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犀の角のように歩む  第一部 縁の発動   作者: リレイ飛鳥


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第六章 告白 ~その壱~

 その部屋はとても賑わっていた。


 午前中、僕は部屋で問題集を眺めて過ごし、一人だけで弁当を食べた。母を待っていたが現れなかったので、母の分はテーブルの上に置いておいた。


 食事を終え横になっていたら、羽根が迎えにきた。青年部の会議に行くのだと。それで、彼について本部へ向かった。

 土足のまま談話室に上がり、廊下を進み、2階へと階段を上がっていった。一番手前にある、『集会室』と記してある部屋へと入っていく。


 僕は圧倒されてしまった。若い男女が立ったまま部屋を埋め尽くしていたからだ。

 ドアを閉めたら、僕と羽根は並んだまま動けなくなってしまった。僕らの前には、人の壁ができていたからだ。

「自分の所属はわかっているよな! 廊下から、第一隊! 第二隊! 第三隊! 整列して!」

 前の方から号令がかかる。一斉に若い男女が動き始める。


「よし! それでは、着席!」

 青年たちは、抱えていたパイプ椅子をバタバタと広げて座りだした。


 目の前が一気に開ける。学校の教室が二つ入るほどの広さの部屋に、50名ほどの青年たちが前を向いて座っている。正面の壁にスクリーンが下げてあり、それを背にして5人の男女が立っていた。

 中央に立っている青年は、駒塚俊喜(こまづかとしき)であることがわかった。その隣に、昨夜会った綺麗な女性が立っている。遮るものがないため、僕はドギマギしてしまった。しかも、彼女は、後ろに立っている僕に気がつき、ニコッと笑い、手を振ってきたのだ。

 部屋に座っている青年たちが一斉に振り返る。全員が僕と羽根を見つめる。注目を浴び、膝が震えるほど緊張してしまった。


「来ているよ」、「あの子だ」、指を差して喋る人もいて、しだいに怖くなってくる。

「長野さんだ」

「……え?」

 羽根が僕の耳元で囁いたので、彼を見る。


「俺に手を振ったのは、副部長の長野紗英(ながのさえ)さん、なの」

 と、得意そうに羽根は説明した。


「ああ……」

 羽根は、彼女が彼に挨拶したのだと勘違いしたようで、可笑しかった。それにより緊張が幾分和らいだ。


「はい、勝手に喋らない。こっちを向いて。ゲストについてはあとで紹介するから」

 駒塚は注目するようにとみんなに語りかける。座っている青年たちは彼の方へ向いた。


 部屋の前方には駒塚と長野、窓側に男二人と女が一人立っている。反対の廊下側には、一人の男が椅子に腰かけている。


「それでは、第一隊から、明日の奉仕の内容を説明します」

 駒塚がそう振ると、窓側に立っていた背の高い男性が進み出て、座っているみんなに説明を始めた。名前は基田兼通(もとだかねみち)と名乗った。沈着冷静な隊長であると感じられる青年だ。語り終えると、第二隊、第三隊と説明が続く。


 第一隊は太陽殿内での信者の誘導に充てられた。第二隊は駐車場および階段での誘導で、第三隊はバス及び車の誘導に当たると説明された。


 第二隊の隊長は木村芳樹(きむらよしき)と名乗り、こちらは頼りなさそうな青年だった。第三隊の隊長は、朗らかさが溢れ出ている、グラマラスな体型の女性だった。平岡麻貴枝(ひらおかまきえ)と名乗った。


「ではこれから、各隊に別れて、段取りと役割を決めてください。それでは、しばらく間、各隊の隊長にまかせます」

 駒塚はそう言い、一旦腰かける。


「いいなー! 隊長だなんて……」

 長野が隊長たちを眺めて、嘆いてみせた。


「なんで?」

 第三隊長の平岡が訊いた。


「カッコいいじゃない。私なんか、副部長よ。高校の部活みたい」

 そう答えると、部屋中のみんながドッと笑った。


 僕は長野を見やった。そして、考える。喋った内容に大した意味はないのだけれど、この場の雰囲気を(なご)ませるために道化たのだと。


 隊長たちが各隊の前に進み出すと、羽根は、「はい!」と大きな声で手を挙げた。僕は驚愕し、羽根を見つめる。


「青年部長! 僕たちは何をすればいいですか!」

 またもや、みんなの注目を集めることになってしまった。駒塚はゆっくり立ち上がり、なんと言おうか考えているようだ。


「というか、紹介して」

 どこからか、そういう声が上がった。そう、そう、と同意する声が続く。


「わかった」と駒塚は二人の紹介を始める。


「後ろに、少年が二人立っているが……僕が立たせているわけではないよ」

 ここでドッと笑いが起きる。


「知っている人も多いと思うけれど……右側の子が、四月から青年部に入る、羽根くんだ」

「よろしくお願いします!」

 羽根は大きな声で挨拶した。一斉に拍手が起きる。ガンバレ! などと声をかける者もいる。


「羽根君のお母さんは、婦人部でも活躍されていて、毎回奉仕に来ておられる。尊敬できる方だ」

「ありがとうございます!」

 羽根は大きく頭を下げた。またもや拍手が起きる。羽根の頬は上気していて、とても満足そうに見える。


「それと、もうひとり……中学……二年だよね? あっ、三年になるのか」

 僕はサッと前を向いたが、声を出すことができず、小さくうなずいた。


「中野くんだ」

 すると、直ぐさま、なかの、なかの、と伝言するように声が続いた。中には、僕を見て、うふふと、笑っている女の人もいたが、だいたいは静かな反応ですんだ。


「ええと……いいのかな? 君も奉仕をするということで」

 駒塚は、どう扱っていいのか困りながら、僕に尋ねた。


「は、はい」

 ここまで来ると、そう返事をするより仕方がない。


「どうすればいいかな……」

 駒塚はみんなの顔を眺めながら考えている。


「私の隊に入れて」

 平岡が大きな声で提案した。


「第三隊?」

「そう。私たちは道で誘導しなければならないじゃない。上がったり下がったり大変だから、若い力がほしいのよ」

「そうか。それなら、君に預ける。ただし、車が来るのだから、充分気をつけるように」

 そういうことで、僕と羽根は第三隊に入ることになった。


 各隊に別れての説明はとても賑やかなものになった。冗談を飛ばしながら和気藹々(わきあいあい)と会議は進んでいく。僕は何も喋らず眺めているだけだったが、会議とは真剣で真面目なものだと習っていたので、気楽ではあったが、拍子抜けしてしまった。


 集会が終わり、解散となる前に、僕と羽根は平岡に呼ばれた。僕たちに青年部の制服を配るというのだ。


「Mでいいよね、Mで」

 隣の女性と確認しながら、「新品じゃないけどね」と断りながら、大きなビニール袋に入っている、黄色のブレザーとグレーのズボンを手渡す。


「僕は……Lの方が……」

 羽根は不服そうな顔をしてみせる。


「なんで? どう見たってMでしょう。それともなに、〃キャノン〃が付いているって」

 と言って、平岡は大笑いする。そばにいた第一隊隊長の基田は、眉根を寄せて平塚見つめる。


「違いますよー。四月から正式に入りますから、今のうちに大きいのがほしいのです」

 顔を真っ赤にさせながら、羽根は返そうとする。


「正式に入隊したら、真新しいのをよこすから、今日はこれで我慢しとき」 

 平岡は強引に手渡した。


「君は……」 

 続いて、平岡は僕に覆い被さるように、じろじろと眺め、

「Mでいいよな。まだピストルだろうし」

 と言って、一人でウケていた。


「何がです?」

 意味がわからず質問を返したら、第三隊の全員が爆笑した。


「えっ? どういうこと?」

 羽根に尋ねたが、彼は面白くなさそうな顔をして何も応えない。


「着させてみるか」

 平岡はブレザーを袋から出して、僕の後ろに回り、背中に当てた。


「ううん……ちょっと大きいかな……こうしてみるか」

 と言うなり、平岡は僕を後ろから抱きしめた。僕は飛び上がりそうになってしまった。


「何をやっている!」

 すかさず、基田が、止めるようにと声をあげた。


「ダメじゃない! あなたが抱きついたら、壊れてしまうでしょう」

 長野も寄ってきて、笑いを堪えながら言う。


「だって、カワイぃんだもん」

 平岡はすぐに離れたが、僕は真っ赤になってしまった。背中には、柔らかく暖かい感触が残されている。


「中野君は、今度中三?」

 長野が僕の前に立って、訊いてきた。


「は、はいっ」

 上がってしまい、声も上ずっている。


「高校生になったら、ぜったい青年部に入るのよ。その時は私が部長だから、君を副部長にしてあげる」

 彼女は目を覗き込んで語りかけてくる。僕は酔っ払ったような、といってお酒など飲んだことはないが、気になってしまった。


「ダメだって! 第三隊の隊員なのだから」

 平岡が長野を退かせて、

「下見に行くよ」

 と、部屋の外へと移動を始める。


 僕は羽根の後ろに付いていきつつ、長野を見やる。

 長野は木村のそばに寄っていって、話しかけていた。照れくさそうな木村に、楽しそうに語りかけているのだ。僕の心にチクッとした痛みが走った。


 本部建物の左手前に駐車場があり、そこから二車線の道路が下へと伸びている。

 第三隊は、平岡を先頭にその道路を歩いて降りていく。僕は一番後ろにいて、なだらかなカーブを歩いていった。歩きつつ、気になっていたことを確かめようと、羽根に並んだ。


妃那之(ひなの)さんはいたの?」

「妃那之様だ!」

 怒気を含んだ反応に、エッ? と驚き、羽根の顔を見つめる。羽根は前を向いたままだが、(けわ)しい顔をしている。


「いない」

 そう答えると、足を速め、前の集団の中に入ってしまった。

 僕は一人だけ集団から離れて歩くことになってしまった。羽根はなぜ怒っているのだろうかと気にしながら……。


「バスは、ここからあちらの方へ誘導するようにしてください。そのとき、運転手か代表の方に、人数を確認します」

 三叉路に立ち、平岡は扇形に揃った第三隊のみんなに大きな声で説明している。


「それでは次のポイントに行きます」

 平岡はみんなに着いてくるよう促し、降りていった。僕は三叉路に突っ立ったまま、第三隊が下っていくのを眺めていた。



   第六章 ~その弐~ に続く


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