03、出る杭は捨てられる。
はああ。めんどくさい。
なんだ。あれは。
ただただ教科書を読み上げているものを私達はノートに書き写す。もう別に合成音声に読ませればいいじゃないか。
色々と煩わしいことが多すぎる。私は机に突っ伏した。
もう既に床を無料でクリーニングしたことで、一日の体力の大半を消費したのだ。
突っ伏しているだけでも、どうせ精神的ストレスが溜まるんだと、もう帰ろうかと思い立った。席からも立った。
「どうしたんだあ。マキナ。別に先生立っていいとは言っていないぞ」
「先生」
「なんだ。マキナ。トイレか?先生はトイレじゃありませんとか言えばいいのか?」
「帰って良いですか」
パキッ。チョークの線と、堪忍袋の緒が切れた。
「なあ。マキナ。その口からその言葉が出たのはいつぶりだ?」
「昨日ぶりですかね?」
「そうだ。マキナは昨日もそう言って帰ったのだ」
「確かにそうですね」
「ではそう納得したなら、席に着きなさい」
「無理な話です。その話は昨日の私にしてください。おそらく納得してくれるでしょう」
「はあ。何を言っているんだ」
「今の私と、過去の私は違うものなんだ」
「それ、仕事で発注ミスした時も言うのか?」
「言いませんよ」
「はあ。意味が分からない」
教師は頭を抱えた。遂には別の生徒たちに助けて欲しいと目配せしているように見えた。
大体の人は目を逸らした。
「ねえ。あんな人の相手をするなんてねえ」
「先生もどうかしています」
「仕方ないでしょう。そうしなければいけないのです」
「私、教師になりたくなくなってきた」
「ほら言われてますよ」
「マキナが言われているんだよ」
はあ。溜息を吐いた。私と会話する際大体溜息を吐いているような気がする。
「もういい。マキナ。早退してもいいぞ」
「ありがとうございます」
感謝は忘れない。私はお辞儀をして、すぐ出て行った。
ふう。あれ。こうしたけれど、どうすればいいんだ?だるいという一心で飛び出したけれど、特にすることもない。
ただ、感情だけで、適当にし過ぎたから、後がない。
また、フィーリングに頼ろうか。
私は適当に歩いてみると、保健室の前を通った。本当に体調が悪いわけではないけれど、通ってしまった。
『あれー。マキナじゃん。また帰るのか?』とその中から声がした。
「まあ。そーなんだけれど。てか、委員長どうしんですか?」
『また委員長呼びですか。名前で呼んで欲しいけど』
「委員長は委員長でしょう」
『そう言われればこっぱづかしい気もするけれど』と言ってはにかんだ。
「はは。で、そんな委員長がなんで保健室に?体調でも悪いのですか?」
『いいや。特に悪いという訳でもないよ』と委員長が言えば、「私に言ったのは体調が悪いと言っていたと思うけれど」と保健室の先生はしかめっ面で言った。
『ははは。それは置いておいて……』
こんな態度は全く委員長らしくない。委員長らしくないから私と仲がいいのだろうね。
『ちょっとね。あの教室の雰囲気に耐えかねてここに来たのが本当の理由かもね』と達観した風なことを言った。ここは実に委員長らしかった。
「へえ。だから、早々に颯爽と教室を出て行ったから、掃除を手伝ってくれなかったんだよね……」
『いや……。いやあ。私も政治のあれこれがあるからね……』と必要もない二回ほど頷いて、寡黙になった。
「どうせどうでもいい人間関係だろう」
『マキナはすぐそう言うんだから』
「そうにしか思えないけれども」
『確かにちょっとは思うし、マキナを見下すのは許せないけれど、それでも大事な人間関係なの』
「そー」
『興味ないでしょ?』
「うん」
『ちゃんと頷いちゃうんだあ』
「私は正直だからね」
『梅桜桃李と言うけれど、マキナは完全に逸脱しているわ』
「出る杭は捨てられるって言いたいのですか」
『そうだろうね』
『でも私は捨てないつもりよ。貴方を』
「ほう。なら、委員長が捨てられるんじゃない?」
『それはあり得る話だね……。その時はちゃんと奢ったりして慰めてね』
「するかよ。そんなこと」と上の空で私はもう保健室から出て行こうとした。会話に飽きたからだ。
もともと帰ろうとしていたのに流れで引き留められていただけだったのだから。
そんな私に委員長は『まあ、死ぬなよ』とどう考えても的外れなことを投げかける。実に嘆かわしい。
「なんでそうなるんだ?」
『さあね』と委員長はふわっとオブラートに包んだ。
『さあ。行った。行った』と言って半ば強制的に追い出された。
何故か良く分からないという感情が渦巻きながら仕方がなく、帰路に就いた。
いや、待てよ。ちょっとこの疑問を解決するためだけに時間を使ってもいい。
と言うか、今日は何とも散々な一日だったのだ。何かあるに違いない。
「ああ。そうだ。あそこに行こうかな」と私は思った。
連想ゲームの如く思い至った。




