第四話 残念聖女、性格で落ちたらしい
「……聖女って落ちるの?」
「落ちるわよ」
セラはものすごく不機嫌そうに答えた。
「いや、だって聖女って選ばれるもんじゃないの?」
「だから選ばれなかったの」
「何したんだよ」
「別に何もしてない」
「絶対何かしてるだろ」
セラが睨んできた。
「失礼ね。最後の選定まで残ったのよ」
「最後まで?」
「治癒、浄化、解毒、結界、全部合格。魔力量も候補者の中で一番だった」
「めちゃくちゃ優秀じゃん」
「でしょ?」
セラが少しだけ胸を張る。
そこだけ聞けば、どう考えても聖女だ。
「じゃあ何で落ちたの?」
「最後に面談があったの」
「面談?」
「聖女は民の希望になる存在だから、能力だけじゃ駄目なんだって。慈愛とか、品格とか、そういうのを見るらしいわ」
「なるほど」
なんとなく嫌な予感がした。
「何聞かれた?」
「最初は普通よ。困っている人がいたらどうしますか、とか」
「なんて答えた?」
「助ける」
「普通じゃん」
「実際助けるし」
それはさっき見た。
転んだ子供を見つけた瞬間、迷わず治していた。
「次は?」
「空腹で泣いている孤児に何と声をかけますかって」
「おお。聖女っぽい質問」
「だから、『泣いてても腹は膨れないから、とりあえずこれ食べなさい』って」
「……まあ」
「何よ」
「間違ってはないな」
「でしょ?」
「でも言い方は聖女っぽくない」
「食べさせる方が大事じゃない」
正論だった。
多分こいつ、根本的に聖女という職業の見せ方を理解していない。
「それだけで落ちたの?」
「そんなわけないでしょ」
「まだあるのかよ」
「そのあと、面接してた神父がずっと難しい話してたの」
「うん」
「慈愛とは何か、民衆の前に立つ者としてどうあるべきか、とか」
「まともじゃん」
「長かったのよ」
セラが心底嫌そうな顔をする。
「それで途中から、話より髪の毛が気になってきて」
「髪?」
「頭の上はほとんどないのに、両側だけちょっと残して横から持ってきてたの」
「ああ……」
だいたい想像できた。
「風が入るたびに、その髪がふわって浮くのよ」
「見るなよ」
「目の前なんだから見るでしょ」
「それで?」
「我慢してたわよ」
「その言い方だと我慢できなかったんだな」
「最後に『何か質問はありますか』って聞かれたから」
セラは悪びれもせず続けた。
「その髪型はやめた方がいいわよ。両側だけ残すと余計目立つから。全部剃った方がまだまし」
俺は立ち止まった。
「……本人に?」
「本人に」
「聖女選定の最終面談で?」
「そう」
「偉い神父?」
「かなり偉い人だったみたい」
堪えようとした。
無理だった。
「ぶはっ!」
「笑うな!」
「だってお前!」
「本当のことじゃない!」
「本当でも言わなくていいことあるだろ!」
「聞かれたから答えただけよ!」
「髪型についてじゃねえよ!」
腹が痛い。
三年間、山で一人だったせいもあるのかもしれない。
こんなに笑ったのは久しぶりだった。
セラは本気で腹を立てている。
「しかも他の神官まで笑ったのよ。あの人が可哀想じゃない」
「原因お前だからな?」
「私は改善案を出しただけ」
「余計なお世話って言うんだよ」
セラは納得していない。
「で、それで落とされたの?」
「翌日、不適格って言われた」
「理由は?」
「聖女としての品格に重大な懸念があるって」
「めちゃくちゃ妥当じゃん」
「どこがよ!」
「全部だよ!」
セラが杖で俺の脛を軽く叩いた。
「痛っ! 暴力まで追加されたぞ!」
「うるさい」
でも、少し分かった。
能力は本物。
困っている人間を見れば助ける。
なのに口が悪い。
遠慮がない。
余計なことまで言う。
「残念だな」
「何が?」
「いや、かなり聖女なのに」
「だったら残念じゃないでしょ」
「中身が」
「殴るわよ」
「もう殴ってるだろ」
また杖が上がったので、一歩離れた。
セラはしばらく俺を睨んでいたが、やがて小さく息を吐いた。
「それより、あんたは?」
「俺?」
「三年間も山にいたんでしょ。これからどうするの?」
「とりあえず冒険者に戻るつもり」
「一人で?」
「まあ、そのつもりだけど」
セラが俺をじっと見る。
「何だよ」
「ちょうどいいわ」
「何が?」
セラは杖を肩へ乗せた。
「あんた、前で戦えるんでしょ?」
「戦えるけど」
「私は後ろから治せる」
「そうだな」
「なら決まりね」
嫌な予感がした。
セラが当然のように言う。
「私と組みなさい」




