第28話:ノックダウン式電動リヤカーの組み立て
中庭に据え付けられた工事用ハイパワーLED投光器が放つ純白の光によって、ヴァルハイト城の夜は一変していた。
二万ルーメンの眩い光は、数百年の歴史が堆積した石畳の隅々までを真昼のように照らし出し、夜の帳を完全に消し去っていた。松明の煙に目をしばたたかせることもなく、冷え切った暗闇に怯えることもない。夜間作業という文明のフロンティアを切り拓いたことで、崩れかけた城壁の補修や瓦礫の撤去作業は、目覚ましい勢いで前進していた。
――だが。
作業が進めば進むほど、現場には新たな、そして極めて過酷な「ボトルネック」が立ちはだかりつつあった。
「ぐっ……うおおおおっ……!!」
急傾斜の坂道で、副官ユーリが顔を真っ赤にして木製の手押し車を押していた。
車輪が軋み、悲鳴のような音を立てる。車上に積まれているのは、崩落した城壁から削り出された石材と、整地用の湿った土砂。重量にしておよそ六十キロ。
ぬかるんだ雪解けの坂道に木製車輪がズブリと埋まり、ユーリの踏ん張る足元がツルリと滑る。
「うわっ……!?」
「危ねえ、手を離すなッ!」
横から飛び込んできた鍛冶屋親方のダンが、丸太のような腕で手押し車のフレームを鷲掴みにして力任せに引き上げた。
ドスン、と泥の中に荷車が着地する。ユーリはその場に膝をつき、肩で激しく息を切らしていた。手袋越しにも分かるほど腕が小刻みに震え、腰を押さえて顔を歪めている。
「はぁ……はぁ……だ、ダン親方……すみません……」
「謝るな、ユーリ。……だが、こいつは骨が折れるなんてもんじゃねえな」
ダンは太い腕で顎の汗を拭い、険しい表情で斜面を見上げた。
中庭から城壁の上部、あるいは城下村へと続く資材運搬路は、険しい山肌を縫うような急坂の連続だった。
現代の建設現場であればダンプカーやクレーン、フォークリフトが数秒で運ぶ土砂や石材を、ここではすべて人間が人力で運んでいる。木製の一輪車、粗末な木枠の二輪荷車、あるいは背中に背負い籠を担いでのピストン輸送。
いくら騎士団や村の男たちが筋骨隆々であろうとも、六十キロから八十キロの土砂を積んだ荷車を押し引きして坂道を何十往復もすれば、膝と腰は瞬く間に悲鳴を上げる。
「一日に運べる土砂の量は、せいぜい荷車三十杯分が限界だ……」
ダンが忌々しげに拳を握りしめた。
「腕っぷしの強い若衆を総動員しても、城壁の基礎を埋め戻すだけで半月はかかる。……これ以上ペースを上げようとすりゃ、運搬班から腰を痛めて倒れる奴が続出するぞ」
その光景を、中庭の回廊から見つめていた神崎志乃は、手帳に挟んだボールペンをカチリと鳴らした。
「……物流の次は、土木現場のサプライチェーン麻痺ね」
隣には、心配そうに眉根を寄せるアシェルが立っていた。
「志乃……やはり、荷馬車を増やすべきだろうか? だが、この山道は馬にとっても足場が悪く、積雪で蹄を痛めてしまう危険が高い。それに、馬を養うための飼料の備蓄も、今の我が領にはほとんど残っていないんだ……」
「馬に頼る必要はないわ、アシェル様。馬は生き物よ。体調管理も必要だし、餌代というランニングコストが重くのしかかるわ」
志乃の脳内には、真っ先に現代日本の工事現場で活躍する「軽トラック」や「小型ダンプカー」の姿が浮かんでいた。
百億円の当せん金があれば、新車の軽トラックを現金一括で十台買い揃えることなど、造作もない。
だが――志乃はすぐに自らの思考を打ち消した。
(……無理ね。物理的な制約が立ち塞がっているわ)
志乃は自室のクローゼットの扉を思い描いた。
現代の自宅と異世界の城を繋ぐ、あの重厚な樫の木の扉。
枠の寸法は、幅約八十センチ、高さ約二百センチ。
日本の道路運送車両法における軽自動車の規格は、車幅約百四十八センチ、全高約二メートル弱。
どれほど小型の軽トラックであっても、完成車の状態ではあの幅八十センチの扉を物理的に通過することは絶対に不可能なのだ。
しかも、転移門には「自身が持てる範囲(台車・スーツケース等を含む)」という絶対的なルールが存在する。数トンの完成車両をそのまま持ち込むなど、世界の理に弾かれてしまう。
「……幅八十センチ。そして、私が台車で運べる重量限界……」
志乃は顎に指を添え、記憶の引き出しを猛烈な勢いでひっくり返した。
かつてブラック企業の経理時代、彼女が担当していたクライアントの中に、東南アジアや南米へ農業機械や小型建機を輸出している中小貿易商社があった。
現地の高い輸入関税を回避し、狭い輸送コンテナの容積効率を極限まで高めるために、彼らが採用していた古典的かつ究極の手法。
「……閃いたわ」
志乃の眼鏡の奥で、黒い瞳がキラリと光った。
「アシェル様、ダンさん、そしてルカ君!」
志乃は振り返り、工房の隅でテスターをいじっていた少年技師を手招きした。
「現場の土砂運搬を、一気に十倍速にする『秘密兵器』を調達してくるわ。……三時間ほど待っていてちょうだい!」
*
現代日本の自宅ガレージ。
電動シャッターを下ろし、作業着の袖をまくった志乃は、スマートフォンの画面をタップし、昨日ネット通販とプロ向け農機具ショップへ事前発注しておいた「大型荷物」の受領確認を行っていた。
ガレージのコンクリート床の上に鎮座していたのは、大型の段ボール箱が四つ。
「ふふっ……これよ、これ! 製造業の基本――『ノックダウン方式(CKD:完全現地組み立て)』よ!」
志乃が手配したのは、日本の果樹園や急傾斜地の農家、そして狭小地の解体現場で絶大な信頼を集めるプロ用機器――『電動アシスト運搬台車(電動三輪リヤカー)』の組み立てキットだった。
完成品の状態であれば、全長百六十センチ、全幅七十五センチ、総重量約五十キロの立派な電動ビークルだ。
だが、このキットは最初から「ノックダウン(分解状態)」で出荷されている。
志乃は段ボールを開封し、パーツごとに重量を測定した。
第一の箱:頑丈な高張力鋼管(ハイテン鋼)で作られたパイプフレームと、荷台のメッシュパネル。重量、約十二キロ。
第二の箱:前輪の駆動アクスル。内部に高効率ブラシレスDCモーターが組み込まれた、極太のノーパンクブロックタイヤ付きホイール。これがキットの中で最も重い「最重量パーツ」だが、それでも重量は正確に「十四・二キロ」。
第三の箱:後輪のキャスター二輪、操舵ハンドルバー、スロットルレバー、および電磁ブレーキ内蔵の制御コントローラーユニット。重量、約九キロ。
第四の箱:着脱式の大容量リチウムイオンバッテリーパック(48V/15Ah)二個と、急速充電器。重量、約八キロ。
「すべてのパーツが、単体で十五キロ以下……! 『自身が持てる範囲』のルールを完全にクリアしているわ!」
志乃は愛用の階段昇降式アルミキャリーカートを引き寄せた。
一度に運ぶのは、パーツ二箱分――約二十キロから二十五キロ。
これなら、小柄な志乃でも腰に負担をかけることなく、余裕を持ってクローゼットの扉を通過できる。
さらに、志乃は工具箱から、現代日本のプロ用工具セットを引っ張り出した。
KTC(京都機械工具)とTONEのラチェットハンドル、早回し用のクイックスピンナ、エクステンションバー、六角ソケットのフルセット(8mm〜19mm)、コンビネーションレンチ、六角棒レンチ、ネジロック剤、そして防錆潤滑スプレー(クレ5−56)。
「待たせたわね、ダンさん、ルカ君。……現代のサプライチェーンと精密工具の凄まじさを、骨の髄まで味わわせてあげるわ!」
志乃はカートにパーツと工具を積み込み、クローゼットを三往復。
わずか一時間足らずで、すべてのパーツと工具をヴァルハイト城の中庭へと運び終えたのだった。
*
中庭の鍛冶工房の前。
ハイパワーLED投光器の純白の光の下に広げられたブルーシートの上に、黒い塗装が施された異形の金属フレーム、極太のゴムタイヤ、そして配線の束が整然と並べられていた。
「な……なんだい、このバラバラの鉄パイプの山は……?」
鍛冶屋のダンが、腕組みをしながら目を丸くしていた。
その隣では、ルカが這いつくばるようにして、前輪のタイヤホイールに顔を近づけていた。
「……ホイールのハブの中に……金属のコイルが見える……。魔石じゃない……テスターで計測したあの『直流雷素』で動く、小型の回転動力機かい……!?」
「その通りよ、ルカ君!」
志乃が作業用手袋を嵌めながら、二人の前へ進み出た。
「これはね、私の世界で使われている『電動アシスト運搬台車』のキットよ。……完成車は扉を通らないから、バラバラのパーツの状態で持ち込んだの。今から、ダンさんとルカ君、二人の手でこれを組み立ててもらいます!」
「なっ……俺たちが組み立てるってのか!?」
ダンが驚愕の声を上げた。
「こんな見たこともねえ異国の機械を、鍛冶屋の俺が組み立てられるわけねえだろ! どこをどう叩いて繋ぎ合わせりゃいいんだ!?」
「叩く必要なんて、これっぽっちもないわよ、ダンさん」
志乃はクスリと笑い、足元に置いたスチール製の赤いツールチェストのフタをパチンと跳ね上げた。
――カラン、チャリン。
工具箱の中から現れたのは、鏡のようにピカピカに磨き上げられたクロムメッキの工具の群れだった。
「ダンさん、これを使って」
志乃が手渡したのは、梨地の滑り止めが施された美しい曲線を描くハンドル――KTCの『ラチェットレンチ(三/八インチ角)』だった。
「な……なんだ、この銀の棒は……? ミスリル……いや、銀の工芸品か……?」
ダンがおずおずと受け取った。
鍛冶屋の無骨でタコだらけの掌に、吸い付くように馴染む完璧なエルゴノミクスデザイン。
志乃は先端に十四ミリの六角ソケットをカチリと装着すると、ダンの指を持っていき、空中で軽く回転させてみせた。
チチチチチチチッ……。
静かな中庭に、信じられないほど繊細で、小気味よいラチェットのギア音が響いた。
三十六枚ギアの細やかな送り角。
「な…………っ!?」
ダンの太い眉が跳ね上がった。
「逆方向には回るのに……反対へ回すと、ガチッとロックして力が逃げねえ……!? なんだこの仕掛けは!? 工具の中に、こんな極小の爪と歯車が組み込まれてるのか!?」
「そうよ。ネジを締める時に、いちいちレンチをボルトから外してハメ直す必要がないの。手首を左右に往復させるだけで、連続してボルトを締め込めるのよ」
さらに、志乃はパーツの小袋から、一本のM10サイズのスチール製ボルトとナットを取り出してダンに手渡した。
「フレームの結合穴に、このボルトを差し込んで、指で回してみて」
ダンは眉をひそめながら、黒いパイプフレームの穴にボルトを通し、反対側からナットをあてがった。
中世の鍛冶仕事において、ネジ留めといえば悪夢の同義語だった。
一本一本を手作業で削り出すため、ネジ山のピッチは不揃いで、砂粒一つ噛めば動かなくなり、ハンマーで叩き込みながら無理やりねじ込むのが当たり前。途中でネジ山が潰れて使い物にならなくなることもしょっちゅうだった。
ダンは身構えながら、指先でナットを恐る恐る回した。
――スルスルスルッ……。
「…………は?」
ダンの口から、間の抜けた声が漏れた。
抵抗がない。
引っかかりが一切ない。
力を入れたわけでもないのに、ナットはまるで滑らかな油の上を滑るように、指先で弾くだけでクルクルと回転し、フレームの座面まで一瞬で吸い込まれていった。
「な……なんだ、このネジ山は……!?」
ダンはボルトを取り出し、投光器の光にかざして目を剥いた。
冷間圧延によって成形された、ミクロン単位の誤差もない完璧なネジ山。
バリ一つない。
歪みも、削り粉の付着も一切ない。
「狂いが……一切ねえ……! 叩かなくても、指先一つで回るぞ……! どんな神業の鍛冶師が叩いたんだ!? 王都の国宝級の甲冑に使われるネジだって、こんな狂気じみた精度は出せねえぞ!!」
ダンの職人魂が、火山の噴火のように激しく燃え上がった。
「おい、小娘……いや、志乃様! 設計図を見せてくれ! どこをどう締めりゃいいんだ!? 俺が……俺がこの手で組み上げてやる!!」
「頼もしいわね、ダンさん! 図面はこれよ!」
志乃が広げた日本語の組み立て説明書を見ながら、現場は熱狂のるつぼと化した。
カチカチカチッ! カチカチカチッ!
ダンの怪力によって振るわれるラチェットレンチの快音。
高張力鋼のパイプフレームが次々とボルトで強固に結合され、無骨で頑丈な三輪のシャーシが組み上がっていく。
一方、電気配線と制御ユニットの担当は、天才技師ルカだった。
「……すごいな、このコネクター配線……」
ルカはピンセットとテスターを駆使し、樹脂製の防滴カプラーをパチン、パチンと接続していった。
「プラスとマイナスを逆に挿せないように、コネクターの形状が非対称に作られている……! 素人が組み立てても、絶対に配線ミスが起きない設計だ……! それに、このスロットルレバー……ホール素子による非接触の磁気検知か……! 摩耗による故障を徹底的に排除している……!!」
ルカの灰色の瞳が、知覚の過剰摂取で爛々と輝いていた。
現代の日本の産業機器が積み重ねてきた「フェイルセーフ(安全設計)」と「ポカヨケ(誤配線防止)」の粋。中世の天才にとって、その設計思想のすべてが、目から鱗が落ちるような至高の教科書だった。
作業開始から、わずか二時間後。
――ガチリ。
志乃の手によって、荷台の側面に大容量リチウムイオンバッテリーがスライド装填され、キーシリンダーがカチリと回された。
ピピッ。
ハンドル中央のインジケーターに、緑色のバッテリー残量ランプが鮮やかに点灯した。
「……完成よ!」
志乃が胸を張った。
中庭に堂々と立ち塞がっていたのは、艶消しブラックのフレームに身を包んだ、精悍な『電動アシスト運搬台車』だった。
前輪にはブロックパターンの極太駆動輪。後輪には三輪構造を支える頑強な自在キャスター。
広々としたパイプフレームの荷台は、最大積載量「二百キログラム」を誇る。
「……できた……本当に組み上がっちまった……」
ダンが自らのオイルまみれの手を見つめ、呆然と呟いた。
アシェルやラインハルト、そして集まってきた領民たち数十名が、息を呑んで異形の鉄の乗り物を取り囲んでいた。
「だが……志乃様」
ダンが腕を組み、心配そうに首を傾げた。
「見た目は頑丈そうだがよ……本当にこんな鉄の塊で、あのぬかるんだ急坂を登れるのかい? 馬力のない人間が押したら、自重の重さで坂を転がり落ちちまうんじゃねえか?」
「百聞は一見に如かずよ」
志乃は不敵に笑うと、近くにいた騎士たちに指示を出した。
「ユーリ、ラインハルト! その辺に転がっている土嚢と石材を、この荷台に限界まで積み上げなさい!」
「ハッ!」
騎士たちが大急ぎで土砂袋と石材を運び込み、荷台の上へ積み上げていく。
一個二十キロの土嚢が十個。
合計重量、正確に「二百キログラム」。
大人の男三人が乗っているのと同じ重量だ。サスペンションがギシリと沈み込み、見るからに重厚な重量感が荷台を支配する。
「おいおい、積みすぎだ! こんな重さ、屈強な男が四人がかりでもビクとも動かねえぞ!」
ダンが慌てて制止しようとした。
だが――志乃は涼しい顔で、操舵ハンドルのグリップを握り締めた。
小柄な二十八歳の女性。腕力など、中世の農婦の半分にも満たない。
「ダンさん、見ててね」
志乃は右手の親指を、グリップの根元にある小さなレバー――アクセルスロットルへと添えた。
そして。
指先を、わずか数ミリ、クイと手前に押し込んだ。
――ウィィィィィィン……。
耳を澄まさなければ聞こえないほど静かな、極めて滑らかなモーターの回転音が響いた。
次の瞬間。
グンッ!
二百キロの土砂を積んだ鉄の巨体が――何の前触れもなく、まるで羽毛のように軽快に、スルスルと前進を開始した。
「――――なっ!?」
ダンの顎が外れそうになった。
アシェルが息を呑み、ラインハルトが目を丸くする。
志乃は力を込めて押してなどいなかった。
ただ、ハンドルに両手を添えて、普通に歩いているだけだった。
極太のブロックタイヤが、泥濘んだ地面を力強く鷲掴みにして回転する。
そして――志乃はそのまま、ユーリが先ほど立ち往生していた、あの「最大斜度十五度の急坂」へと台車を突入させた。
「あ、危ねえ! 坂だぞ! 押し戻される――」
ダンの悲鳴を嘲笑うかのように。
志乃がスロットルレバーをさらに深く押し込むと――。
キュルッ、ウィィィィィンッ!!
前輪のブラシレスモーターが強烈なトルクを発生させ、二百キロの土砂を載せた台車は、スピードを落とすことすらなく、急な登り坂をグングンと登り始めたのだ。
志乃の歩行速度は変わらない。息一つ乱れていない。
指先一つの操作で、小柄な女性が、二百キロの重量物を引き連れて急坂をスイスイと散歩のように駆け上がっていく。
「…………っっっ!!!!」
静寂ののち。
中庭に、割れんばかりの地鳴りのような大歓声が爆発した。
「登った……! 坂を登っていきやがる!!」
「嘘だろ!? 男四人でも動かねえ二百キロの土砂が、志乃様の指先一つで……!?」
「馬がいらねえ! 鞭で叩かなくても、静かに坂を登りきったぞ!!」
「うおおおおおおっ! 神の荷車だ!! 奇跡の台車だああああっ!!」
ダンが頭を抱えて叫び、ユーリが涙を流して飛び跳ね、騎士たちと領民たちが抱き合って歓喜の咆哮を上げた。
坂の上でクルリと旋回し、ブレーキをかけて台車を停止させた志乃は、満足そうに額の汗を拭った。
下から駆け上がってきたルカが、台車の前輪にすがりつき、興奮で息を荒らげながら叫んだ。
「志乃さん……! すごい……すごいよ! これなら……これなら一人で、一日に十倍……いや、二十倍の土砂を運べる! 城壁の修復も、村の整地も、数日で終わらせられるよ!!」
「そうね。運搬効率十倍。腰痛による労働災害のリスクもゼロよ」
志乃は悪戯っぽく微笑み、駆け寄ってきたアシェルを見つめた。
アシェルは白銀の髪を揺らし、その深い碧眼を潤ませながら、志乃の手をそっと包み込んだ。
「志乃……君は本当に、私たちの常識を……何百年もの苦痛を、たった半日で塗り替えてしまうんだね。……君の知恵と力に、私はどれほど感謝すればいいのか分からないよ」
「感謝なら、これからの領地経営の実績で返してちょうだい、アシェル様」
志乃が笑いかけると、背後からラインハルトが誇らしげに進み出て、胸を張った。
「見たか、ダン! これが志乃様の智謀だ!」
「へへっ……完敗だぜ、団長!」
ダンが破顔し、志乃に向かって深々と頭を下げた。
「志乃様! この電動荷車……いや、『志乃様号』があれば、城壁なんざ三日で元通りにして見せるぜ! 俺にどんどん仕事を言いつけてくれ!!」
ノックダウン方式による、現代テクノロジーの現地組み立て。
クローゼットの通過制限という物理法則の壁を、知恵とサプライチェーンの力で見事に打ち破った瞬間だった。
土木インフラの輸送革命を成し遂げたヴァルハイト領は、次なるステップ――ルカによる「現地生産型・魔導省エネランプ」の開発、そして春の農業改革へと、加速度的に突き進んでいくのだった。




