた。于闐まで一人で来た。でも、あの峠の頂上で視界が揺れる——それはこれまでに旅の中で向き合ってきたものとは種類が違う。
でも私は、それが何だか知っている。
山岳部の顧問の言葉がよぎった。「進めば下るのか、戻れば下るのか。判断すべきはそれだけだ」
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五月の末、女将から初めて銭を渡された。
いつも通りの帳簿読み上げを終えた後、女将が無言で銭を台の上に置いた。
「約束通り」と女将は言った。「働きがいいから」
思い出した——最初の契約のとき、「働きが良ければ小遣い程度は足してあげる」と言っていた。あの言葉を、私はこのところ忘れていた。
「ありがとうございます」
女将は頷いて、奥へ戻った。
受け取った銭を巾着にしまいながら、頭の中でそろばんを弾いた。この調子が続けば、七月までにもう少し積み上げられる。パミールの路銀として、悪くない数字になるかもしれない。
無意識に数字を弾いてから、自分が数字を弾いたことに気づいた。
隊商をしばらく、探していなかった。でも路銀の計算はしている。どちらも「西へ越える」ための作業のはずだった。でも、路銀の計算は「まだここにいる」ことの延長で、隊商を探すことは「もうここを出る」ことの始まりだった。
その違いに気づいてから、部屋に戻った。
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その夜、練習を終えて荷物を片付けていたとき、護符を床に落とした。
拾い上げた。
掌の中で、ひんやりと重い。暗い部屋の中で、白玉の光沢が薄く燭台の光を含んでいた。
指で、表面の文様をなぞった。
師傅がこれを彫ったとき、どんな顔をしていただろう。あの左手の指で——不揃いに曲がったまま、まだ完全には戻りきっていなかったあの指でこれを持って、どれだけの時間をかけて。工房の奥の部屋で、私が仕入れや河原に出ている昼の間に。
阿青の声が、耳の中で戻ってきた。
「この先もし于闐に戻ることがあったら、また寄ってください」
戻ること、と言った。
阿青は知っていた——私が西へ行くことを。春先に出ると、最初の日、工房の小さな部屋に荷物を移したその日に言っていた。それでも阿青は「戻ること」と言った。
なぜそう言ったのか、あのときは考えなかった。
あれは「戻れ」ではなかった。「戻るならば」だった。——戻らない可能性を、阿青は最初から知っていた。師傅も知っていた。それでも彫った。この護符を渡した。
「行け」という意味で渡した。
「ここに留まれ」という意味では、ない。
掌の中の護符が、指の温度を少しずつ吸い始めた。冷たさが薄れていく。それを感じながら、胸の奥で何かが動いた。
動いたことに、気づいた。
于闐を出た日にも、同じ場所が動いた。あのとき自分で動いたことに驚いた。今夜も、同じ場所だった。
燭台の炎が、風もないのに小さく揺れた。
護符を懐に入れた。服の内側で、白玉の冷たさが胸に当たる。
翌朝、練習を終えてから市場へ出た。
女将の仕事が終わった午後、隊商の情報を持っていそうな商人に声をかけた。パミールを越えた経験のある頭領の名前を聞いた。




