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44.布から服へ

「えへへ。新素材の布が、こんなに沢山……」


 机の上に折り重なる布の山を前に、私は思わず頬を緩めた。淡く光を反射するもの、触れるとひんやりとした感触のもの、指で押すとしなやかに沈み込むもの。見た目も質感も、それぞれが違っている。


「布が……布が……一瞬で……そんな……」


 その隣では、黒猫の姿をしたシオンさんが頭を抱え、尻尾をぱたぱたと床に打ちつけていた。完全に理解が追いついていない顔だ。


「何はともあれ……完成だね」


 新素材を使った布は、無事に形になった。


 今回使ったのは、物理的な衝撃に強い繊維と、魔力を拡散・減衰させる性質を持つ素材。どちらか一方だけでも防具としては十分価値があるが、私はあえてそれらを合成した。


 単純に混ぜるのではなく、繊維一本一本の特性を保ったまま絡め、互いの欠点を補わせる。その上で、動きを妨げないように伸縮性を持たせる素材をさらに噛み合わせた。


「硬いのに、伸びる……?」


 シオンさんが恐る恐る前足で布を引っ張る。布は抵抗を見せつつも、ビヨンッと柔らかく伸び、手を離すと元の形に戻った。


「はい。伸びるけど、衝撃が加わった瞬間だけ硬化するようにしてあるんですよ」

「なんだ! その新情報は!」


 そして、仕上げは重ね合わせによる多層合成。さらに決定的だったのが、この世界にはまだ存在しなかった技術。


「織り、だね」


 ただ編むのではなく、繊維を互いに噛み合わせ、引き裂こうとすると逆に締まるような構造で織り上げた。力が加わるほど、織り目が密になり、布そのものが耐える形になる。


「……鎧じゃないのに、鎧より硬い」


 シオンさんがぽつりと呟く。


「はい。でも、服として着られます」

「うぅ、鎧を作っていたのか、それとも服を作っていたのかっ! どっちなんだ!」


 軽くて、動きやすくて、それでいて剣も、魔法も、簡単には通さない。これまで、この世界には存在しなかった布。防具と衣服の境界を壊す、新しい素材だ。


「じゃあ、この布を使って早速服を作りましょう」


 一枚の布を残し、残りの布を一度アイテムボックスに仕舞った。次に服作りに必要な道具を取り出す。ハサミ、鉛筆、定規、ミシンだ。


「まずは布に線を引きましょう」


 布に定規を当てて、素早く線を引いていく。


「えっ? もう、線を引くのか?」

「はい。形はもう頭の中にあるので、大丈夫です」

「デザインがとか設計図とかは必要ないのか?」

「頭の中にありますから」

「???」


 そのまま頭の中にある図を正確に布に書き写す。それが終わると、裁断だ。


「じゃあ、ハサミで――」

「ちょ、ちょっと待て! 先ほどは私の風の刃も炎も効かなかったんだぞ? それがハサミなんかで……」

「? 大丈夫ですよ」


 そう言って、私は布に刃を当て――スッと動かすように布を切り裂いた。


「は???」


 そのまま線に沿って切っていいくと、あっという間にズボンが切り離された。


「はい、上手に切れました」

「ちょ、ちょっと待て! どうして!? ただのハサミが……ただのハサミじゃない?」

「えっ? このハサミには『絶対切断』の付与魔法がかかっているんですよ」

「『絶対切断』!? それ、剣に欲しい付与魔法じゃないか! なぜ、ハサミなんかにっ!?」

「えっ? だって、綺麗に布が切れるんですよ。気持ちいいじゃないですか」

「布を綺麗に切るためだけに、そんな強い付与魔法をっ??? 普通は剣に付けないか???」


 切り口が綺麗だと、服の仕上がりも綺麗になるから、これは絶対に外せない能力だ。でも、強い付与魔法をつけるには、素材の魔力がないとつけられないから、それなりの素材を見繕って、自分で作った最高の一品ものだ。


「さぁ、次はミシンで縫いましょう。この糸も先ほどの素材で作っておきましたし、抜かりはありません」

「い、いつのまにそれ用の糸を作っていたんだ!?」


 召喚したミシンの前に座ると、待ち針で縫い留めたズボンを設置した。そして、迷いもなくミシンを起動させる。すると、ミシンが凄い勢いでズボンを縫い始めた。


 針が落ちるたび、ダダダダダッという軽快な音が工房に響く。


 どんな衝撃にも耐えるはずの布が、まるで従順な糸のように重なり合い、縫い目は寸分の狂いもなく揃っていく。


 やがてミシンが止まり、机の上には一本のズボンが完成していた。


「出来ました!」

「いくら何でも早すぎないか!?」

「ちゃんとベルトを通すところも作りましたし、ポケットも作りました」

「ズボンの機能があるのに、この速さで完成しただと!?」


 仕上がったズボンをうっとりと眺める。素材採取から始まり、とうとうここまで作り終えることが出来た。


 今までの工程を思い出して、とてつもない達成感を覚えた。じわじわと湧き上がってくる嬉しさに、自然と笑顔になる。


「えへへ、やっぱり出来上がった瞬間が一番いいですね」

「……まぁ、ヒナが嬉しそうならそれでいい」


 今まで突っ込み三昧だったシオンさんも私の嬉しそうな顔を見て、なんだかホッと安心したような顔をした。


 だけど、これで終わりじゃない。


「さぁ! 布は沢山ありますし、どんどん作っていきますよ! 先ほどは準備運動です。ここからが本気ですよ」

「まだ、本気を出していなかった……だと!?」

「この服を欲しいって思ってくれる人に届けるために、作って作って作りまくります!」

「いいか、ヒナ! 我は忘れるなよ! 怖いから!」


 楽しいクラフトの時間だ!

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