第八話 三年前に俺を追放したパーティー、A級になるらしい
翌朝。
ギルドへ入った瞬間、いつもより人が多いことに気づいた。
掲示板の前にも、酒場にも冒険者が集まっていて、何となく空気が浮ついている。
「何かあるの?」
隣を歩いていたセラが聞く。
「昨日ガレスが言ってただろ。A級昇格試験」
「ああ。あんたを捨てた人たちね」
「言い方」
「違うの?」
「違わないけど、もうちょっとあるだろ」
俺が受付へ向かおうとしたところで、入口の方から歓声が上がった。
「来たぞ!」
「ダリオたちだ!」
「今日だろ、A級試験!」
「いけるって! あいつらなら!」
振り返る。
五人の冒険者が入ってきた。
先頭を歩く大柄な剣士。
ダリオ。
その後ろに槍を背負ったノルド、弓使いのリナ、魔法使いのフィン。
そして最後に、見覚えのない男がいた。
長剣を腰に差し、背中には短い杖。
たぶん。
俺の代わりに入った魔法剣士だ。
「……本当にいる」
「知ってる人?」
「知ってるも何も、三年前まで一緒に冒険してた」
セラが五人を見る。
「ふーん」
「何だよ」
「別に」
「絶対何か言いたそうだろ」
「思ったより普通ね」
「何を期待してたんだよ」
「もっと悪そうなの」
「お前の中で俺、どんな追放され方したことになってんの?」
実際、ダリオたちは悪い奴じゃない。
だから余計に、あの時は何も言えなかった。
俺より使える奴が見つかった。
それだけだった。
ダリオが受付へ近づき、ミレアと話し始める。
ノルドは周囲から声をかけられ、リナも笑って答えていた。
三年。
俺が山にいた間、こいつらも冒険者を続けてきたんだ。
「随分人気あるな」
「知らなかったの?」
「三年間山だぞ」
「ああ、そうだったわね」
「ちょっとは覚えとけよ」
俺たちが話していると、ミレアがこっちを見た。
「レイ。ちょうどいいところにいた」
「最初からいましたよ」
「ダリオ。紹介する必要はないと思うけど、今回の予備要員――」
そこでダリオが振り返った。
目が合う。
止まった。
「……レイ?」
「久しぶり」
ノルドもこちらを見る。
「は?」
リナの顔から笑みが消えた。
「レイ……?」
「おう」
ノルドが早足で近づいてくる。
「お前、生きてたのか!?」
「最初から生きてるよ!」
昨日から何回これ言わせるんだ。
「だってお前、死んだって!」
「俺も昨日知った」
「自分の死亡を!?」
「勝手に死んだことになってたんだよ!」
ノルドが俺の肩を掴み、上から下まで確かめるように見る。
「マジでレイだ……」
「触れば分かるだろ」
「アンデッドじゃないわよ」
セラが横から言った。
「お前はもういい!」
ノルドがセラを見る。
「誰?」
「セラ。私、こいつの仲間」
「残念聖女です」
「余計な紹介しないでくれる?」
「いつもの仕返し」
杖の先がこっちを向いたので、俺は一歩離れた。
その間も、ダリオは俺を見ていた。
「……三年、どこにいた?」
「北の山」
「ずっと?」
「ずっと」
「一人で?」
「うん」
ダリオが息を吐いた。
「そうか」
「何?」
「いや」
少し間が空く。
「生きててよかった」
思っていなかった言葉だった。
俺はダリオを見る。
「……おう」
それ以上、何を言えばいいのか分からなかった。
三年前に追い出されたことを恨んでいないと言えば嘘になる。
でも。
久しぶりに会って最初に言われたのが、それだった。
「レイ」
今度はリナが近づいてくる。
「ごめん」
「何で謝るんだよ」
「あの時」
「ああ」
「何も言えなかったから」
「別にいいって」
「でも」
「もう三年前だぞ」
俺は笑った。
「俺も色々あったし」
「色々?」
セラが口を挟む。
「服が消えたりね」
「それ昨日!」
「結構最近じゃない」
「三年間の話してんだよ!」
リナが少しだけ笑った。
懐かしい。
こうやって笑われるのも、悪くなかった。
「ダリオ」
ガレスの声がした。
ギルド長が奥から出てくる。
「そろそろ説明を始めるぞ」
「ああ」
ダリオが頷き、それから俺を見る。
「そういえば、さっきミレアが予備要員って言ってたな」
「らしい」
「お前が?」
「俺もよく分かってない」
ダリオがガレスを見る。
「どういうことだ?」
「そのままの意味だ。今回の昇格試験にレイも同行させる」
「待ってくれ。こいつは三年前――」
「D級だった」
ガレスが続けた。
「それも、魔法も身体強化も使えないD級だ」
「なら――」
「昨日まではな」
ダリオが黙った。
ノルドもリナも俺を見る。
「昨日?」
「実技を見た」
ガレスが俺を指す。
「今のお前たちより弱いと判断できれば、俺も連れて行かん」
「……」
何か。
空気が変わった。
「いやいや」
俺は手を上げる。
「そういう言い方すると俺がめちゃくちゃ強いみたいじゃないですか」
ガレスが俺を見る。
「違うのか?」
「俺に聞かれても」
「昨日、訓練場の地面を抉っただろ」
「あれ失敗です」
「失敗?」
ダリオが聞き返す。
「新しい必殺技試したら爆発した」
「必殺技?」
「〈スパイラル・ボール〉」
「……」
ダリオが黙った。
ノルドも黙った。
リナまで黙った。
「何だよ」
セラが小さく笑う。
「名前が微妙なのよ」
「今そこ!?」
「ちなみに成功してないわ」
「余計なこと言うな!」
少し離れたところで、初めて見る魔法剣士が俺を見ていた。
目が合う。
男がこちらへ歩いてくる。
「カインだ」
「レイ」
「知ってる」
「そう?」
「お前が抜けたあとに、俺が入った」
「やっぱり」
カインは俺の短くなった剣を見る。
「三年前の話は聞いてる」
「そうなんだ」
「気にしてるなら、先に言っておく」
何を言われるのかと思った。
「俺は、お前の代わりになったつもりはない」
「……」
「俺は俺の実力で、このパーティーに入った」
真っ直ぐだった。
嫌な感じはしない。
「うん」
俺も頷く。
「それでいいんじゃない?」
カインの眉が少し動いた。
「怒らないのか?」
「何で?」
「俺が入ったせいで、お前は追放されたんだろ」
「それはダリオたちが決めたことだし」
ダリオが気まずそうに顔を逸らした。
「それに」
俺はカインを見る。
「三年前の俺より強かったんだろ?」
「ああ」
「じゃあしょうがないじゃん」
カインが黙る。
セラが隣から俺を見る。
「意外と大人ね」
「何だと思ってたんだよ」
「もっと根に持つタイプかと」
「持ってるよ」
「持ってるんじゃない」
「多少はな!」
ダリオが吹き出した。
ノルドも笑う。
三年前と似た空気だった。
でも、同じではない。
ダリオたちはもう、カルナで一番A級に近いパーティーになっている。
そして俺も。
三年前の俺じゃない。
「話は済んだか?」
ガレスが一枚の依頼書を机へ置いた。
「今回のA級昇格試験について説明する」
全員が机の周りへ集まる。
紙には、山脈の地図と一体の魔物の絵が描かれていた。
「試験内容は討伐だ」
ガレスの指が、その絵を叩く。
「対象は〈双頭飛竜ヴァルガ〉。A級指定魔物だ」
ダリオたちの表情が変わった。
セラも地図を見る。
俺だけ分からなかった。
「強いの?」
全員が俺を見る。
「……何?」
ダリオが苦笑する。
「相変わらずだな、お前」
「だから三年山にいたんだって」
ガレスが続ける。
「レイとセラは基本的に手を出すな。お前たちはあくまで予備要員だ」
「分かりました」
「ただし」
ガレスの声が少し低くなった。
「試験中、ダリオたちだけでは対処できない事態が起きた場合は別だ」
俺はもう一度、紙に描かれた双頭の飛竜を見る。
二つの頭。
大きな翼。
鋭い爪。
強そうではある。
「これ倒したらA級か」
「ああ」
ダリオが答えた。
「三年間、そこを目指してきた」
その顔を見れば分かった。
こいつらも遊んでいたわけじゃない。
俺が山で三年間やっていたように。
こいつらにも。
三年間があった。
「じゃあ行くか」
三年前に俺を追放したパーティーの、A級昇格試験。
まさか俺が、それを見届けることになるとは思わなかった。




