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我々は皆、どこかおかしい  作者: 春巻真希


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13/22

13、女の子からしてはいけない臭いしている

 私たちは店を出て、特に帰路が同じ方向でもなく、すぐにさよならを告げた。


「まあ。頑張ってください」


 なんて聞き飽きた労いの言葉と共に、メーデーは私なんか忘れ去ったかのように去って颯爽と去った。私は数秒間だけ、この見送りの姿勢を止めることが出来なかった。

 メーデーが見えなくなる所まできて、私は漸く胸をなで下ろした。


 駅に消えたのだろうか。まあ、この際どうでもいい。喫茶の前で道が分かれるのは都合が良かった。何処で別れるのか分からないこの煩わしさを背負って帰るなどしたくはないのだ。と、云うよりも十分と私は喫茶店で話しただけで心が随分と打ちひしがれたのだ。


 ああ。喫茶なんて選択肢いっそのこと選ぶのではなかった。ラーメンにすれば良かったのかも。でも、どこへ行ったとしてもメーデーは居そうだった。やるせなかった。

 そんなことだから、気が沈み過ぎて何もする気が起きなかった。

 家に帰って、すぐさま倒れ込んだ。


 布団の中。枕横。黄昏の赤い光から月光が差し込む頃まで、横たわってぼうっとしていた。

 ああ。目の前に広がるのは暗黒だった。希望もなさそうな、暗い雰囲気。でも、ただ見つめるだけ……、だから、拘泥されているような……。

 ん?あれ?光が差し込んできた。月光なんて美しいものではない。電脳的な、美しくない光。


「マキナさん。なにしてんだ?別にぼうっとスマホなんて眺めているわけでもないのに何をしているんだ?」


「い、いや……」と開くのも面倒な声を開く。

「こんなに暗くして……」なんて言いながら、電気を付ける。


「うわっ」


 眩しい。眩し過ぎて目が潰される。手で目を覆うことも面倒だった。


「何しているの?」と私の滑稽な有様を見て、改めて訊いた。


「なんにもないですよ。この通り」

「そう?でも、起きているなら、電気くらいはつけて欲しいわ」


「今から寝ようとしていたのですよ」と咄嗟に適当なことを吐いた。


「あ、確かにその線があったな」

「そう」


「けど、お風呂は入りなさいよ」と母親らしいことを一言言って、母親らしくない大量のポテチを持ってリビングに行った。


 どうせまたドラマでもなんでも見るのだろう。

 早くどっか行ってくれと。


「はいはい」と投げやりな口調でふて寝した。その姿を見たのかどうかは知らないが見せた。


 ふて寝することで、風呂に行かなくても寝落ちしたって言い訳を作れるからである。

 言わずもがな極悪なのである。

 でも、このまま寝てしまうのは正直言ってありである。しかし、寝れる気がしないのはどうしてだろう。

 この心にある何かが私を締め付けているからだろうか。


「まあ。いいや」


 目を瞑った。後のことは後で考えよう。後の祭りだ。

 私は疲れ切っていたのか、あっという間に眠りについた。

 途中、母親に怒られたような気がしたが……。まあどうせ夢の中である。

 もう悪魔のような夢は見たくない。


 ***


 夜が明けた。

 だから学校を休んだ。


 因果関係もあったものではない。まあ。皆良く使う理由があるだろう。なんとなくと。そんな粗末な理由でも理由があれば割かしどうでもいい。その程度の気力なんだよ。


 昨日の黄昏時と同じような体制で、それはもう、どこまでも適当に過ごした。

 寝るわけでもなくただぼおっと虚ろな眼で天井を眺めるほかなかった。

 天井の形が分からなくなるくらい。天井なんてあったっけ?どんどん感覚が崩壊して来たような……。もやりと蜃気楼のような感覚に襲われた。


 カチカチと鳴る運針が耳障りになった頃、そちらの方を見た。

 見れば昼だった。昼か……。


「ああ。そんな時間なのか」と一応はまだ堕落しきっていないことの証明になるかと思い、口に出して見るものの、それ以上は何かをするという訳でもなかった。


 このまま夕方になりそうな勢いだった。

 そんなところで、私を戒めるかのようなlineが一通入る。


 ああ。めんどくさい。正直だが、そう思う。スマホを持って、指紋認証して、lineを開いて、キーボードを出して、文字を打つ。スタンプでもいい。この工程の数に億劫せざるを得なかった。


 幾ら現代人だからと云ってそこまで、コミュニケーションに飢えていないし、スマホ中毒でもない。

 だから、だらけたまま、そのやる気が出るまで、待った。


 そしたら、朝になっていました。半日が経過していました。

 これを数回繰り返して、多分三日も経った。多分三日。さっきの通り時計なんてものに日付機能は付いていないので確認の仕様がなかった。


 さて、今日も前日に従い、その間睡眠にいそしんむのだろう。

 ああ。今、過ったのだが、入浴という行為をしていない。


 女子であるのに、これはあるまじき姿である。

 私から発せられた臭いはどうも想像ができないものになっていることだろう。こう思えば、怠いながらも行こうと思えた。


 まあ。これは納得するための文言である。

 母親に無理矢理、引っ張り出されて、浴場に放りだされたからである。ならば選択肢は一つしかないと。


 そのついでに私はスマホを見た。

 入浴する手間にスマホを触る工程を追加したところで四捨五入されるほどの哀れな工程数だ。

 lineの件数は結構あった。


「誰からだろう」と見るに、こんな大量のメッセージを送ってくる原因は主に二人だった。


 臥本と、川本さんと企業のあれだった。企業は勿論どうでもいい。


「あれ川本さんなんてline交換したっけ?」と思い、彼女のlineを開く。


 >今日学校来ていませんけど、大丈夫ですか?

 >二日来ていませんけれど、大丈夫ですか?

 >三日来ていませんけれど、大丈夫ですか?


 そんなメッセージが一日置きに来ていた。

 殆どbot。それに返信しても人間なんてどうなのかと云う疑問が生まれたので、既読してそのままだった。


 スルーではない。後で、返信するかもしれないし、しないかもしれない。そんな待ちの時間。

 次は臥本だ。臥本のメールの方が酷いくらいだった。


 >今日来てないの?

 >なんかした?熱?

 >今日も来てないけれど、夜逃げ?それとも逢瀬かい?

 >はははっ。もしかして、電波繋がっていないところに逃げているの?


 とかなどなど。

 こんなメッセージなんてあらぬ疑いが様々行われていた。弁解しないとまずいかも。


 >結婚おめでとう


 とか適当なこと書かれている。

 これは書かないと。と、キーボードを展開したところ、「あんた裸でスマホなんて触っているな」と母親が言って来た。


「い、いやあ」

「早く入りなさいよ。女の子からしてはいけない臭いしている」と鼻をつまんで言った。


 癪に障るなあと思いながらも、風呂に入る他選択肢はないだろう。仕方なく、私はドアを開けて、そのまま湯船に浸かった。シャンプーや、ましてやリンスなんてもので髪の毛を洗ったり、ボディソープで体を洗うことなんてしない。メンドイからだ。


「はあ……」と特に意味はないけれども天井を見つめて嘆息を吐いた。


「これ。やってること布団と変わらないなあ」とか思いながら。


 じゃあ。ちょっとは違うことをしようかと思ってシャンプーに手を伸ばしたけれど、そこまでだった。やる気はなかった。

 そのやる気のなさで、私はこの湯船に沈んで溺れてしまおうかと思った。溺れる者は藁をもつかむと云うけれどここでは摑むほど深さもない。なら……。


 いや。いや明日は学校でも行ってみようか。

 あの人たちに弁解をしないといけないだろう。

 気の進まないことだけれど、そうしよう。

 ちゃぷんと水の音がした。そんな水の音でさえ憂鬱の種になってしまうのはどうしてだろう。

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