第2話 始まり
いつも読んでいただきありがとうございます。
ヘンリーは車をその場に乗り捨て、必死に走り出した。
長年、研究室に籠もり続けていた身体は思うように動かない。
息が切れる。
足が重い。
それでも、ただひたすら研究所を目指した。
ようやく辿り着いた時、ヘンリーは言葉を失った。
ヘンリー
「……そんな……」
研究所は瓦礫の山と化していた。
崩れ落ちた建物のあちこちから白い湯気のようなものが立ち上り、焼け焦げた鉄骨だけが黒く残っている。
窓ガラスは溶けずに残っていたが、熱と衝撃で粉々に砕け散っていた。
ヘンリーは力なくその場へ膝をつく。
頭の中が真っ白だった。
消防士
「おい! 危ないぞ!」
消防士が駆け寄る。
消防士「ここは立入禁止だ! 下がってください!」
しかし、その声はヘンリーの耳には届いていなかった。
消防士は崩れた研究所を見つめながら呟く。
消防士A
「どうすれば、こんな壊れ方をするんだ……」
その時だった。
消防士B
「こっちに来てくれ!」
「怪我人だ!」
別の消防士の叫び声が響く。
救命士達が一斉に駆け寄る。
消防士B
「意識はありますか!」
「酷い火傷だ!」
「担架を!」
倒壊した建物の下敷きになっていた男性だった。
救命士が身体を確認する。
救命士
「……何だこれは?」
「片足がない……」
「しかも、骨が見当たらない……」
焦げて黒くなった皮膚。
だが、骨だけが跡形もなく消えていた。
その言葉を聞いた瞬間、ヘンリーは我に返る。
ヘンリー
「……オメガリマス。」
嫌な予感が全身を駆け巡る。
ヘンリーは瓦礫の周囲を必死に探し始めた。
そして見つける。
ヘンリー
「……この跡だ。」
地面に残る1本の粘液。
いや、何本もだ。
ヘンリー
「這った跡……!」
ヘンリーはその跡を辿る。
粘液は瓦礫を抜け、草むらを横切り、そのまま雨水用の排水溝へ続いていた。
先は暗い下水道。
ヘンリーは立ち尽くす。
その頃、周囲では野次馬が集まり始めていた。
野次馬
「何があったんだ?」
「研究所が爆発したのか?」
1人の男性が規制線を越えようと、1歩踏み出す。
ベチャッ。
野次馬
「……何だこれ?」
靴の裏に透明な粘液が付着していた。
野次馬
「気持ち悪いな。」
さらに1歩。
その瞬間だった。
野次馬
「あっつ!!」
男性が突然叫び、その場に倒れ込む。
野次馬
「熱い! 熱い熱い熱い!」
必死に靴を脱ごうとする。
周囲は騒然となった。
救命士が駆け寄る。
救命士
「触るな!」
ナイフで靴を切り裂く。
現れた右足は、皮膚が赤黒く爛れ、ところどころ肉が溶け落ちていた。
救命士
「担架だ!」
「急げ!」
救急隊員達が男性を運んでいく。
ヘンリーはその様子を見つめながら、ゆっくりと顔を上げた。
研究所は、小高い丘の上に建てられていた。
万が一、研究中に事故が起きても、市街地へ影響を及ぼさないように。
それが建設当時の理由だった。
だが、その丘の下には――。
無数の明かりが灯る街が広がっている。
仕事帰りの会社員。
買い物を楽しむ家族。
笑い合う恋人達。
誰1人として、自分達に迫る危機を知らない。
その街へ続くように、下水道は静かに伸びていた。
ヘンリーの額を、一筋の冷たい汗が流れ落ちる。
ヘンリー
「まさか……」
その呟きは、誰にも届かない。
暗い下水道の奥からは、何かが這うような微かな音だけが響いていた。
今後もよろしくお願いいたします。




