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青い目の子どもたち ーーマリー・アントワネットと、⾰命の時代に⽣きた⼦らの物語  作者: はまゆう


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第 ⼆ 部 宮 廷 と い う 名 の 檻 第 六 章 ア ン ト ワ ネ ッ ト

ヴェルサイユで⽣きるということは、⾒られるということだ。

私は嫁いできた⽇からずっと、⾒られてきた。朝、⽬を覚ます瞬間から、夜、寝台に⼊る瞬間まで。宮廷の作法では、王妃が服を着ることさえ儀式だった。侍⼥たちが順番に各部位の⾐装を⼿渡し、着付けを⼿伝う。最も上位の貴婦⼈が最も重要な部分を担当する。シュミーズを⼿渡す権利をめぐって貴婦⼈たちが争う間、私は裸のまま⽴って待つ。

それが⼗六の頃から続いていた。

私は⾃分が⾒られることに慣れた。慣れることで、⾒られていることを忘れようとした。忘れきれないときは、逆に演じた。⾒られているなら、⾒られるように振る舞えばいい。そういう開き直りが、若い頃の私を動かしていた。

宴を開き、賭け事をし、夜会で踊った。

パリに出かけ、店を梯⼦し、帽⼦に⽻根を飾った。

⺠衆が私を「⾚字夫⼈」と呼び始めたのは、いつの頃からだったか。フランスが財政危機にある中で王妃が浪費している、という批判は、聞こえていた。聞こえていたが、どう答えればいいかわからなかった。節約すれば批判は静まるのか、そうとも限らなかった。どう振る舞っても、私の外国⼈としての出⾃と、⼦どもがなかなか産まれなかったことと、そして⼥王でなく「王妃」に過ぎないという⽴場は、変わらなかった。

そういう中でのアルマンだった。

彼は私の「息抜き」だったのか、と問われれば、そうだったかもしれないと答える。しかし「だけ」ではなかった。彼を⾒ているとき、私は純粋な感情を持てた。宮廷の計算や儀礼と無関係な、ただの温かさを。

アルマンが⼗五になった頃、私は彼に訊いたことがある。

「あなたは幸せですか」

彼はしばらく考えてから答えた。

「幸せがどういうものかわかりません」

「幸せがわからないの?」

「ここに来る前のことと、今のことを、どう⽐べればいいかわからない、ということです」

私はその答えを⻑い間考えた。

彼はまだ幼かったが、その答えには何か本質的なものがあった。幸せは⽐較で決まるのか、それとも絶対的な何かなのか。彼がどちらの問いを発しているのかも、わからなかった。おそらく彼⾃⾝も、わかっていなかったのだと思う。

その頃から、宮廷の雰囲気が変わり始めていた。

⼀七⼋五年。ダイヤモンドの⾸飾り事件が起きた。

詳細は省く。ただ私が知っているのは、私は何も知らなかった、ということだ。ロアン枢機卿が私の名前を使って詐欺を働いた。私は⾸飾りを⾒たことも触ったこともなかった。

しかし事件が世間に知れ渡ったとき、⼈々が信じたのは私の関与だった。

「王妃が嘘をついている」という声は、宮廷の外から聞こえてきた。

パンフレットが出回った。私を侮辱する内容の。読んだ者から聞いた内容は、胃が痛くなるほどひどかった。王妃は不貞を働いている、王妃は国を⾷い物にしている、王妃は⼈間ではない——

ランバル公妃が私の⼿を握ってくれた。「陛下は何も悪くありません」

わかっている、と私は思った。でも「わかっている」という事実が、現実を変える⼒を持たないことも、わかっていた。

アルマンにそのことを話したのは、彼が⼗六の頃だった。

なぜ彼に話したのか、今でも不思議に思う。彼はまだ⼦どもで、宮廷の政治とは無縁でいてよかったはずだった。しかし私は話した。おそらく、他に正直に話せる相⼿がいなかっ

たのだ。

アルマンは黙って聞いていた。

そして⾔った。

「マリーさまは、外の世界をご覧になったことがありますか」

「外とは?」

「宮殿の外のことです。パリの街のことです」

私は少し驚いた。

「サン=クルーには⾏きます。オペラ座にも」

「そういうことではなく」

と彼は⾔った。声に迷いがあった。何かを⾔いかけて、⾔うべきかどうか迷っている、そういう声だった。

「パリの路地のこと。市場のこと。そこで⽣きている⼈たちのことです」

私は答えられなかった。

その沈黙の中に、何かがあった。私たちの間の何か。それが何だったのか、そのときはうまく⾔えなかった。今なら少し⾔える気がする。それは、距離だった。アルマンと私のあいだに⽣まれ始めた、埋めようのない距離。彼は外の世界を知っていた。知ろうとしていた。私はその外の世界から、どこまでも遠いところにいた。

彼が私の⼦であることは変わらなかった。

しかしその頃から、「⼦」であることの意味が、少しずつ複雑になっていった。


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