第 ⼋ 章 ゾ エ ※ 後 年 の 回 想
チュイルリーでの⽇々を、私は時々夢に⾒ます。
シャルル殿下は元気な⽅でした。⾛り回るのが好きで、笑い声が⼤きくて、私の姿を⾒
ると「ゾエ!」と叫んで駆け寄ってきた。七歳の男の⼦で、王太⼦という重さをまだ理解し
ていなかった——いや、理解させてもらっていなかったのかもしれません。
私たちはよく庭で遊びました。
積み⽊が好きでした。どちらかというとシャルル殿下の⽅が好きで、私は付き合っていた、という⽅が正確かもしれません。彼は⾼く⾼く積もうとする。崩れると笑う。また積む。崩れてもまた積む、その繰り返しを、何時間でもやっていました。
アルマン様とも、時々遊びました。
アルマン様は、私たちより年上の、静かな⻘年でした。王妃陛下の「⼦」ということは知っていましたが、⼦どもの私にはその意味がよくわかっていなかった。王の⼦ではないの
に宮殿にいる。貴族でもないのに絹を着ている。そういう⼈物を、七歳の私はどう理解すればいいかわかりませんでした。
ただ、彼の⽬が好きでした。
⻘い⽬。澄んだ、⽔のような⽬。何かを深く考えているような⽬。あの⽬で⾒られると、⾃分が⼤切にされているような気持ちになりました。
アルマン様はシャルル殿下に優しかった。⾛り回るシャルル殿下を⽌めようとせず、ただ⾒守っていました。積み⽊が崩れると⼀緒に笑って、また積む⼿伝いをしていました。
でも時々、遠くを⾒る⽬をしていました。
私はその⽬の意味が、当時はわからなかった。今ならわかります。彼は宮殿の外を⾒ていたのでしょう。この美しい場所の向こうにある何かを。
⾰命が来たとき、私は⼗歳でした。
七⽉に何かが起きた、ということは、空気でわかりました。⼤⼈たちが慌ただしくなりました。⾛り回る⾜⾳。ひそひそ声。王妃陛下の顔から笑顔が消えました。
バスティーユが陥落した、と誰かが⾔いました。バスティーユが何なのか、私にはわかりませんでした。ただ、それが⼤変なことらしい、ということだけがわかりました。
シャルル殿下は「なにが起きたの」と訊きました。
誰も、⼦どもたちにはっきり答えてくれませんでした。
夜、王妃陛下が私の部屋に来てくださいました。いつものように⼿を握って、
「怖くないですよ」
とおっしゃいました。
でもその⼿が、少し震えていました。
あの温かい⼿が、震えていました。
私はそのことを、ずっと覚えています。温かさと震えが、同時に伝わってきた。あの夜の⼿のひらの感触が、今でも私の中にあります。
七⽉⼗四⽇から、世界は変わりました。
変わったのは世界だけでなく、宮殿の中の空気も変わりました。⼤⼈たちの表情が変わり、⾔葉が変わり、歩く速さが変わりました。
アルマン様の⽬も、変わっていきました。
遠くを⾒る⽬が、より強くなっていった。何かを決めようとしているような⽬に。




