第7章1節 カシュガル 246年4月 旅立ちから10ヶ月
工房の石を削る音が、もう聞こえない。
城門を出てしばらく歩いてから、そのことに気づいた。気づいたとき、足が半拍だけ遅くなった。振り返りかけて——やめた。
夕陽が、砂漠を橙に染めている。崑崙の峰だけがまだ白く、その白さが遠ざかるにつれてゆっくりと後退していく。空の一番高いところが紺色に変わり始めた頃、足が自然に速くなった。暗くなるにつれて体が前へ引かれる——このリズムは、今では考えてそうしているわけではない。体が知っている。
夜が来た。
北斗七星を頭上に確かめ、歩き始めた。荷の重心を左に寄せる。少し傾いた革鞄の留め具を左手の親指でなぞって位置を確かめる。砂の踏み込み方、風の向き、三十分ごとの確認——これらはもう「やること」の意識に上がらない。手が勝手に動き、足が勝手に判断している。楼蘭から米蘭を歩いたとき、精絶から于闐を隊商と渡ったとき、それぞれ積み上げたものは、数か月の滞在でも失われていない。
朝が来た。
岩陰に日除けの布を張り、外套を頭まで引き上げた。砂を掘らなくても、この季節この道ならそれで足りる。目を閉じると、すぐに落ちた。
目が覚めたとき、日はまだ高かった。風がぬるい。頰に当たっても痛くなかった。
少し迷って、また目を閉じた。
夜が来た。歩いた。
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ヤルカンドに着いたのは、出発から七日目の夜明けだった。
于闐より、ひと回り小ぶりな街だった。城壁は低く、市場の通りも短い。夜明けの時間に開いている宿を一軒見つけ、番をしていた男に銭を払って部屋を借りた。
夕方まで眠り、目が覚めてから市場へ出た。
補給は手際よく済んだ。露店の主人の目を見る——笑みが先に来るか、商品の方向を先に見るか。手が動く速さ。それだけ確かめれば、于闐の詐欺が体の中で教えてくれるものがある。問屋の往来を繰り返して積み上げたものが、こういう場所で静かに働く。干し肉と干し棗を予算内で揃え、水袋を満たした。
工房街がない。
そのことに、市場を歩きながら気づいた。玉を扱う露店はある。でも削る音がない。于闐では、工房が並ぶ通りを抜けるたびに、朝は高く澄み、昼は低く密度を上げ、夕方は一軒ずつ途切れていく音の変化を体が覚えていた。ここにはその音がない。
宿に戻って、飯を食べた。
夜、荷物の整理をしながら、護符を手に取った。
掌に乗せると、ひんやりと重い。暗い部屋の中でも、白玉が持つ光沢は薄く光を含んでいた。表面に浅く線が刻まれている。
師傅は、あの左手でこれを彫った。不揃いに曲がった指で、どれだけの時間をかけて。
指で文様をなぞった。
一度。二度。
三度目をなぞり終えたとき、自分が同じ動作を繰り返していることに気づいた。なぜ繰り返しているのかは、うまく言葉にならなかった。首にかけて、服の中に戻した。
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ヤルカンドを発って、また夜を歩いた。
道の様子が変わっていた。昼間、行き交っている人が増えた。駱駝を連れた商人、荷馬に荷を積んだ男たち、こちらへ向かってくる旅人——于闐の周辺より、明らかに往来が多い。
言葉が増えた。
行き交う人たちの声が、漢語だけでなくなっていく。胡語の速い響き、もっと西の——これまで聞いたことのない抑揚を持つ言語——それらが混じり合っていて、夜の道でも遠く声が届いてくる。于闐の市場でも胡人は多かった。でも、これとは違う。何かの中心が近い、という感触を、音から先に感じた。
出発のときは、天山の稜線が正面にあった。歩くにつれて、いつの間にか右手に移動していた。方角が変わった——確かに違う場所へ来たのだと、稜線の位置が教えていた。
朝になっても少し無理をして歩くと、音が、城壁をくぐるより先に届いた。
門がまだ見えないうちから、人の声と獣の声と何かを叩く音と、楽器の断続的な響きが——層を重ねるように前方から漏れてきた。于闐に入ったとき、「空気が変わった」と思った。今夜は、城壁の向こうへ届く前に、すでに空気が違っていた。于闐で感じたものとは桁が違う、という感触が、においと音の密度から来た。
城門が見えた。
門の厚さが、今まで見てきたどの城門とも違った。石が積み上げられた高い門楼が、まだ薄暗い空に黒く浮かんでいる。通行人が、この時間にすでに列を成していた。駱駝、荷馬、商人、旅人——門の手前で一時混雑している。
列に並んで、前へ進んだ。
胸の内側で、護符の冷たさが当たっている。
城壁をくぐった瞬間、音の壁の中に入った。




