第五話 残念聖女とパーティーを組むことになった
「いや待て。お前、俺がどれくらい戦えるか知らないだろ」
「剣持ってるじゃない」
「それだけ!?」
セラは俺の腰を見る。
三年間研ぎ続けたせいで、剣は元よりだいぶ短くなっている。
「俺の剣、こんなちっこいんだぞ」
「何それ」
「俺が聞きたいわ」
セラは少し考えてから、なぜか納得したように頷いた。
「でも剣持ってるじゃない」
「だから、それだけで前衛判定すんなって!」
「前で戦うんでしょ?」
「まあ戦うけど」
「ほら」
「雑すぎるだろ!」
セラは俺の剣をもう一度見た。
「むしろそれだけ短いのに持ってるってことは、かなり近くで戦うんでしょ?」
「……まあ」
「超前衛じゃない」
「どこを見て判断した!?」
「剣」
「だから剣しか見てねえじゃん!」
セラは何がおかしいのか分からないという顔をしている。
本当にこいつ、聖女候補だったのか。
「そもそも、お前は俺と組んで何したいんだよ」
「冒険者」
「それは聞いた」
「聖女選定に落ちたから、教会にいてもやることないのよ」
「追い出されたの?」
「追い出されてない。いると気まずいだけ」
「自分で原因作ってるじゃん」
「うるさい」
セラは杖を肩へ乗せる。
「治癒も浄化も使えるし、結界も張れる。でも一人で魔物を殴る趣味はないの」
「だから前衛が欲しいと」
「そう」
「俺じゃなくてもよくない?」
「他の人、面倒くさい」
「俺は?」
「今のところそんなに面倒くさくない」
「会って一時間も経ってないからな」
「それに」
セラが俺を上から下まで見る。
「浄化した時、結構魔力あったし」
「分かるの?」
「分かるわよ。聖女候補だったんだから」
「落ちたけど」
「それまだ言う?」
杖の先がこっちを向いた。
「やめろ。次は何消されるか分からん」
「消してない。浄化しただけ」
「服が消えたら同じなんだよ」
とはいえ。
考えてみれば、条件は悪くない。
俺は前で戦える。
セラは治癒ができる。
浄化も結界もある。
三年前のパーティーでは、治療役がいないせいで怪我のたびに高い薬を買っていた。
そこだけでもかなり助かる。
「報酬は?」
「半分ずつ」
「荷物は?」
「自分の分は自分で持つ」
「夜番は?」
「交代」
「怪我したら?」
「治す」
「俺が死にそうになったら?」
「治す」
「死んだら?」
「無理」
「そこは奇跡起こせよ、元聖女候補」
「死んでから文句言わないで」
「言えねえよ」
思ったよりまともだった。
口以外は。
「まあ……いいか」
「何が?」
「組んでも」
セラが少しだけ笑った。
「最初からそう言えばいいのよ」
「お前が勝手に決めたんだろ」
「結果同じじゃない」
「過程も大事なんだよ」
「細かい男ね」
「お前が雑なんだよ」
こうして。
三年間一人だった俺に、いきなり仲間ができた。
しかも元聖女候補。
正確には、性格で落ちた残念聖女。
かなり不安だ。
「じゃあギルド行くわよ」
「今から?」
「冒険者になるんでしょ」
「まあな」
「私も登録する」
「したことないの?」
「ない」
「聖女候補って冒険者じゃないんだ」
「教会所属だったから」
なるほど。
セラは完全な新人らしい。
「じゃあ俺が先輩だな」
「三年間山にいたのに?」
「その前二年やってたから!」
「じゃあ先輩、案内して」
「急に素直だな」
「場所知らないもの」
「そこは知らないんだ」
俺たちは並んで歩き出した。
三年前と変わらない通りを進む。
パン屋。
武器屋。
道具屋。
見覚えのある店がいくつも残っている。
その先に、大きな建物が見えた。
剣と盾の看板。
冒険者ギルド。
「懐かしいな」
「知り合いいる?」
「受付の人くらい」
「友達は?」
「……」
「何よ」
「聞くな」
三年前。
一緒にやっていた連中には追い出された。
今どこにいるかも知らない。
別に会いたいとも思わない。
でも、少しだけ気にはなる。
ギルドの扉を開けた。
昼前だからか、中にはそこそこ人がいた。
依頼掲示板を見る奴。
受付へ並ぶ奴。
酒を飲んでいる奴までいる。
「へえ」
セラが周囲を見る。
「思ったより普通ね」
「何だと思ってたんだよ」
「もっと血まみれの人とかいるのかと」
「たまにいるけど」
「いるんだ」
俺は受付へ向かった。
カウンターには、見覚えのある女性が座っている。
三年前とほとんど変わっていない。
俺が十五歳で登録した時、
『冒険者、あんまり向いてないと思う』
と言ったミレアだ。
「久しぶりです」
声をかける。
ミレアが顔を上げた。
最初は普通だった。
でも、俺の顔を見た瞬間。
動きが止まった。
「……レイ?」
「はい」
数秒。
ミレアは俺をじっと見た。
「久しぶりです」
「本当に?」
「何がですか」
「レイなの?」
「そうですけど」
ミレアが立ち上がった。
その顔には、驚きというより困惑が浮かんでいる。
「どうしたんですか?」
俺が聞くと、ミレアはしばらく言葉を探した。
そして。
「あなた、死んだことになってるけど」




