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我々は皆、どこかおかしい  作者: 春巻真希


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10/22

10、みんなと違って、それは良いことだけれど、その度合いが行き過ぎたのですよ。それでは生きづらいでしょう?

 家に帰った。

 リビングのドアを開けた。母が居た。

 別に待ち構えていたわけでもなく、ただ出くわしたような感じでもない。

 ただいつものように見下げたものである。

 母はただのごく普通な一般専業主婦である。それをその母の有様をまじまじと眺めれば役職と言っていいのか怪しいものだ。


「マキナ。ねえ。貴方、行ってきた?」とテレビを観ながら適当に訊いてきた。本当に適当に訊いてきた。


 だらんとソファに寝っ転がって、ポテチを片手だった。

 専業主婦ではなく殆どニートであると分類した方が違和感が働かない。というか母は働いた方がいいのではないかと毒づいてしまう。

 ならば、訊いてることを誤魔化しても別に違和感がないのではないかと思った。


「ああ。あれね。あれはあれしてあれなった」


 くちゃっとポテチの袋が意図的に潰された。ああ。間違ったか?


「あれがあれしてあれなったですか。指示代名詞というのは予め名詞を言わなくてはなりませんよ?」

「いや……」


 いやあ。ごもっともなんだよ。ごもっともだから、躊躇してしまう。


「別に言い淀むようなこともないでしょう。何を言われたってアンタの性格的にはどうでもいいでしょう。現に私の話を一切合切耳に入れなかったのだからこんな……。いや何でもないわ」


 一つポテチを口の中に含んだ。


「まあ。兎に角話なさいよ。ドラマも丁度終わったのだから、少しは聞く余裕はあるわよ」

「そう」


 ドラマってそんなあっさり終わってしまうんだとか余計なことに頭を支配されながらも、そっちに惹かれないように必死に言うことを考える。


「あの……」

「なに」

「病院は行っていません」

「はあ?どうして行っていないの。ああ私の娘だからか。この一言で納得できてしまうほどに、そんなものなのか!!!」


 急に激昂する。その言葉選びは直接的な暴言を吐いている訳でもないのに、心の奥底を刺した。


「これは前提だから、まだ、何も話していません」と怒る母をどうにか沈着にさせる。

「じゃあ。早く聞かせなさい」


 急かす母に狼狽えながらも、私は拙い言葉の幾千語を捻り出す。


「あのえっと」と思ったがどうやって大学に行ったことを伝えるのかが良く分からなかった。そのまま病院へ行ったと言うのが得策だったのではないかと自分の選択肢を悔やんだ。


「まあ。私に知り合いの医師が居まして……」

「ほう」と訝しんだ顔をする母。しかし、この話を止めるに至らない。

「その医師が色々と診断してくださいまして……」

「その結果どうなんだ?」

「……」


 私は口を噤んでしまった。何故か言いたくはなかった。

 論理的な説明は困難であった。これは論理ではなくて感情であった。


「ん……?」と噤んだ私を訝しんだ目をする。今度こそ割って入りそうな雰囲気があった。


 それはまた応酬を繰り返せと言うのだろうか。そんな労力は持ち合わせていない。

 ここは折れるしかないと決意し、重い口を開いた。


「病気だと言われました……」


 重い雰囲気で言い放った。言いたくもない言葉を吐き出したのに、そこにいる怠惰な母は「ふふっ。ははは……」とそんな声を漏らした。


「なに」と怪訝な声をする。


「いや、何でもない……」と緩んだ口元を隠すことなく、否定した。


 癪に障るけれど、「はは」と誤魔化した。


 ん……?


「こんな判断をされたのだけれど、どうすりゃいいのかな……」


 これは判断されてから考えていたことだ。


「そもそも精神病とはなんだ?」と。


 良くも分からない区分でもある。明らかに悪いなんて感想でしかない。

 精神とはそういうものでしょうし。


「まあ。なんでもいいでしょそりゃ」と一蹴し「みんなと違って、それは良いことだけれど、その度合いが行き過ぎたのですよ。それでは生きづらいでしょう?」と一般論を並べた。


「た、確かに?」


 私は生きづらかったのか?

 別段取り立ててそのようなことはなかったはずだ。というか以前の自分というのは想像して生きてはない。

 どう考えたとて、なにも思うことはなかった。


「多分そうですよ。私がマキナさんならそう思いました。だから、病院を受診することを勧めたのですよ」


「はあ」


 それは確かに……。この真意はある意味で正解のようだ。


「親あってのことです」とほっとした表情を止めた。


「で、どうするんですか?もう一回受診だとか紹介状とか薦められたのですか?」と適当なことを訊いた。


「さあ?そこまでは言われていないような…。いやでも病院でも来てくれとも言っていたような……」

「そう。それでもいいから何とかしてもらって」

「はあ」


 嘆息を吐いた。もう私の話は聞いていないようだった。


 ポテチに手を突っ込み、脂ぎった手で、適当にスマホを弄りながらも、テレビに現を抜かしていた。

 取り敢えず話にひと段落は付いてたや否やそう興味が無くなるのは我が血族の特性なのだろうか。呪いでもあるのだろうか。


 まあ。実は私もこの話に興味はなくなった。

 ただ逃避したいだけなのかもしれないけれども。

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