第27話:ポータブル電源とLED投光器
冬の太陽はつるべ落としに沈み、午後四時半を回る頃には、ヴァルハイト領の空は鉛色の夕闇から漆黒の帳へと急速に塗り潰されていった。
大魔雪嵐が去り、雪解けが始まったとはいえ、山脈の谷間に位置するこの領地の夜は、現代人の想像を絶するほどに過酷で、深く、重かった。
城壁の外、城下の村から聞こえていた槌音や人々の声が、日没とともにピタリと途絶える。
家々の窓から漏れる明かりは、煤けた粗悪な獣脂ランプの頼りない揺らめきか、暖炉の残り火の赤いくすぶり程度。一歩外に出れば、そこは街灯一つない完全なる暗黒の世界だった。自らの足元はおろか、伸ばした手の平の輪郭すら判別できない闇が、村も、森も、山肌も、すべてを一呑みに飲み込んでしまうのだ。
「……くそっ、もう手元が見えねえ! 今日の作業はここまでだ、道具を仕舞え!」
城内の中庭で、崩れかけた回廊の石柱を修復していた鍛冶屋親方のダンが、太い腕で額の汗を拭いながら悪態をついた。
ダンをはじめとする村の職人や若者たち、そしてラインハルト率いる騎士団は、大魔雪嵐で傷んだ城壁と居住区の突貫修復作業に当たっていた。避難所として命を救われた領民たちの士気は極めて高く、少しでも早く城を強固に立て直そうと誰もが血眼で働いていた。
だが――日没という絶対的なタイムリミットが、彼らの前に分厚い壁となって立ちはだかっていた。
「ダン親方、松明を増やそうか?」
副官のユーリが、油を染み込ませた木切れを掲げて駆け寄ってくる。
「駄目だ、ユーリ! 松明の煤煙で目が痛くて細かな刻み仕事ができねえし、風が吹けば火の粉が散って木材に燃え移る危険がある! それに……何本灯したところで、足元から二歩先は真っ暗闇だ。こんな薄暗がりでタガネを叩いてみろ、自分の親指をへし折るのがオチだぜ」
ダンは忌々しげにハンマーを地面に置いた。
中世の夜の暗闇。それは単に「視界が悪い」という不便さを超えた、文明の活動を完全に停止させる絶対的な枷だった。
日照時間の短い冬場において、実質的な作業可能時間は一日にわずか六、七時間。一日の三分の二以上を、人間は暗闇の中でただ身を潜めて過ごすしかない。
さらに深刻なのは、防犯と治安維持だった。
暗闇は、飢えた魔獣や近隣領からの密偵にとって最高の隠れ蓑となる。城門の監視塔に立つ騎士たちは、いつ闇の中から矢が飛んでくるか、いつ暗殺者が城壁を越えてくるか分からぬ恐怖に神経をすり減らし、夜通しの見張りに疲弊しきっていた。
「……夜の作業効率がゼロ、か」
中庭を見下ろす回廊のテラスで、腕を組みながらその光景を眺めていた神崎志乃が、小さく呟いた。
隣には、領主の正装をまとったアシェルと、客室で休息を取って体力を回復させたルカが並んでいた。
「もどかしいね」
アシェルが深い碧眼を曇らせ、憂いを帯びた声で吐息を漏らす。
「皆のやる気は満ち溢れているというのに、太陽が沈めば何もできない。城壁の崩落箇所を放置すれば、夜間に野盗や魔獣が侵入する隙を与えることになる。だが、松明を灯して夜間作業を強行させれば、怪我人が続出する……。昔から、冬の夜はただじっと耐えて祈るしかない時間だったんだ」
「学会の工房もそうだったよ」
ルカが白衣のポケットに両手を突っ込み、ダウナーな口調で肩をすくめた。
「高位貴族の研究室には高価な『常光の魔石』が配分されるけれど、僕たち平民技師の作業場には油ランプが一個きり。煤で肺をやられて喀血するか、暗がりで精密な歯車を落として失くすのが日常茶飯事だった。夜の闇を制圧できない限り、どんな技術開発もスピードは半分以下に落ちるのさ」
「……そうね。納期遅延の最大のボトルネックが『日照不足』なんて、現代のプロジェクト管理(工程表)からすれば論外だわ」
志乃の眼鏡の奥で、黒い瞳がスッと細められた。
「明かりが足りないなら、昼間を作ればいいのよ」
「……え?」
アシェルとルカが同時に目を瞬かせた。
「志乃……今、何て言ったんだい? 昼間を作る……?」
「言葉通りの意味よ。ちょっと現代へ行って、工事現場用の『本物の照明』を仕入れてくるわ。……アシェル様、ルカ君。中庭の広場を片付けて待っていて。三十分で戻るから」
*
クローゼットの樫の木の扉をくぐり、現代日本の自宅ガレージへと帰還した志乃は、迷いなくスチールラックの最下段へと向かった。
そこには、昨夜の買い出しツアーの際に、念のためにとホームセンターのプロ向け防災・工事用品コーナーで手配しておいた大型資材が鎮座していた。
「自力運搬ルールの確認……重量制限、クリアね」
志乃が手元に引き寄せたのは、黒とダークグレーの頑丈な強化樹脂ボディを持つ、巨大な直方体の機械だった。
アウトドアや災害時の非常用電源として近年急速に普及している、最新鋭のポータブル電源――『リン酸鉄リチウムイオン大容量ポータブル電源(容量二〇四八Wh/定格出力二〇〇〇W)』。
従来の三元系リチウムイオンと異なり、発火や熱暴走のリスクが極めて低く、三千回以上の充放電サイクルに耐える極めて安全性の高いプロ用モデルだ。
その重量は、正確に「二十一キログラム」。
成人女性が両手で抱え上げて長距離を歩くには骨が折れる重さだが、愛用の『階段昇降式アルミキャリーカート』にベルトで固縛すれば、一人で軽々と転がして運べる重量設定にきっちり収まっている。
さらに、志乃がカートの上段に括り付けたのは、二つの長尺ケースだった。
一つは、伸縮式の頑丈なスチール製三脚スタンド。最大高さ二・五メートルまで伸びる、現場用の頑強な脚だ。
そしてもう一つは、無骨なアルミダイキャストの放熱フィンに守られた、角型の大型照明器具――『建築現場用ハイパワーLED投光器(二万ルーメン/消費電力百五十ワット)』。
家庭用の六十ワット白熱電球の明るさが約八百ルーメン。
二万ルーメンという数値は、その電球の実に二十五倍以上。野球場のナイター照明や高速道路の夜間緊急工事で使われる、夜の闇を物理的に焼き切るための「光の暴力」そのものだった。
投光器と三脚を合わせても、重量は約七キロ。
ポータブル電源と合わせ、総重量二十八キログラム。
「重心よし、タイヤの空気圧よし。……行くわよ!」
志乃はカートのハンドルを握り、クローゼットの扉を開け放った。
ガラガラガラ……コトン。
城の隠し部屋を抜け、薄暗い廊下へとカートを押し出した瞬間――待ち構えていた影が疾風のように駆け寄ってきた。
「志乃様ッ!!」
ラインハルトだった。
大剣を背負った忠犬騎士は、志乃が重いカートを押している姿を見るや否や、悲鳴のような声を上げて駆け寄り、両手でカートのフレームをガッシリと受け止めた。
「いけません、志乃様! このような重たい鉄の塊を、貴女の細い御手で運ばれるなど……! 私が、私が全て運びます!」
「ありがとう、ラインハルト。中庭の中央までお願いできるかしら?」
「ハッ! たとえ山頂までであろうと担ぎ上げます!!」
嬉しそうに黒い瞳を輝かせ、怪力でカートを軽々と押し進めるラインハルト。志乃はその頼もしい背中を追い、夜の静寂に沈む中庭へと降り立った。
*
夜の七時。
完全な暗闇に閉ざされた中庭には、アシェル、ルカ、ダン、ユーリ、そして作業を中断していた十数名の領民と騎士たちが、松明の揺らめく薄明かりの下で身を寄せ合っていた。
冷たい夜風が吹き抜け、男たちの吐く白い息が赤黒い松明の光に照らし出されている。
「志乃様、これはいったい何でありますか……?」
ダンが眉をひそめ、運ばれてきた黒い四角い箱と銀色の三脚を覗き込んだ。
「何かの魔導具かい? 金属の箱だが、魔力を感知する水晶も、ルーン文字の刻印も見当たらねえが……」
「私の世界の大容量ポータブル電源と、工事用のLED投光器よ」
志乃は手際よく作業を開始した。
「ルカ君、手伝ってちょうだい。三脚のネジを緩めて、脚を大きく広げて固定するのよ」
「う、うん……!」
ルカは目を輝かせながら駆け寄り、志乃から手渡されたスチール製三脚のノブボルトを回した。
昨日手に入れたばかりの精密ドライバーではなく、手で回せる樹脂製のローレットノブ。道具の細部に至るまでの合理的な設計に、少年の指先が興奮で微かに震える。
三脚のトップに、角型のLED投光器のブラケットをボルトでガッチリと固定。高さを二メートル五十センチまで一気に引き上げ、照射角度を中庭の広場全体へと向けた。
投光器の根本からは、黒く太いゴム被覆のコードが伸びている。
先端についているのは、平行な二本の金属端子――家庭用のAC百ボルトプラグだ。
「ルカ君、ここを見て」
志乃は中庭の石畳の上に据え置いたポータブル電源の操作パネルを指差した。
「この黒い箱の側面に、二つの細い穴が並んだ差し込み口があるでしょう? コンセントよ。ここに、投光器のプラグを真っ直ぐに差し込みなさい」
「こ、これを差し込むだけでいいのかい……? 魔法陣に魔力を注ぎ込む詠唱もなしに?」
「そうよ。カチッと手応えがあるまで押し込むの」
ルカはおずおずとプラグを手に取り、ポータブル電源のAC出力ポートへと差し込んだ。
カチリ、と硬質な手応えとともに、端子が吸い込まれるように嵌合する。
その瞬間、志乃がポータブル電源のメイン電源ボタンを長押しした。
ピピッ――。
澄んだ電子音が静まり返った中庭に響き渡った。
次の瞬間、本体の大型液晶ディスプレイが、鮮やかなブルーのバックライトとともにパッと点灯した。
「うわっ……!?」
近くで見ていたユーリと領民たちが、驚いて一歩後ずさった。
液晶画面には、バッテリー残量を示す『100%』の数字、そして出力可能な残り時間、入出力ワット数のインジケーターが、極めて精緻なデジタルドットでくっきりと浮かび上がっていた。
「な……なんだ、この盤面は……!? 板の中に……光る文字と数字が浮かんでいる……!?」
ルカが過呼吸を起こしそうな勢いで液晶画面に顔を近づけた。
「魔導の水晶球の投影じゃない……! 発光する微細な粒子が、直接数字を描き出しているのか……!? それに、この残量表示……エネルギーの総量を、百分割のパーセンテージで可視化しているというのか……!?」
「ええ。内部に蓄えられた電力は二〇四八ワットアワー。満充電よ」
志乃は落ち着き払った声で告げた。
「この投光器の消費電力は約百五十ワット。計算上、このバッテリー一つで、今から連続で『十三時間以上』はフル点灯を維持できるわ。明日の朝、太陽が昇るまで余裕で持ちこたえる計算よ」
「じゅう……さんじかん……!?」
ダンが目を剥いた。
「おいおい、冗談だろ!? 王都の魔導師が使う最高級の光魔石だって、明るく輝くのはせいぜい一時間が限界だぞ! こんな小さな箱一つで、夜明けまで光り続けるってのか!?」
「言葉で説明するより、見てもらった方が早いわね」
志乃は投光器の三脚の傍らに立ち、背後のポータブル電源の『AC出力スイッチ』へと指を伸ばした。
周囲を取り囲む領民たち、息を呑むアシェル、剣の柄を握りしめて身構えるラインハルト、そして目を血走らせて凝視するルカ。
全員の視線が、志乃の指先に集中していた。
「さあ、見なさい。……これが、現代の『夜間工事』の光よ」
カチッ。
志乃の指先が、小さなプッシュボタンを押し込んだ。
――その、刹那。
ドッッッ!!!!
音すらなかった。
ただ、絶対的な「純白の暴力」が、中世の夜の帳を一瞬にして粉々に打ち砕いた。
「――――っっっ!!!!????」
爆発だった。
火薬の爆発ではない。純粋な、圧倒的な「光の津波」が、三脚の頂点に据えられた高輝度面発光LEDから全方位へと解き放たれたのだ。
二万ルーメン。
昼光色・色温度六千五百ケルビンの、濁り一つない純白の閃光。
中庭の石畳、崩れかけた城壁の細かなヒビ、転がっていた小石の影、遠くの回廊の彫刻の凹凸に至るまでが、まるで真昼の直射日光を浴びたかのように、鮮烈な白の下に白日の下に晒し出された。
赤黒く揺らめいていた松明の火が、あまりの光量の差に、まるで消えかけた蝋燭のように色を失い、完全に光の中に掻き消える。
「ぎゃあああああっっ!?」
「ひ、昼が……昼が来たあああああっっ!!」
「太陽だ! 夜空から太陽が落ちてきたぞ!!」
中庭にいた領民たちが、絶叫とともに地面に頭を抱えて伏せ倒れた。
鍛冶屋のダンが尻餅をつき、副官ユーリが両腕で目を覆いながら腰を抜かす。
ラインハルトですら、思わず大剣を盾のように構えて目を細め、その驚天動地の光景に喉を詰まらせていた。
闇に慣れきっていた中世の住人たちにとって、それは物理現象という認識すら超越していた。
夜の帳を力ずくで引き裂き、地上に強制的に昼間を降臨させる――神話の時代に語られる「太陽神の降臨」そのものの奇跡だった。
「だ……誰も目を傷めていないわね!? 光源を直接見ちゃダメよ! 広場全体を照らすように拡散板をつけてあるから、床を見なさい!」
志乃が凛とした声で指示を飛ばす。
恐る恐る、領民たちが腕の隙間から顔を上げた。
そして――彼らは言葉を失った。
そこにあったのは、彼らが生まれてから一度も目にしたことのない「夜」の光景だった。
影が、濃い。
足元の石畳の細かな砂粒の一つひとつまでが、手に取るようにくっきりと見える。
暗がりなど、どこにも存在しない。
広大な中庭の隅から隅までが、まるで雲一つない正午の青空の下にいるかのように、均一で澄み切った純白の光で満たされていた。
「う……うそだろ……?」
ダンが震える手で地面をまさぐった。
「見える……! タガネの刃こぼれも……石の継ぎ目も……針の穴に糸を通せるくらい、はっきりと見えるぞ……!!」
「煤が……出ない……!」「煙も臭いもねえ!」「風が吹いても、火が消えねえぞ!!」
騎士たちと領民たちの間から、恐怖の悲鳴が一転して、地鳴りのような歓喜の叫びへと変わっていった。
夜なのに、作業ができる。
夜なのに、足元が怖くない。
何百年もの間、人類を縛り付けてきた「暗闇の恐怖」が、たった一台の三脚と黒い箱によって、完全に消滅したのだ。
アシェルは、眩い光の中で立ち尽くしていた。
白銀の髪が純白の光を浴びて神聖な輝きを放ち、その深い碧眼には、溢れんばかりの涙が溜まっていた。
「……志乃……」
アシェルは胸元を強く握りしめ、震える声で呟いた。
「君は……夜の闇すらも……支配してしまうのか……。こんな光……王都の大聖堂の儀式魔術ですら、見たことがない……。君のいる場所には……決して闇が訪れないんだね……」
若き領主の眼差しには、もはや敬愛や忠誠という言葉すら生ぬるい、魂の底からの狂信的な熱情が灯っていた。
だが――。
その現場で、誰よりも凄まじい反応を示していたのは、他ならぬ天才技師ルカだった。
「…………っ!!」
ルカは光の眩しさに怯むこともなく、狂ったように三脚へと駆け寄っていた。
少年の灰色の瞳孔が、極限まで見開かれている。
ルカはおずおずと手を伸ばし、投光器のアルミダイキャストのボディへと触れた。
そして――。
「……な……に……これ……?」
ルカの声が、引き攣るように裏返った。
「つ、冷たい……!? いや、ほんのり温かい程度だ……!? これほどの……太陽のような猛烈な光を放っていながら……本体が焼けていない……!? ガラスが割れていない……!? 炎の熱が……どこにもない……!?」
ルカは自らの両手を見つめ、それから投光器の放熱フィンを狂気じみた手つきで撫で回した。
鼻の穴からツッと赤い血――極度の興奮による鼻血が一筋、垂れ落ちる。
「熱変換ロスが……ほぼゼロの発光素子……!? ありえない……! 学会の理論では、光を生み出すには必ず膨大な熱エネルギーの代償が必要だとされていたのに……! この素子は……エネルギーのすべてを、熱ではなく『純粋な光』だけに直接変換しているのか……!?」
ルカは志乃の方へとガバッと振り返った。
その顔は、興奮と熱狂で真っ赤に染まり、涙と鼻血が混ざり合っていた。
「志乃さん……! これ、どういう回路なんだい!? 半導体って何だ!? どうしてこんな小さな粒が光るんだ!? 教えてくれ……頼むから、僕にこの構造のすべてを教えてくれ……!!」
少年は志乃の足元へすがりつき、子供のように泣きじゃくりながら懇願した。
知識への渇望。
自らの信じてきた世界の物理法則を遥か彼方から破壊された天才の、魂の咆哮だった。
「落ち着きなさい、ルカ君。鼻血が出てるわよ」
志乃は苦笑しながらポケットから除菌ウェットティッシュを取り出し、ルカの鼻元を優しく拭ってやった。
「発光ダイオード(LED)よ。特定の物質に電気を流すと、電子と正孔が結合して光を放つ現象を利用しているの。……あなたの明晰な頭脳なら、原理を学べばきっとこの世界の素材で再現できるはずよ」
「再現……!? 僕が……この光を……!?」
「ええ。そのための出資よ。……でもね、ルカ君」
志乃はポータブル電源の液晶ディスプレイを指差した。
画面には、出力百四十八ワット、残り使用可能時間十三時間の表示。
「課題があるわ」
志乃は冷静に、エンジニアとしての現実を突きつけた。
「この黒い箱――バッテリーはね、私の世界から運んできたものよ。十三時間経てば、中の電気は空っぽになる。……もちろん、私の世界へ持ち帰ればコンセントから数時間で再充電できるけれど、それじゃあ永遠に私の手作業に依存することになるわ」
志乃はルカの肩に手を置いた。
「いずれは、太陽光パネルを持ち込んで現地充電するシステムも構築する。……けれど、私の本当の望みはね、ルカ君。あなたがこの構造を解明して、この世界の『魔石』や『魔力回路』を使って、同じように超省エネで夜を照らし続ける『現地生産の魔導ランプ』を開発することよ」
「…………っ!!」
ルカの胸の奥で、カチリと巨大な歯車が噛み合った。
他力本願の奇跡を享受するのではない。
神(志乃)から与えられた未来の光を、己の頭脳と手によって、この大地に根付かせる。
これ以上の、技術者冥利に尽きる使命がこの世のどこにあるというのか。
「……やるよ」
ルカは鼻血を拭った顔を上げ、灰色の瞳に不退転の決意を宿した。
「やってみせる……! あんたの期待を、絶対に裏切らない……! 魔石の消費効率を百倍にした、僕だけの魔導ランプを……必ず完成させて、あんたの足元に届けてみせるよ……!!」
白亜の光に包まれた中庭で、男たちの歓声と作業の槌音が、昼間のように高らかに鳴り響き始めた。
夜の闇を克服したヴァルハイト領のインフラ改革は、現代のポータブル電源を起爆剤として、いよいよ異世界の魔導技術との「本格的な融合」へと突き進んでいくのだった。




