↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
7/9

第七話 必殺技、盛大に失敗しました

 午後。


 ミレアに連れられてギルドの裏へ回ると、そこには思っていたよりずっと広い訓練場があった。


 地面は固く踏み締められ、壁際には木製の人形や石の的がいくつも並んでいる。


「こっちよ」


 訓練場の中央には、大柄な男が立っていた。三十代後半くらいだろうか。太い腕に日に焼けた肌で、とりあえず強そうだった。


「バルク。実技試験をお願い」


「こいつか?」


「三年前に死亡扱いになったレイ」


「紹介の仕方おかしくない?」


 バルクが俺を見る。


「ミレアから聞いた。北の山で三年、独学で魔法を覚えたんだって?」


「はい」


 バルクは少し黙ったあと、俺の腰にある短くなった剣へ目を落とした。


「……まあいい。見れば分かるか」


 話が早くて助かる。


 少し離れた壁際では、セラが腕を組んでこっちを見ていた。


「何でお前までいるんだよ」


「見たいから」


「暇なの?」


「あなたの実力を見てから、組み続けるか決めてもいいでしょ」


「もう解散候補なの!?」


「いつでもできるわよ」


「早えよ!」


「レイ」


 ミレアに名前を呼ばれたので、俺はすぐ声を落とした。


「……はい。静かにします」


 昨日から俺だけ怒られてない?


 バルクが木製の人形を指す。


「まず身体強化だ。あれを殴ってみろ。壊す必要はないから、普段使っているくらいでいい」


「分かりました」


 人形の前まで歩く。


 三年前なら、身体強化と言われても何をすればいいのかすら分からなかった。


 でも今は、わざわざ全身へ魔力を流す必要はない。


 右足から腰へ流し、拳を振る動きに合わせて肩から腕へ繋いでいく。最後に拳へ集めれば、それだけで十分だった。


「ふっ!」


 拳が人形へ当たる。


 鈍い音と同時に木製の人形が大きく傾き、そのまま土台ごと後ろへ滑って数メートル先で止まった。


「……あ」


 ちょっと強かった。


 バルクは滑っていった人形を見てから、俺へ顔を戻した。


「今、全身を強化したのか?」


「いや。右足と腰と腕だけです」


「同時に?」


「順番に流しました。使わないところまで強化したら、魔力もったいなくないですか?」


 バルクが黙る。


 またこの顔だ。


 最近、俺が何かするとみんな似たような顔をする。


「……次は剣だ」


「はい」


 俺は腰から剣を抜いた。


 柄は普通なのに、刀身はもうバナナくらいしか残っていない。


 バルクが眉を寄せる。


「なんだそれは」


「三年間使ってたらこうなりました」


「買い替えろ」


「金ないんですよ」


 後ろからセラの声が飛んできた。


「超前衛なのに?」


「超前衛関係ねえだろ!」


「レイ」


「はい!」


 ミレア怖い。


 剣の試験はすぐに終わった。


 バルクが木剣で何度か打ち込んできたので、受けて、流して、最後の一撃だけ横へ外し、そのまま短い剣先を首元へ止める。


「そこまで」


 バルクが木剣を下ろした。


「剣も問題ない。じゃあ最後は魔法だ」


 待ってました。


 思わず口元が緩むと、それを見たセラがすぐに眉をひそめた。


「何その顔」


「何が?」


「絶対ろくなこと考えてない顔」


「失礼だな」


 バルクは訓練場の奥にある石の的を指差した。


「属性は何でもいい。あれに魔法を当ててみろ。威力を見るだけだから、無理に強くする必要はない」


「好きなのでいいんですか?」


「ああ」


 それなら、山にいる時から一度やってみたかったものがある。


 魔力をただ飛ばすんじゃない。


 手のひらに留め、高速で回転させながら中心へ押し込む。逃げようとする魔力をさらに圧縮し、その塊を直接相手へ叩き込む。


 前世で見た必殺技を、自分なりに魔法で再現する。


 螺旋……。


 いや、さすがにそのままはダメだろ。


 この世界に知っている奴はいないだろうけど、なんとなくダメな気がする。


 だったら英語にすればいい。


 螺旋はスパイラル。


 丸は……ボール。


「……スパイラル・ボール」


「何?」


「技名考えてた」


「今?」


「大事だろ」


「別に」


「大事だよ!」


 ほぼ直訳じゃねえか、という気もする。


 まあいい。


 なんかそれっぽい。


 俺は右手を前へ出し、手のひらへ魔力を集め始めた。


「……何してるの?」


 セラの声がした。


「回してる」


「それは見れば分かるわよ。なんで回してるの?」


「かっこいいから」


「バカなの?」


「ちゃんと意味もあるから!」


 手のひらの上で魔力が回り始める。


 まだ遅い。


 もっと速く。


 外へ逃げようとする魔力を押さえ込みながら、中心へ向かってさらに圧縮する。回転が速くなるほど魔力の塊は小さくなり、その代わり手のひらへ伝わる圧力がどんどん強くなっていった。


「レイ」


 さっきまでと違うセラの声が聞こえた。


「何?」


「それ、本当に大丈夫?」


「たぶん」


「たぶん!?」


 ここまで来たらやる。


 俺は右足へ身体強化を集中させ、石の的へ向かって一気に踏み込んだ。地面が蹴り出され、数十歩あった距離が一気に縮まっていく。


 右手を引く。


 せっかく名前まで考えたんだ。


 叫ばないともったいない。


「――〈スパイラル・ボール〉!」


「本当に叫ぶの!?」


 石の的へ右手を叩き込む。


 その直前だった。


 手のひらの魔力が、一気に膨らんだ。


「あ」


 まずい。



 爆発した。



 白い光に視界を埋め尽くされ、身体が後ろへ吹き飛ばされる。


 地面を二度転がって、ようやく止まった。


「いってぇ……」


 耳がキーンとしている。


 完全に失敗した。


 圧縮しすぎたのか、回転を上げすぎたのか。それとも両方かもしれない。


 身体を起こして右手を見ると、指はちゃんと五本残っていた。


「よかった……」


 続いて石の的を見る。


 そっちも残っている。


「全然当たってねえじゃん」


 技名まで叫んだのに、肝心の攻撃が的へ届いていない。


 めちゃくちゃ恥ずかしい。


「失敗した」


 誰も答えなかった。


「……あれ?」


 訓練場が妙に静かだった。


 バルクもミレアも、セラまで俺ではなく前を見ている。


 何だろうと思って振り返る。


 石の的は無傷だった。


 ただし、その手前。


 俺の魔法が爆発した場所を中心に、固く踏み締められていた地面が大きく抉れていた。


「うわ」


 思ったより深い。


「やりすぎた」


「そこなの?」


 セラがこっちへ歩いてくる。


 いつもの呆れた顔ではなく、俺の右手をじっと見ていた。


「今の、本当に自分で考えたの?」


「まあ、元になる発想はあったけど、魔法として考えたのは俺」


「魔力を回転させながら圧縮して、その状態を手のひらに維持してたわよね?」


「維持できてないよ。爆発したし」


「途中までできてたじゃない」


「でも的に当たってない」


「そういう話じゃないのよ」


 セラが俺の右手を取った。


「痛くない?」


「ちょっと痺れてる」


「見せて」


 薄い光が手を包み、痺れていた指先から少しずつ感覚が戻ってくる。


「何?」


「別に」


「もしかして心配してる?」


「次から一人で勝手に爆発されると困るだけ」


「やっぱり心配してるじゃん」


「もう一回爆発させるわよ」


「治した直後に!?」


 セラは俺の手を離すと、もう一度抉れた地面を見た。


 そして少しだけ間を置いて、俺へ顔を戻す。


「……でも、あんたすごいのね」


 思わずセラを見る。


「何その顔」


「いや、お前が普通に褒めるから」


「私だって褒める時くらいあるわよ」


「初めてじゃない?」


「撤回するわ」


「早いって!」


 後ろでバルクがようやく動き、抉れた場所まで歩いていくと、しゃがみ込んで地面の深さを確認した。


「レイ」


「はい」


「今のは失敗なんだな?」


「完全に失敗です」


「成功したらどうなる?」


「石の的に直接これを叩き込める予定です」


 バルクは石の的を見て、それから俺を見る。


「……やるなよ」


「え?」


「今日はもう絶対やるな」


「もう一回なら成功する気がするんですけど」


「やるな」


「はい」


 何でだろう。


 盛大に失敗したはずなのに、さっきより評価が上がっている気がする。


 その時、訓練場の入口から低い声が聞こえた。


「ずいぶん派手にやったな」


 振り返ると、そこにはバルクより少し年上に見える大柄な男が立っていた。


 ミレアが姿勢を正す。


「ガレスさん」


 男は抉れた地面を見たあと、俺へ視線を移した。


「こいつが例の死亡者か?」


「だから生きてますって!」


「ガレス。ここのギルド長だ」


「レイです」


「知ってる。三年前の記録も見た」


 ガレスは俺の短い剣と、訓練場にできた大穴を交互に見ると、少しだけ口元を緩めた。


「ずいぶん変わったな」


「まあ、三年あったんで」


「そうか。それなら、ちょうどいいかもしれんな」


「何がです?」


 ガレスはミレアから試験用の書類を受け取ると、それに軽く目を通した。


「明日、カルナの冒険者パーティーがA級昇格試験へ向かう」


「へえ」


「リーダーはダリオだ」


 俺の顔から笑いが消えた。



 三年前。



『悪いけど、お前もういいわ』



 俺をパーティーから外した男だ。


「今回の試験は実戦形式だ。お前の実力確認も兼ねて、予備要員として同行してもらう」


「……俺が?」


「ああ」


 山を下りてまだ間もない。


 なのに、こんなに早くその名前を聞くとは思わなかった。


 三年ぶりだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。