第3章2節
砂に埋もれたまま目が覚めたとき、陽はすでに西に傾いていた。体中が熱を帯び、砂が肌に張り付いて離れない。唇がひび割れ、舌で触れるとぴりりと痛む。
「う……まだ、二日目なのに……」小さく呟いて上着を払い、荷物を背負い直す。日が沈み始めたら準備をして、夜の移動を再開する——それがこれからの鉄則だ。星空の下で再び歩き出す。
それから三日が過ぎ、五日目に入った。
砂漠の日常は、ただ単調で、ただ過酷だった。夜は北斗七星を頼りに黙々と歩き、朝が来れば休憩場所を探しながら進み、日が高くなる前に砂を掘って体を横たえる。昼は熱に焼かれ、夕方になってようやく目を覚まし、荷物を整えてまた夜の闇へ。繰り返し、繰り返し。
死人の骨——いや、獣の骨だと自分に言い聞かせる白い骨が、道標のように点在していた。最初は気味が悪くて目を逸らしていたのに、今では自然とその骨を探すようになっていた。「ここを通った誰かが、生きて戻れなかったんだ……」と思うと、背筋が冷たくなる。でも、足を止めるわけにはいかない。唇のひび割れは日に日に深くなり、笑顔を作ろうとすると皮が裂けるので、自分を励ますこともままならない。視界の端がぼやけ始め、遠くの砂丘が揺れて見える。
五日目の夕方、休憩から目を覚まして、水袋を確かめると、残りは思ったよりかなり少なかった。計算して飲んでいたつもりだったのに、多分蒸発もしているのだろう。底に少し溜まった水が、陽光にきらめいて見える。
「え……もう、こんなに……?」
もし砦に予定通り着けなかったら、もし道を少しでも外したら……命取りだ。
「もっと、計画的に飲まないと……」
胸の奥がざわつく。準備したはずなのに、こんな初歩的な失敗。敦煌で「一人で耐えられる」と無理に言い聞かせていた自分が、急に情けなく思えた。
荷物を整えて再び夜の移動を始めた。星空の下を必死に歩き続けていると、夜半過ぎ、遠くに橙色の光が揺れた。篝火だ。
「砦……!」
足を急がせ、光に向かって砂を蹴る。低く丸い土壁に囲まれた小さな要塞。門をくぐると、胡服を着た若い旅人二人が焚き火を囲んでいた。
兵士の一人が信じられないものでも見るような目で、水桶を差し出してくれた。
「嬢ちゃん……一人か? 一人で砂漠を越えてきたのか……?」
私は礼もそこそこに、桶に直接口をつけてがぶ飲みした。ぬるい井戸水が喉を滑り落ち、乾いた体に染み渡る。息を継ぐ間もなく、もう一度。唇のひびが染みるのに、それすら心地よかった。
安堵が胸に広がる。水を入れた水袋を一つ渡してくれながら兵士が言った。
「他の水袋は出発の直前に満杯にしてやる。まずは休め」
砦では夕方まで休ませてもらった。東屋の下で地面に布を敷き、胡服の若い旅人二人と雑魚寝をする。彼らは私とは逆に東へ向かうという。焚き火の残り火がぱちぱちと音を立て、砂漠の夜風が土壁を撫でる。私は二人と並んで横になり、荷物を枕代わりにして目を閉じた。
旅人たちの寝息がすぐそばで聞こえる。敦煌の旅籠以来の、誰かと一緒に居る安心感。砂漠の孤独が、少しだけ和らぐ。
やがて、眠りに落ちた。
夕方、何度目かの浅い眠りから目が覚めると、旅人たちはすでに起きていて、東への出発準備をしていた。私は荷物を整え、兵士に頼んで水袋を三つとも満杯にしてもらった。井戸水が、革袋の中で重く揺れる。
「ありがとうございます……本当に」私は深く頭を下げた。
安堵が胸に広がる。でも、水袋を背負い直した瞬間、その重さが背中全体にのしかかった。
「水が……重い……」
背中が軋む。さっきまでほとんど空だった袋が、今は満杯。荷物がまた増えた。二律背反——飲めなければ死ぬのに、飲むために背負う重さが体を蝕む。
「これでまた……荷物が増えた……」唇を噛む。兵士たちが心配そうに見送る中、旅人二人と一緒に門を出る。
彼らに「気をつけろよ、嬢ちゃん」と声をかけられ、「ええ、あなた達も」と応じて、それぞれの旅路を歩き出した。
補給の翌夜——今頃、十九歳の誕生日だったことを思い出した。
日付の感覚が曖昧で、正確にはわからない。でも、敦煌を出たのが九月の始めで、今日あたりが誕生日のはず……。夜の移動を終え、朝の休憩に入る前に、特別な保存食を取り出した。ちょっとだけお値段の張る上等の干し杏と、干し葡萄の小袋。砂地の岩陰で、砂の上に巾着袋を広げて並べる。
「へへ……お誕生日おめでとう、私」
一人で呟いて、干し杏を一口。甘酸っぱい味が、乾いた唇に染みる。
去年の十八歳の誕生日は、現代の家族や友人たちと一緒に過ごした。ケーキの甘いクリーム、ろうそくの炎、みんなの笑い声。山岳部でも、部室で大騒ぎしながら祝ってくれた。
「今年は……一人で干し果物か……」
声が震えた。目頭が熱くなり、涙が一筋、頰を伝う。すぐに手の甲で拭う。
「だめだよ、柚……昔と今の違いなんて考えちゃダメ……」
自分を叱咤する。でも、胸の奥がざわつく。
「一人でも旅を続けられる。耐えられる」——敦煌を出るときは、そう信じていたのに。毎日の灼熱と孤独が、少しずつ心を削っていく。
「葵さん……私、今頃十九歳になったよ……でもローマまでの道は、まだまだ遠いね……」
干し葡萄をもう一つ口に放り、ゆっくり噛む。甘さが、ほんの少しだけ心を温めた。




