アタシには無理って気付いちゃったんだ
リオンです。
リコってば雑に見えて結構鋭いんだよね。
そうです。正直、司法試験を目指す、というのは、私には珍しく、「ノリ」で決めたものです。
で、一年間やって分かった。これはノリで目指すもんじゃない。正直、授業にも差し支える・・・そして、お金も足りない。
ロースクールに行くお金まで用意してないからね。
まあ、やってみて、諦めてよかったとは思いますよ?
法律学科を泳ぎきるための体力はつきました。
これは間違いありません。
諦めたきっかけ?
うん。バスケサークルに入るタイミングです。
司法試験の勉強をしながら、いかにも『大学生活』みたいなことをするのは無理です。
少なくとも私には無理でした。だって、大学二周目、みたいな人もふつーにいる世界なんだもん。
中には四卒ストレートで司法試験に合格する人もいる、ということは知っていますが、そんなの0.1%とかそれ未満とか、そういうレベルでしょう?
マイちゃんが法学部を目指したんなら、0.1%の中に入ってくる、と言われたんなら、「またか・・・」と思うだけですけど、私がそこに入れるか?と言われたら「無理だよね・・・」と言わざるを得ないです。
それは一年間やったからこそ言えることでもあります。トップレベルの人とはどんどん離されていくだけの一年でした。
元々リコみたいな体力自慢のタイプじゃないですけど、ミニバスからずっと、10年以上、走り続けてきたので、体力には、少しは自信があるほうでした。高校も三年冬のウィンターカップまで出たしね。
で、今年のゴールデンウィーク、あまりにも体力が衰えていることに愕然としてしまったんです。
マイちゃんやリコはまだしも、ステルスユカ・・・あれ、実は結構体力使います・・・あれをやってあっという間にふにゃるユカにすらついていけない・・・
当然、筑波の広いキャンパス、キャンパス間を自転車で爆走・・・はしていないと思いますが、日常的に走りまわっているミツキにもまったくついていけませんでした。
桃花は高校のベストの時よりは少し、衰えてはいましたが、普段からバスケサークルで、プチ無双したり、授業でも走りまわることが多いとは言っていたので、大きな大会を県大会で敗退して、練習無しが続いた二週間後とか、その程度の劣化です。
まあ、少し努力すれば戻る程度、という感覚です。
私は、その時点でほぼ一年走ってない。さすがにウォーキングすらしない、ってことはないですけど、やっぱり走るのとは運動効果が段違いです。
正直、お腹の表皮もすこし弛んでいました・・・
女子的にこれではイケナイ!!と思ったのと、バスケサークルに入るって決意したところで、私の「ノリ」は崩れ落ちました。
『無理だ』って心の底ではずっと叫んでいたと思うんです。それをガマンするのがカッコイイと思っていた自分もいたと思います。
でも、司法試験を目指した一年で得たものは大きかったです。前述の通り、法学部法律学科の卒業までの道のりは見えたと思います。
法学的な体力は圧倒的に付きました。
次は本当の体力のほうです。ミツキじゃないけど、法学部でも体力があったに越したことはありません。
あれ、司法試験の勉強を『壮大な予習』と捉えればいいんです。
今は来年本格的に始まる行政法の予習も兼ねて行政書士の試験勉強をしています。行政書士だって、難関資格のうちです。合格率は毎年15%あるかどうかだったと思いますしね。
今年の試験は敢えて受けませんでした。スケジュール的にはギリギリ間に合ったとは思うんですけど・・・これまでの私の実績から言って、一発試験にしたほうが確率が高いんじゃないかな、と思うわけです。どういう意味かって?
今、二年ですから、就活の前に合格、エントリーシートに「行政書士試験合格」って書くには三年秋の試験を受けるしかなくなりました。
そして、翌、二月までに合格発表があります。ギリ、就活開始前です。
まあ、受からなくてもいいんですけど、受かったほうがいいし嬉しい。
中央高の試験でも、英検でも、そっちのパターンのほうが受かっています。
逆に何度か受ければいいや、って試験は、最終的に追い詰められるまで受かってません。
なんで三年での一発合格を目指しているわけなんです。
この大学を目指したのも、桃花と同じ大学、というのも無くはないけど、強力な学内ネットワークを使える学生になりたい、というのも大きいです。
ともかく巨大な大学ですから。
就活の面倒見もよい、と、入学時にも言われました。
そして、ノリで司法試験を目指すことをやめて、バスケサークルに入ったら、先輩が何でも教えてくれるってことが分かりました。
ネットワークを使いたいと思いつつ、一年捨ててたんですよ。私は。
法学部といってもほとんどの学生は司法試験なんてハナから目指していません。明るく楽しい学生生活を送って就職したい、と思っているだけです。
私もそちらに切り替えた、というだけの話です。
一応、これも小さいながら、私の『挫折と克服』の物語なのかな、なんて思っています。
・・・
よく気付いたね、リコ。
「まあな。走って大学に行くようになってから、あの分厚い本の束、抱えてないな、とは思ってた」
そうね。あれを抱えて走るのは苦行だよね。特に夏場は。
「クソ暑いからな。東京は・・・でも着替えは持ち歩かなきゃならないだろう?」
本の束よりはずっと軽いよ。それに1Lのステンマグも持ち歩けるようになったしね。
「ああ、あれがないと・・・暑いときには小銭が飛んでくな」
それでも夏場はゼロにできないけど・・・まあ、水分補給の面と、あと、氷も持つからね。追加の水もある程度冷やせるし。
今では100円ショップで、棒状の氷を作るアイテムも売ってますが、我々、野良のスポーツ女子は、そんなものは使いません。
牛乳パック工作です。
牛乳は意外と糖質が多いのですが、まあ、スポーツドリンクみたいな量じゃないし、タンパク質と脂質もある程度取れるので、ある程度運動する女子が3人で住んでいれば、1Lのパックなんてすぐ空いちゃいます。
これを精密加工して、円柱の半分、なんていうのかな、まあ円柱を縦割りした形が水平に作れる容器、製氷皿を作り、そこに水道水を入れて冷凍庫で放置すれば氷ができます。
真夏は二個入れて円柱に、それ以外の季節は一個で充分です。真夏は凍らせても大丈夫なお茶のペットボトルを再利用して、追加の水というか氷も持参しています。
こっちはしかたないので100円ショップで買った、ペットボトルカバーを掛けてあげれば、昼頃までは結構溶けなかったりします。
半円柱にするのは、ステンマグの形状のせいもあります。広口で氷が入れやすい、と言っているものでも、入口よりも内部の筒状のところのほうが広いものがほとんどです。
なので、半円柱氷を入れて、横にしてから、もう一つの半円柱氷を入れれば入るのですが、同じ大きさの円柱氷を作ったとしたら、物理的に入らないのです。
牛乳パック工作の製氷皿を使い回すのは不衛生?
まあ、それは認めます。少なくとも凄く衛生的とは言えません。でも先立つものがございませんので。
牛乳パックは簡単に溜まるので、常に干してあり、材料はいくらでもあります。
短期間で作り直すことで衛生を担保している、と言えるのではないでしょうか。
なので、休日は餃子にシュウマイ、牛乳パックにその他まだ秘密の何かと工作三昧です。
「餃子とシュウマイは工作じゃなくて、下ごしらえだよ!!」
アレ、声出てた?桃花。
「リオン、よくブツブツ言ってるよ?」「そうだな。言ってるな」
リコも?!
「まあ、クセだと思って聞き流しているけど・・・小声だからあまり聞こえないしな」
「アタシは慣れてるから・・・別に聞くつもりが無くても聞こえちゃう」
やべぇ、直そう・・・
「それも超小声だけど言っちゃってるから!!」
うん。本気で気をつけよう。
でもあれのお陰で夏を乗り切れたと言っても過言とは言えないよね?
「リオン、多重否定はわかりづらいよ?」
「流石法学部様だな。まあ、過言じゃないな。財布に優しいのは事実だ」
おかげで冷凍庫は餃子とシュウマイとももかんチキンと氷ばかりだけどね。
「市販の冷食はおいしいけど、ちょっと高いもんね!」
「それは言える。ももかんチキンも餃子もシュウマイも市販品にヒケを取らないよ?特にももかんチキン!!糖質オフも確実だしな!」
「ちょっとだけお砂糖使ってるけどね」
うん。アタシも充分おいしいと思う。使えるお金の上限は決まっちゃってるから・・・冷食やお惣菜や自販機に小銭が吸いとられていくのは避けたいもんね。
「貧乏カネ無しだよね!!」
「桃花、それはちょっと違う、いや、合ってはいるんだが・・・」
いつの間にか、二人も漫才ができるようになってるんだね・・・
「そーゆーつもりは無いんだけど!」
「アタシも無いよ。それを学んでいるのは桃花だけだろ」
「別に漫才を学んでいるわけじゃないよ!!」
それが漫才的だってば。まあ、いいか。
そんなわけで、司法試験は諦めて、普通のサークル活動も楽しむ女子大生にジョブチェンジしたってわけ。
「じゃじゃじゃ、彼氏は?リオンならモテるんじゃない?」
「そんなにすぐにできないだろう?」
できないねーーー。候補も見当りません。
「そうだよなぁ・・・まあ、ウチみたいな彼氏ができるのが絶望的な環境ってわけじゃないだろうけど」
リコは彼氏いるじゃん。
「一応な。ほとんど会えてないけど」
それでもいるといないじゃ大違いだよ。
「リオン?サークルで彼氏候補を・・・立候補してもらえば・・・いくらでも釣れるよ?リオンの顔とスタイルなら」
あのねぇ・・・ギャルでとっかえひっかえの桃花に言われたくないよ。それは。
「同時には一人だし!とっかえひっかえってほどじゃないし!!終わったあとは必ずクールダウン期間置いてるし!!!」
そうだったんだ・・・でも、顔とスタイルなら高校のころだって、もっと告白受けても良かったんじゃない?それこそユカだって。あっちは間違いなくアイドル美少女だよ?ちょっと背は高いけど・・・
それが、二人とも申し込みゼロだよ?
なぜなのよって感じで、それについて・・・ユカと二人でも話したことあるよ?
「まあ・・・ユカは二位様、断トツ二位という謎ムーブをかましまくっていた、ってのも一因だろうな」
「うん。そうね、真の一位のマイちゃんの彼氏は、あのころから明らかにジョージだしね。彼氏っていうより、どっちかっつーと執事っぽかったけど」
アタシは精々Cクラス上位なんだけど?
「それでも・・・半分より上だし、アタシたちのためにCに残っているってのはみんな分かってたから・・・」
「だな。桃花とアタシに厳しく教えるチューターってイメージが付きすぎたんだろ?ほら、リオンと並んで釣り合う男子は高身長で・・・一部理学部を除けばほぼ運動部。アタシらの補習のおこぼれをもらっていた連中だからさ、憧れはあっても申し込みなんて、とてもできないだろ?」
だよねぇ・・・あーあ、教え損かぁ・・・まあ、あんたらに教えることで理解が深まる、もあったから無駄じゃないんだけどさー。ユカにもそれは言われたよ。
「でもでもでも、大学ならいけんじゃね?」
「そうそう。マイちゃんとユカもいないしな」
そうね。あの二人のそばだと普通の美人やかわいいはかすんじゃうもんね。
それに期待するよ。
「リオン、行政書士を目指すサークルなんかないの?バスケよりそっちのほうが彼氏を探すには・・・チャラいとかヤリモクじゃない人を探せていいんじゃない?アタシだって、そっち系は避けてるよ?」
「そうだな・・・将来を考える可能性もあるし、そっち系のほうがいいかもな」
あのね・・・まあ、ヤリモクっぽいのなら、声を掛けられたこともあるけど・・・ジョージの講習の前だったから、拒絶したよ。恋愛に持っていけそうもなかったしね。うん、そうだね、いいアイデアかもしれないね。探してみるよ。




