第5章2節
且末を出たのは、夜半だった。
日が沈んでしばらく経った頃に宿を出たのだが、城門が閉まっていた。衛兵に話しかけると、夜間は開けないと言う。押し問答になりかけたとき、出入口の隅に小さな潜り戸があるのを見つけた。衛兵に銭を渡すと、黙って目を逸らした。そういうことらしかった。
城壁を抜けた瞬間、風が顔を叩いた。
雲が厚く、星が見えない夜だった。北斗七星を目印にするのが常だったが、月さえ雲に閉じ込められていて、しばらく城壁を背に立ち尽くした。目を細めて西の暗さを確かめる。風向きは変わっていない。足元の砂の傾きで方角を読めば、なんとかなる。
歩き始めた。
宿の商人の言葉が、まだ頭の中に残っていた。且末の西は狼が出る、昼に隊商を組め——正しいことを言っている。わかっていた。でも、隊商に加われば、隣に人の気配がある夜を歩くことになる。声、匂い、体温——それだけで、張り詰めていたものが少し緩む。緩んだ状態で何かが起きたとき、自分がどう動くか、もう知っている。その天秤を何度測り直しても、同じ答えしか出なかった。単独で夜を行く。ただそれだけだ。
二日目の夜明け前、砂丘の陰で体を埋めた。
掘っても、砂の底が熱をほとんど持っていない。楼蘭から米蘭を歩いたときは、昼に焼けた砂の余熱がまだ残っていた。十一月も半ばを過ぎた今は、砂に昼の記憶がない。体を横にして外套を引き上げ、口元まで砂をかぶせる。冷たい。それでも、風の外に入れば体温は保てる。
目を閉じた。
眠れなかった。
寒さのせいだけじゃないとわかっていた。且末の商人の話を聞いて以来、耳が休んでいない。砂の下に潜ってからも、音を拾おうとしている。風が唸るたびに、それが何かの声かどうかを確かめようとする。疲れているのに、耳だけが眠れずにいる。
しばらくそのまま横になっていた。眠りは来なかったが、体だけは休めた。
それで十分だ、と思うことにした。
三日目の夜は、最初から何かが違った。
野営地を出て五時間ほど経った頃、風向きが変わった。
右手側から、新しい冷気が流れてきた。砂漠の乾いた夜気ではない——もう少し、獣の匂いが混じっている。鼻がそれを拾った瞬間、足が自然に止まっていた。意識が言葉を作るより先に、脚が答えを出していた。
暗い。砂丘がいくつか重なり、その向こうが見えない。
じっと待った。
風がやんだ。
そのとき、聞こえた。
低い音だった。遠くもなく、近くもない——砂丘一つか二つ向こう。重なっている。一頭じゃない。
私はゆっくりと岩陰へ後退した。砂を踏む音を出さないよう足裏全体で地面を確かめながら。岩の影に背をつけ、息を浅くした。右手が刀の柄にかかる。左手が後ろへ回った。
砂丘の稜線に、影が現れた。低く、横に長い輪郭が三つ。雲の切れ間から月が一瞬だけ顔を出し、銀色の光が砂を走った。
三頭いた。
先頭の一頭が、こちらへ向いた。鼻が動いている。
私は息を止めた。
風はまだこちらに向かって吹いていない。でも、立ち止まっている時間が長くなるほど状況が変わる。先頭の一頭が砂丘を下り始めた。歩みが止まらない。後続の二頭が続く。
左手が銃を引き出した。
引っかかりはなかった。右手で刀を抜く動作と重なり、体が一つの流れで動いた。腰を落とし、岩の縁から半身だけ出す。赤い光点が砂の上に落ち、先頭の一頭の首の付け根を捉えた。
引き金を引いた。
「ピ」という音が、静寂を割った。
先頭の狼が、崩れた。
残りの二頭が一瞬固まり——それから砂を蹴って散った。音が遠ざかり、消えた。
私は岩の縁から出ず、銃を構えたまま立っていた。戻ってくるかもしれない。耳を研ぎ澄ませ、風の動きを確かめ続けた。何も来なかった。
銃を鞄に戻した。
体が震えていないことに、そのとき初めて気づいた。
タクラマカンの廃墟で引き金を引いたとき、手が止まらないほど震えた。今夜は、違った。怖かった——それは本当だ。でも怖さと体の動作の間に、あの夜にはなかった何かが挟まっていた気がする。薄い、でも確かな層のようなもの。それが何なのか、名前がわからなかった。
倒れた狼に近づいた。大きかった。冬毛に変わりかけていて、胸元が分厚い。目は開いたままだった。
食べられる。
感慨より先に、その考えが来た。干し肉だけではこの寒さで体が保たない——頭が計算を始めた。感情より先に、必要なことが動き出していた。
問題は、やり方がわからないことだった。
動物を解体するなど、一度もやったことがない。狩猟の知識は、山岳部の先輩が読んでいたサバイバル本を横から眺めた程度だ。腹から開くのか、脚から切るのか。どこからどう刃を入れればいいのか、見当もつかない。
腰の短刀を抜いた。
とにかく、食べられる部分だけ切り取ればいい。お腹の肉は傷みやすいと聞いた気がする。脚の付け根、背中、胸のあたり——そこが無難だろうか。刃を毛の間に差し込もうとするが、冬毛が厚くて滑る。力を入れると今度は深く入りすぎて、どこを切っているのかわからなくなる。何度もやり直した。
手が、ぬるくなった。
見ないようにしながら、それでも手を動かし続けた。腿の内側の肉を、なんとか切り離す。胸のあたりも少し。余分な布がなかったので手ぬぐいに包んだ——汚れたが、仕方ない。
作業を終えて立ち上がったとき、膝が少し笑っていた。
震えじゃない。ただ、長くしゃがんでいたせいで、膝が冷え切っていた。そういうことにした。
火を熾すのに手間取った。荷物の底に入れていた細い薪の束に火口を当て、外套で風を遮りながら息を吹きかける。小さな炎が立ち上がった。
肉を炙った。脂が少なく、硬い。それでも脂が滲んで焦げる匂いが鼻を刺したとき、胃が鳴った。
楼蘭で湯餅を食べたとき、味がしなかった。口の中で温かいものが転がるだけで、喉が詰まった。今夜は、焦げた肉の匂いがわかった。筋張った繊維の間から獣の脂が滲んだ。美味くはない。でも食べられる。
その違いが何なのかも、まだわからなかった。
夜明けが近づく頃、火を消した。残った肉を手ぬぐいに包んで荷物にしまい、焼け跡を砂で覆った。
狼の亡骸を一度だけ振り返った。
手を合わせようとして、やめた。何に向かって手を合わせるのか、言葉にならなかった。ただ、見た。それだけにした。
砂丘の向こうが白み始めている。体を埋める場所を探しながら、歩き始めた。




