第六話 俺、死んだことになってました
「あなた、死んだことになってるけど」
「いや、最初からいるから」
ミレアは、まだ信じられないように俺の顔を見ている。
すると隣にいたセラが、なぜか自信ありげに口を挟んだ。
「彼、アンデッドじゃないわよ」
「そっちの疑い出てねぇよ」
「私の浄化魔法で消えなかったもの」
「……確認してたの?」
「結果的にはね」
「結果的に服まで消えたけどな」
ミレアが眉を寄せた。
「浄化したの?」
「ちょっと臭ったから」
「三年山にいたんだから多少は仕方ないだろ」
「ちょっとじゃなかったわよ」
「そんな!?」
思わず声が大きくなる。
ミレアが俺を見る。
「ギルドの中では静かにしてね、レイ」
「俺?」
「さっきから声大きい」
「……はい」
怒られた。
隣を見る。
セラは何事もなかったような顔で、壁に貼られた依頼書を眺めている。
「……ふっざけんなよ。俺が怒られたじゃねーか!」
「騒いだのあんたでしょ」
「誰のせいだよ!」
「だから静かにして」
「はい!」
今度は小声で謝った。
三年ぶりに戻ってきて、最初にギルドでやったことがこれである。
「それで」
俺は声を抑えながら受付へ向き直った。
「なんで俺、死んだことになってるんですか?」
「三年間、一度もギルドに来なかったからよ」
「それだけで?」
「それだけじゃないわ。十七歳で宿を引き払ったあと、北の山へ向かったって話があったの」
「ああ、行きました」
「行ったの!?」
「三年住んでました」
ミレアが口を開けたまま止まった。
「……住む場所じゃないのよ、あそこ」
「最初は俺もそう思いました」
「最初は?」
「慣れれば結構いいですよ。水あるし、暇なときは魔物いるし、静かだし」
「最後の二つを同じ扱いにしないで」
セラまで横から言ってくる。
「お前、山暮らししたことないだろ」
「する予定もないわ」
「意外と楽しいぞ」
「服が消えるまで着続ける生活は無理よ」
「事実がネジ曲がってるよ」
受付嬢が額を押さえた。
「とにかく、北の山はD級以下の冒険者が一人で長期間入るような場所じゃないの。しかもあなた、三年前は魔法も身体強化も使えなかったでしょう?」
「使えませんでしたね」
「だから一年経っても戻らなかった時点で行方不明扱い。そのあとも何の情報もなかったから、記録上は死亡推定になってる」
「推定ならまだ生きてる可能性あるじゃないですか」
「今まさに生きてたから困ってるのよ」
「そこは喜ぶところでしょ?」
「それは、そうね。ごめんなさい」
ミレアは机の下から古い書類を取り出した。
何枚かめくったあと、一枚で手を止める。
「あった。レイ、十七歳。D級冒険者。剣術経験あり、魔法使用不可、身体強化不可……」
「懐かしいな」
自分のことなのに、昔の人間の記録を見ているみたいだった。
三年前。
魔力が何なのかすら分からなかった頃の俺だ。
ミレアが書類から顔を上げる。
「今も身体強化は使えない?」
「使えます」
「え?」
「普通に」
ミレアの目が少し大きくなる。
「魔法は?」
「それも使えます」
「……使えるの?」
「使えるようになりました」
ミレアが黙った。
セラが得意そうに腕を組む。
「ほら。やっぱり超前衛じゃない」
「お前は剣持ってるってだけで決めただろ」
「結果合ってたじゃない」
「過程が雑なんだよ!」
ミレアは俺たちのやり取りを聞きながら、書類へ何かを書き込んだ。
「三年間で何があったの?」
「山で修行してました」
「ずっと?」
「最初の十か月くらいは全然駄目でしたけど、途中で魔力が分かってからは結構楽しくなって」
「楽しく?」
「色々試せるじゃないですか。地面からドンってやったり、手に集めて飛ばしたり、拳に集めたり」
「……誰に習ったの?」
「誰にも」
ミレアがまた止まった。
「独学?」
「いや、数多の先生方達の記録を辿ったと言いますか」
「真面目に答えて!」
「すみません。一人です」
「北の山で?」
「はい」
質問されるたびに、なぜかミレアの顔が険しくなっていく。
「何でそんな顔するんですか」
「ちょっと情報が多いのよ」
「俺、普通に修行してただけですよ」
「北の山で三年生きて、独学で魔法覚えて帰ってくるのを普通とは言わないわ」
「そう?」
山にいる間は比較する相手がいなかった。
魔法を覚えたと言っても、どのくらい使えれば普通なのかもよく分からない。
熊みたいな魔物を吹き飛ばした時は自分でも結構強くなったと思ったけど、あれが冒険者としてどの程度なのかは知らなかった。
「まあ、その確認はあとね」
ミレアが書類を横へ置いた。
「次はそっちの子」
「私?」
セラが一歩前へ出る。
「冒険者登録するんでしょう?」
「する」
「名前は?」
「セラ」
「年齢」
「十九」
「使える魔法は?」
「治癒、浄化、解毒、結界。あとは普通の攻撃魔法も少し」
ミレアの筆が止まった。
「……ずいぶん多いわね」
「そう?」
「所属していたところは?」
「教会」
「聖職者?」
セラが少しだけ嫌そうな顔をした。
「聖女候補」
「えっ」
「落ちたけど」
ミレアが顔を上げる。
「能力で?」
「性格で」
「自分で言うんだ」
「納得はしてないけど」
俺は吹き出しそうになった。
「髪型の助言しただけだもんな」
「黙って」
「前だけ残すから余計目立つって――」
「レイ」
「はい」
杖を向けられたので黙った。
ミレアは何かを察したらしく、それ以上は聞かなかった。
「とりあえず、セラは新規登録。最初はF級からになるけど、能力を見ればすぐ上がると思う」
「分かった」
「それとレイ」
「はい」
「あなたは死亡扱いを解除すること自体はできる。ただ、三年間活動記録がないから、そのままD級へ戻すわけにはいかないの」
「じゃあF級から?」
「それも違う。今の実力を確認して、適正なランクに戻す」
「どうやって?」
「実技試験」
ミレアは机の下から木札を一枚取り出し、俺の前へ置いた。
「ちょうど午後から訓練場が空いてる。剣術と身体強化、それから魔法を見せてもらうわ」
「全部?」
「三年前から変わったんでしょう?」
「まあ、かなり」
セラが俺を見る。
「どのくらい強いの?」
「サイバイマ……いや、知らない」
「知らない?」
「山じゃ比較する相手いなかったから」
「魔物は?」
「いたよ」
「どのくらいの?」
「でかい熊とか」
「倒した?」
「倒した」
「どうやって?」
「地面から吹っ飛ばして、魔力を溜めてドーンって」
セラが少し黙った。
「説明下手ね」
「見れば分かるって!」
ミレアが木札を俺の方へ押した。
「じゃあ見せてもらいましょう」
「いいですね」
三年間。
強くなった実感はある。
でも、それが冒険者の中でどの程度なのかは分からない。
俺は木札を受け取った。
「俺も今、自分がどれくらい強いのか知りたかったんですよね」
ミレアが少し笑った。
「じゃあ午後、訓練場で」
隣ではセラが、妙に楽しそうな顔をしていた。
嫌な予感がする。
「何だよ」
「別に」
「その顔で別には無理あるだろ」
「早く見たいだけ」
「何を?」
セラが俺の短くなった剣を見る。
「超前衛の実力」
「まだそれ言ってんのかよ」




