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青い目の子どもたち ーーマリー・アントワネットと、⾰命の時代に⽣きた⼦らの物語  作者: はまゆう


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8/11

第 ⼋ 章 ゾ エ ※ 後 年 の 回 想

チュイルリーでの⽇々を、私は時々夢に⾒ます。

シャルル殿下は元気な⽅でした。⾛り回るのが好きで、笑い声が⼤きくて、私の姿を⾒

ると「ゾエ!」と叫んで駆け寄ってきた。七歳の男の⼦で、王太⼦という重さをまだ理解し

ていなかった——いや、理解させてもらっていなかったのかもしれません。

私たちはよく庭で遊びました。

積み⽊が好きでした。どちらかというとシャルル殿下の⽅が好きで、私は付き合っていた、という⽅が正確かもしれません。彼は⾼く⾼く積もうとする。崩れると笑う。また積む。崩れてもまた積む、その繰り返しを、何時間でもやっていました。

アルマン様とも、時々遊びました。

アルマン様は、私たちより年上の、静かな⻘年でした。王妃陛下の「⼦」ということは知っていましたが、⼦どもの私にはその意味がよくわかっていなかった。王の⼦ではないの

に宮殿にいる。貴族でもないのに絹を着ている。そういう⼈物を、七歳の私はどう理解すればいいかわかりませんでした。

ただ、彼の⽬が好きでした。

⻘い⽬。澄んだ、⽔のような⽬。何かを深く考えているような⽬。あの⽬で⾒られると、⾃分が⼤切にされているような気持ちになりました。

アルマン様はシャルル殿下に優しかった。⾛り回るシャルル殿下を⽌めようとせず、ただ⾒守っていました。積み⽊が崩れると⼀緒に笑って、また積む⼿伝いをしていました。

でも時々、遠くを⾒る⽬をしていました。

私はその⽬の意味が、当時はわからなかった。今ならわかります。彼は宮殿の外を⾒ていたのでしょう。この美しい場所の向こうにある何かを。

⾰命が来たとき、私は⼗歳でした。

七⽉に何かが起きた、ということは、空気でわかりました。⼤⼈たちが慌ただしくなりました。⾛り回る⾜⾳。ひそひそ声。王妃陛下の顔から笑顔が消えました。

バスティーユが陥落した、と誰かが⾔いました。バスティーユが何なのか、私にはわかりませんでした。ただ、それが⼤変なことらしい、ということだけがわかりました。

シャルル殿下は「なにが起きたの」と訊きました。

誰も、⼦どもたちにはっきり答えてくれませんでした。

夜、王妃陛下が私の部屋に来てくださいました。いつものように⼿を握って、

「怖くないですよ」

とおっしゃいました。

でもその⼿が、少し震えていました。

あの温かい⼿が、震えていました。

私はそのことを、ずっと覚えています。温かさと震えが、同時に伝わってきた。あの夜の⼿のひらの感触が、今でも私の中にあります。

七⽉⼗四⽇から、世界は変わりました。

変わったのは世界だけでなく、宮殿の中の空気も変わりました。⼤⼈たちの表情が変わり、⾔葉が変わり、歩く速さが変わりました。

アルマン様の⽬も、変わっていきました。

遠くを⾒る⽬が、より強くなっていった。何かを決めようとしているような⽬に。

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