第4章3節
刀を鞘に収め、空き地の土壁に背を預けた。腕の付け根がじんと熱い。肩が思ったより重く、素振りを繰り返すうちに知らず力が入っていたらしい。
刀は、確かに馴染んできている。腰の回転、踏み込みの角度——山岳部で鍛えた体幹がそのまま生きた。でも馴染むことと、戦えることは全然違う。お爺さんを守れなかったあの夜が、それをはっきり証明してしまった。
私はゆっくりと地面に腰を下ろし、膝を抱えた。
「……次に同じことが起きたら、どうする?」
声に出してみると、思ったよりも冷静な声だった。怖いのは怖い。でもあの廃墟の夜から何かが変わって、恐怖がパニックじゃなく、問いになるようになってきた気がする。
懐に手を滑り込ませる。指先に触れる、Safe Angel miniの白いボディ。軽い。あの夜、これを底から取り出すのに何秒かかったか。あの時の私は固まっていただけだけど、仮にすぐに取り出そうとしていたとして、荷物をかき分けて、震える手で安全装置を外して——その間に、やはりお爺さんは刺される。
私はゆっくりと銃を取り出し、手の中で眺めた。この時代でいえばオーパーツ以外の何物でもない。でも、万能じゃない。一つの戦いで撃てるのは最大十五発。砂漠の廃墟でパニックになって引き金を引きまくったとき、あっという間に「0」になった。油断していない相手が三人いれば、十五発でも足りないかもしれない。それに、銃を抜いて構えた瞬間、相手がひるんでくれる保証はない。見たこともない道具を突きつけられても、この時代の人間には何がなんだかわからないはずだ。きっと「なんだそれは」と首を傾げるか、あるいは構わず斬りかかってくる。
だから銃だけに頼るのは、そもそも間違いだ。
私は銃を懐に戻し、今度は腰の環首刀の柄に手をかけた。刀だけでも足りない。力も、経験も、まだ全然足りていない。じゃあ、両方使えばいい。
そのとき、あの夜のことが頭に戻ってきた。パニックで銃を乱射しながら、「シュッ」という音が鳴るたびに、体中の震えがひどくなっていったこと。トリガーに指がかかった瞬間、赤いレーザーサイトが自動で点灯したこと——あのときは恐怖で気づく余裕もなかったけど、反動がないこの銃なら、きちんと構えなくてもあの光点を当てれば狙える。利き手じゃなくても。
左手で銃、右手で刀。
私はゆっくりと立ち上がった。右手で刀を抜き、腰を落として正面に構える。同時に、左手で銃を引き気味に構える。刀で相手を牽制しながら、左手を敵に掴まれないように引いておく。距離があれば銃で片付ける。接近されたら刀で守りながら撃つ。銃で右手を撃たないように、左手の角度に気をつけること。
頭でなぞりながら、ゆっくり動いてみる。一回。二回。
「……あ、これ、いけるかも」
思わず声が漏れた。刀の重さと銃の軽さが、両手にちょうどいいバランスで収まる。右が守りで左が切り札——どちらかが使えなくなっても、もう片方が残る。
でも実際に試したわけじゃない。いざ相手が目の前に現れたとき、また体が固まるかもしれない。お爺さんのときみたいに、頭が真っ白になって動けなくなるかもしれない。
怖い。それは本当だ。
でも、怖いままでいるわけにはいかない。ローマまでの道は、まだまだ残っている。あの廃墟の夜みたいなことが、また必ず起きる。少なくともそう考えて備えるべきだ。そのとき、同じ後悔はしたくない。
私は何度も同じ動作を繰り返した。右手で刀を抜く、左手がイメージの中で銃を引き出す、腰を落として構える。繰り返すたびに動きが少しずつ滑らかになっていく。山岳部の顧問が言っていた——体に覚えさせろ、考えるより先に動くくらいまで。……あれは山道での足運びの話だっただろうか。
どれだけ繰り返しただろう。額に汗が滲んできた頃、私はようやく動きを止めた。
問題が一つ、残っている。
銃を、もっと素早く取り出せるようにしなければ。今は懐の奥に押し込んであるだけで、出すのに両手が要る。あの夜、遅さが命取りになりかけた。外套の下から、左手一本で、一瞬で引き出せる場所に固定する方法——何か、いいものを作れないだろうか。
革職人に頼めないだろうか。何だこれは、と追及されても困るから、実物を見せるわけにはいかないが、形と寸法さえ伝えられれば……。
頭の中で、革の鞄の形を想像し始めた。腰の後ろ、外套で隠れる位置。左手がスッと入り込んで、一動作で引き出せる角度。短刀も一緒に収められたら、もっといい。充電器も——あれはいつも銃と一緒にしておかないと意味がない。
「……明日、市場を見てみよう」
小さく呟いて、刀を鞘に収めた。
空き地の土が、足の裏に冷たく伝わってくる。遠くで驢馬の鳴き声がして、それきりまた静かになった。星は見えない。雲が出てきたのかもしれない。
私は立ったまま、暗い空をしばらく眺めた。
お爺さんが「強い子だ」と言ってくれた。あの言葉の意味が、砂漠を歩くたびに少しずつ変わっていく気がする。強さって、怖くないことじゃない。怖いまま、考えて、動き続けることなんだろうと、今はそう思う。
その答えが正しいかどうかは、わからない。でも、立ち止まっている暇はない。
私は旅籠に向かって歩き出した。




