5話 捕食
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食品売り場。
そこには、異様な光景が広がっていた。
肉売り場に並べられていた肉という肉に、無数のナメクジが群がっている。
床を這い、肉を覆い尽くし、次々と食らいついていた。
エマは目を疑った。
(ナメクジが……肉を食べている?)
(ありえない……!)
その隣で、ヘンリーが呟く。
「……肉が主食か。」
「ワニの影響……なのか?」
エマの耳が、その言葉を聞き逃さなかった。
振り返る。
そして、ヘンリーの胸ぐらを掴んだ。
「今、何て言った?」
「……!」
「詳しく話しなさい!」
ヘンリーは抵抗しようとしたが、エマの剣幕に圧倒される。
そして、これまでの経緯を簡単に話し始めた。
遺伝子操作。
オメガリマス。
そして、自分が人類を滅ぼすために生み出したこと。
話を聞き終えたエマは、信じられないものを見るような目でヘンリーを見つめた。
(遺伝子操作……。)
(そんな怪物を……人間が作った?)
ヘンリーはようやくエマの手を振りほどくと、その場にへたり込んだ。
「……倒し方は?」
エマが問い掛ける。
ヘンリーは怯えたように答えた。
「今のところ……塩と炎が有効だ。」
2人が話している間にも、肉はどんどん小さくなっていく。
だが、2人はそれに気付いていなかった。
異変に気付いたのは、肉売り場の店員だった。
「何なんだよ、こいつら!」
店員はモップの柄でナメクジを払い始める。
「どけ! どけよ!」
勢いよく柄で潰し、さらに足で踏みつける。
しかし――。
「うわぁぁぁっ!」
突然、店員が悲鳴を上げた。
「靴を脱がしてくれ!」
「足が! 足がぁ!」
「痛ぇよ! 痛ぇ!」
周囲の客が慌てて駆け寄る。
靴を脱がせると、靴底は溶け、靴下もボロボロになっていた。
皮膚まで赤く爛れている。
「何なの……?」
「何で溶けてるの?」
客達が恐る恐るナメクジを見る。
潰されたナメクジは動かなくなっていた。
しかし、その周囲の床は――。
溶けていた。
床が僅かに陥没している。
「……何だ、これ?」
1人の客がモップの柄でナメクジに触れる。
ジュッ……。
モップの柄から白い煙が上がった。
「え?」
木製の柄が黒く変色していく。
「うわっ!」
客は慌ててモップを放り投げる。
「触るな!」
「逃げろ!」
1人が逃げ出す。
それを見た別の客も逃げる。
そして、その動きは一瞬で周囲へ伝わった。
「何か分からないけど逃げろ!」
「外へ!」
「押すな!」
「早く!」
食品売り場から、凄まじい勢いで人の波が押し寄せる。
エマはその流れを見て、ハッとする。
「しまった!」
「ナメクジが……!」
しかし、人の波に遮られ、ナメクジがどうなったのか確認することができない。
ショッピングモールは一気にパニックへと変わった。
やがて警察が到着する。
客達が逃げ去った食品売り場に残っていたのは、負傷した店員と、エマ、そしてヘンリー。
店員は救急車で運ばれていった。
警察官が現場を確認する。
「……ナメクジ?」
その視線の先には、肉売り場に群がる無数の小さなナメクジ。
さっきまで肉に夢中になっていたため、警察官達も特に警戒していなかった。
だが、その数は明らかに異常だった。
エマが叫ぶ。
「早く! あのナメクジ達を焼くか、塩を掛けて!」
「何だ?」
「時間がない!」
「ナメクジが何だっていうんだ?」
「早く殺さないと大変なことになる!」
警察官は呆れたようにエマを見る。
「ナメクジが大変? 何を言ってるんだ?」
「時間がない! 成体になる前に!」
「……お前、何でそんなことまで分かるんだ?」
「それは――」
エマはヘンリーを指差した。
「こいつが作った生物兵器だからよ!」
「……。」
警察官はヘンリーを見る。
そしてエマを見る。
「分かった、分かった。」
「ナメクジは処分しておくから、とっとと帰れ。」
「話を聞いて!」
しかし、警察官達は取り合わない。
エマは舌打ちすると、ヘンリーの腕を掴んだ。
「来て!」
「え?」
2人はその場を後にした。
外へ出ると、エマはヘンリーに詰め寄る。
「どうすれば全滅させられる?」
「……私のオメガリマスだ。」
ヘンリーは俯く。
「全滅は……。」
エマが鋭い眼差しを向ける。
ヘンリーは観念したように続けた。
「燃やし続けるか……。」
「塩を掛け続けるしかない。」
エマは黙り込む。
「燃やす……。」
「塩……。」
そして、ふと顔を上げた。
「……海。」
その言葉を聞いたヘンリーも、ゆっくりと顔を上げる。
2人の視線が交わった。
まだ2人は知らなかった。
この怪物を倒すために、自分達が手を組むことになることを――。
今後もよろしくお願いします。




